広報活動
リポ蛋白(a)が動脈硬化の全過程に関与 50mg/dL以上でリスク上昇
国循が日本で初めて解明
― 都市部地域住民を対象とした「吹田研究」の成果 ―
令和8(2026)年10月7日
国立循環器病研究センター
国立研究開発法人国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)健診部の小久保 喜弘 特任部長らは、都市部地域住民を対象とした吹田研究注1で、3272名を中央値11.5年間観察して「血液検査でわかる血清リポ蛋白(a)注2の数値が高いと、首の血管(頚動脈)にプラーク(酸化された脂肪の塊)がたまって壁が厚くなり、血管が狭くなりやすい」という一連の関係性を、日本で初めて明らかにしました。
本研究成果は、欧州心臓病学会の英文誌European Journal of Preventive Cardiology注4電子版に2026年10月7日で公開されました。
従来の危険因子とは独立して脳卒中・心疾患を招くリポ蛋白「Lp(a)」と、人種差の課題
近年、悪玉コレステロール(LDL)に似た脂質粒子「リポ蛋白(a)[以下Lp(a)]」の高値が、従来の危険因子とは独立して冠動脈疾患や脳卒中のリスクを高める残余リスク(従来の危険因子では説明しきれない要因)として注目されています。血清中のLp(a)濃度は主に遺伝で概ね決まり、また、将来の循環器病のなりやすさを予測する上で、頚部超音波検査による頚動脈プラーク注3や狭窄の評価は極めて重要です。しかし、Lp(a)と頚動脈プラーク進展との関連については、これまで一貫した成果が得られていませんでした。さらに、Lp(a)濃度や動脈硬化との関連には人種差があり、東アジア人は欧米人に比べLp(a)濃度が低い傾向にあります。そのため、東アジア人においてどのLp(a)値から動脈硬化のリスクが高まるのか、明確な基準がこれまで示されていないことが課題となっていました。
Lp(a)が「50mg/dL以上」で脳卒中・心筋梗塞の引き金となる動脈硬化リスクが急増
本研究は吹田研究参加者のうち、調査時に循環器病の既往がなく、頚動脈プラークを認めなかった3,272名(平均年齢58.0歳、女性57.9%)を対象に1995年から2004年の健診時点と、その後2016年6月まで2年ごとに頚部超音波検査を行い、頚動脈(首の動脈)に形成されるプラークと、血清中のLp(a)との関連を検討しました。頚動脈プラークは血管の壁の厚さ(IMT)が1.7mm以上の場合、またプラーク発生後に血管が50%以上狭くなった場合を「頚動脈狭窄への進展」と定義しました。Lp(a)値を4つの群に分類し、中央値11.5年にわたり追跡調査を行いました。その結果、1,432名で新たに頚動脈プラークが発生し、Lp(a)が「50 mg/dL以上」の高値群において、以下の3つのリスクが有意に高まることが明らかになりました。
① プラークの発生リスクが約1.27倍
Lp(a)が15mg/dL未満の群と比較して、50 mg/dL以上の群ではプラークの新規発生リスクが有意に高いことが示されました。
② 血管の壁が厚くなる進行速度が速い
Lp(a)が高い群では、年間あたりの最大IMT(血管の壁の厚さ)増加量が0.014mm大きく、動脈硬化の進行速度が速いことが判明しました。
③ 血管が狭くなる(狭窄)リスクが約2.3倍
プラークが発生している人において、頚動脈狭窄に進展するリスクが、Lp(a)高値群は15mg/dL未満の群に比べ約2.3倍高いことが示されました。
今後の展望
本研究からは、従来の生活習慣病リスクとは独立して、血清中Lp(a)値「50 mg/dL以上(国民成人の5%に相当)」が頚動脈の動脈硬化の初期段階から狭窄に至るすべての段階において、一貫して関連することが明らかになりました。これまで基準が曖昧だった東アジア人における新たなリスク指標となる可能性を示しており、隠れた高リスク者の早期発見や、開発が進む新規治療薬への応用に期待がかかります。
≪参考≫
注釈
注1:吹田研究
吹田研究は、国立循環器病研究センターが1989年より実施しているコホート研究(研究対象者の健康状態を長期間追跡し、病気になる要因等を解析する研究手法)で、性年代階層別に無作為に抽出した大阪府吹田市民を対象としています。循環器病の危険因子、動脈硬化指標、生活習慣などを長期的に追跡し、循環器病予防に資するエビデンスの創出を目的としています。その集大成として冠動脈疾患のリスクスコア「吹田スコア」、「脳卒中リスクスコア」、「心房細動リスクスコア」などがあります。
注2:リポ蛋白(a)[Lp(a)]
Lp(a)は、LDLに類似した構造を持ち、アポリポ蛋白(a)を含むリポ蛋白です。冠動脈疾患や脳卒中などの循環器病リスクと関連することが報告されています。血清中のLp(a)濃度は主に遺伝で概ね決まり、生活習慣などの影響をあまり受けず、生涯を通じてあまり変わりません。
注3:頚動脈IMT、頚動脈プラーク、頚動脈狭窄
頚動脈IMTは頚動脈壁の厚さを表す指標であり、頚動脈プラークは局所的な動脈硬化性病変を示し、循環器病発症の予測因子に関係することがわかり、頚動脈狭窄は動脈硬化の進展により血管内腔が狭くなった状態を指し、循環器病発症リスクに関係しておりました。
注4:European Journal of Preventive Cardiology
European Journal of Preventive Cardiologyは、欧州心臓病学会の予防循環器領域を代表する国際英文誌です。エルゼビア社(Scopus)によると、CiteScore(サイトスコア)16.1:疫学(Epidemiology)分野:6位 / 173誌中(上位3%);循環器(Cardiology and Cardiovascular Medicine)分野:14位 / 409誌中(上位3%)で、IFは10.0です。
発表論文情報
著者 :Teramoto M, Kokubo Y, Kato Y, Shinohara S, Khairan P, Nakao YM, Masui J, Teramoto K, Koga M, Kataoka H.
題名 :Lipoprotein(a) and the Continuum of Carotid Atherosclerosis from Plaque Initiation to Luminal Stenosis: The Suita Study
掲載誌:European Journal of Preventive Cardiology
DOI :10.1093/eurjpc/zwag443
掲載日:2026年10月7日
謝辞
本研究は、吹田市、吹田市医師会、吹田市保健センター、ならびに国立循環器病研究センター健診部の関係者の皆様のご協力により実施されました。また、吹田研究に長年ご参加いただいている地域住民の皆様に深く感謝申し上げます。本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業、国立循環器病研究センター循環器病研究開発費、日本健康研究推進機構、日本科学技術振興機構、厚生労働科学研究費補助金からの研究資金により実施されました。また、本研究はイーライリリー・アンド・カンパニーから資金提供を受け、同社との共同研究として行われました。
【報道機関からのお問い合わせ】
国立研究開発法人国立循環器病研究センター 企画経営部広報企画室
TEL: 06-6170-1069 (21120) MAIL: kouhou@ml.ncvc.go.jp
最終更新日:2026年10月07日
