健診部
医療関係者の皆様へ
疾患予測ツールの開発
都市部地域住民を対象としたコホート研究(吹田研究)で、基本的な循環器病の危険因子について一通り論文化しました。例えば虚血性心疾患と脂質値がどの程度発症リスクに寄与しているかは分かりますが、自分がどの程度発症しやすいかを予測するためには、他の危険因子もみていかなくてはなりません。そこで、疾患に関係のあった危険因子を投入して、疾患予測ツール(リスクスコア)の開発をしております。米国のFramingham Heart Studyでは、FHS Primary Risk Functionsとして循環器病の予測ツールを紹介しております。吹田研究は、都市部地域住民を性年代階層別無作為によりコホート対象者が抽出されました。都市部人口は全国の9割を占めており、吹田研究の疾患予測ツールは日本の代表的なものといえます。
吹田脳卒中スコア(10年間による冠動脈疾患発症リスクスコア)
健診や外来受診時の検査項目程度で、10年後の脳卒中発症の予測確率が可能である。
モデル因子:年齢、喫煙、収縮期血圧、空腹時血糖、慢性腎障害、心房細動
脳卒中発症予測確率(10年間):1%~18.6%
吹田スコア(10年間による冠動脈疾患発症リスクスコア)
健診や外来受診時の検査項目で、10年後の冠動脈心疾患発症の予測が可能である。
日本動脈硬化学会では動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版に吹田研究の成果を採択し、「吹田スコアによる冠動脈疾患発症確率と脂質管理目標値」を簡単に求めることができるようになりました。
吹田心房細動スコア(10年間による心房細動罹患リスクスコア)
健診や外来受診時の検査項目程度で、10年後の心房細動の予測が可能である。
モデル因子:性、年齢、循環器リスク(収縮期高血圧、過体重以上[BMI≥25㎏/㎡]、心房細動以外の不整脈、虚血性心疾患)、生活習慣・血清脂質(過剰飲酒[≥2合/日]、喫煙、non-HDLC*[130-189mg/dL])、心雑音または弁膜症
心房細動罹患予測確率(10年間):0.5%未満~27%
10年後の心房細動予測確率を示すスコアファイル【xlsx:19KB】
吹田循環器病スコア(10年間による循環器病発症リスクスコア)
健診程度の簡単な検査結果と心電図検査で10年後の循環器病(冠動脈疾患+脳卒中)発症の予測確率が求められる。
モデル因子:性、年齢、血圧、non-HDLC値*、HDLコレステロール値、喫煙、糖尿病、蛋白尿、心電図検査(心房細動、左室高電位)
循環器病発症予測確率(10年間):1%以下~25%(心電図検査なし、心電図検査有で26%)
*:Non-HDLC=[総コレステロール値]―[HDLコレステロール値]
心不全重症化予防事業
この度、吹田市と吹田市医師会との共同事業として心不全重症化予防対策を吹田市で開始しました。心不全は様々な循環器病の終末像であるにもかかわらず、地域住民を対象とした心不全の疫学研究は極めて少ないのが現状です。そこで、潜在性心不全の予測ツールを開発すると全ての心疾患と脳梗塞がリスク因子となり、地域住民を対象とする場合に使いにくいことが分かり、さらに上流域の比較的寄与の大きい冠動脈疾患と心房細動の予測ツールを用いることにしました。吹田市で行われる健診時に同意された受診者に対して、健診の残余血清を用いてNT-proBNPも併せて、コメントを付けて結果票を受診者に返却し、健康手帳に挟んでもらい紙ベースのPersonal Health Recordとして活用して頂くことができます。さらに、結果が要医療であれば医療連携を、要指導であれば保健指導を行います。保健指導には我々が開発した生涯健康支援10(Lifelong Health Support10)を用いて行います。エビデンスが極めて少ない非薬物介入研究の成果を挙げて行きたいと考えております。
頸動脈エコー検査を用いた循環器病発症予測開発
「超音波による頚動脈病変の標準的評価法 2017」ガイドラインでは、有効性による分類が一般住民に対して「C2:根拠がないので勧められない」、動脈硬化性疾患に対して「C1:勧められるだけの根拠が明確でない」となっています。そこで、吹田研究を用い、①全頚動脈のうち循環器病発症リスクを予測しやすい測定部位を決め、総頚動脈の最大内膜中膜複合体厚が1.1mm超であることが分かりました。それを用いて②頚動脈プラーク進展が循環器病発症リスクの要因となることを、世界で初めてJ Am Heart Assoc (2018年)に報告しました。プラーク進展が最も無かった群の特徴は、体重を増やさない、服薬順守(降圧剤、スタチン)、禁煙、適正飲酒でした。これからは頚動脈硬化症の予測リスクをはじめ、動脈硬化性疾患予防の為のエビデンスを出して参ります。
口腔健康と循環器疾患
大阪大学歯学部と新潟大学歯学部との共同研究で、吹田研究対象者に口腔内診察、唾液検査、咀嚼能力測定、最大咬合力を調べています。断面研究では、唾液性炎症性サイトカインが歯周病および頸動脈硬化症のマーカーになりうる、歯科治療サービスの定期的な利用が咀嚼能力の維持につながる、咀嚼能力の低下が頸動脈プラーク進展になりうることなどを示してきました。さらに、平均4年後に再び同様の検査を行い、以下の縦断研究も行いました:定期的な歯科受診が咀嚼能力の低下予防に有効、歯周病の進行により歯数が変わらなくても咀嚼能力が低下する。さらに循環器病発症との追跡研究を行いました:咀嚼機能が低いと循環器病発症リスクが高くなる。
スタッフ紹介
特任部長 | 小久保 喜弘 | グラスゴー大学客員教授、大阪大学大学院医学系研究科招聘教授、東京医科歯科大学非常勤講師 |
---|---|---|
レジデント | 鹿島 レナ | 大阪大学大学院医学系研究科循環器疾患病態解明・治療開発学連携分野 大学院生 |
非常勤研究員 | 寺本 将行 | カリフォルニア大学サンフランシスコ校疫学/生物統計学部 |
非常勤研究員 | Arafa Ahmed | ベニ・スエフ大学医学部 講師(エジプト) |
非常勤研究員 | 高 琪 | 医師(神経内科) |
非常勤研究員 | 阪井 幸恵 | 保健師 |
非常勤研究員 | 川内 はるな | 保健師 大阪大学大学院医学研究科社会医学講座環境医学 大学院生 |
非常勤研究員 | 前田 さおり | 歯科衛生士 |
非常勤研究員 | 野坂 咲耶 | 栄養士(管理栄養士) |
非常勤研究員 | 安井 裕香 | 栄養士(管理栄養士) |
客員部長 | 磯 博康 | 国立国際医療研究センター国際医療協力局 グローバルヘルス政策研究センター長 |
客員部長 | 二宮 利治 | 九州大学大学院医学研究院 衛生・公衆衛生学分野 教授 |
客員部長 | 山岸 良匡 | 筑波大学医学医療系社会健康医学 教授 |
客員研究員 | 荒木 通啓 | 医薬基盤健康栄養研究所・AI健康・医薬研究センター 副センター長 |
客員研究員 | 小切間美保 | 同志社女子大学生活科学部食物栄養科学科 教授 |
客員研究員 | 辻 雅弘 | 京都女子大学 家政学部 食物栄養学科 教授 |
客員研究員 | 内田 和宏 | 中村学園大学栄養科学部 栄養科学科 准教授 |
客員研究員 | 松本 知沙 | 東京医科大学 検診予防医学センター 講師 |
客員研究員 | 土肥 智晴 | 大阪大学大学院医学系研究科循環器内科 未来医療開発部 特任助教 |
客員研究員 | Sheerah Haytham | キングサウド大学 教育研究室長(サウジアラビア) |
客員研究員 | 渡邊 英美 | 管理栄養士、帝塚山大学現代生活学部食物栄養学科准教授准教授、同志社女子大学非常勤講師 |
客員研究員 | 李 嘉琦 | 大阪大学大学院医学研究科社会医学講座公衆衛生学 |
客員研究員 | 小林 貴 | 国立国際医療研究センター国府台病院循環器内科 医師 |
客員研究員 | 杉田 祐子 | 大阪大学蛋白質研究所 特任助教 |
派遣研修 | 山本 昌輝 | 医薬基盤健康栄養研究所 AI健康・医薬研究センター |
派遣研修 | 井上 舞 | 医薬基盤健康栄養研究所 AI健康・医薬研究センター |
派遣研修 | 高重 道雄 | 医薬基盤健康栄養研究所 AI健康・医薬研究センター |
派遣研修 | 井上 茂雄 | 医薬基盤健康栄養研究所 AI健康・医薬研究センター |
非常勤職員 | 看護師、臨床検査技師、クラーク、システムエンジニア、研究補助員 | |
派遣研修 | 公衆衛生学実習生6名 大阪大学医学部4年 |
最終更新日:2022年09月05日