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ゲノム医療支援部

診療科等の概要
家族性高コレステロール血症          (Familial Hypercholesterolemia: FH)について

 

病気について

コレステロールは、悪玉と呼ばれるLDL、および善玉と呼ばれるHDLという小さな粒子に乗って、血液中を運ばれています(本ページの後半の図4を参照してください)。LDLは、肝臓の表面にあるLDL受容体という蛋白に結合して、肝臓の中に取り込まれ、代謝されます。家族性高コレステロール血症(FH)は、生まれつき血液中のLDLコレステロール(Low density lipoprotein cholesterol:LDL-C)が増加する病気です。LDL受容体などのコレステロールの代謝に関わる遺伝子に変異があるため、血液中にLDL-Cが沢山溜まってしまいます。遺伝子は、父・母から由来する1つずつ合計2つを有していますが、両方に遺伝子の配列の変化(バリアントといいます)がある場合を「ホモ接合体」、どちらか一方のみにバリアントが認められる場合を「ヘテロ接合体」とよびます(図2)。「ホモ接合体」患者さんは36万人に1人以上、「ヘテロ接合体」は300人に1人程度であり、日本で40万人以上の患者さんがいるとされており、様々な遺伝性代謝疾患の中でも最も頻度が高い病気です。

図1 動脈硬化の起こり方

図2 FH患者さんの遺伝形式

症状について

ヘテロ接合体の患者さんでは、血液検査で高LDL-C血症を認めます。またコレステロールが蓄積することで、角膜輪や、肘や膝などに黄色腫と呼ばれるできものやアキレス腱の肥厚(図3)を認めることがあり、これらは10歳台後半から現れ30歳までに半分の方に現れます。また、LDLが変性し血管に取り込まれてしまうことにより動脈硬化はおこります(図1)。ですのでFHの患者さんはLDL-Cが高い状態が続くために、若いころから動脈硬化が起きやすくなります。特に狭心症、心筋梗塞といった冠動脈疾患を、男性で30歳以降、女性で50歳以降と早期より発症することが知られており、動脈硬化性疾患の予防を目的とした早期からのしっかりしたLDL-C低下治療が必要です。

ホモ接合体の患者さんでは、通常総コレステロール450mg/dL以上の著明な高コレステロール血症を呈し、幼少期より黄色腫、動脈硬化症の進行を認め、30歳までに冠動脈疾患、突然死を引き起こすことが知られています。重篤な動脈硬化疾患を合併するため強力なLDL-C低下治療が必要ですが、既存の薬物療法だけでは不十分となることも多く、後述のLDLアフェレシスを必要とする場合確定診断には遺伝学的検査が有用です。

ホモ接合体の患者さんでは、通常総コレステロール450mg/dL以上の著明な高コレステロール血症を呈し、幼少期より黄色腫、動脈硬化症の進行を認め、30歳までに冠動脈疾患、突然死を引き起こすことが知られています。重篤な動脈硬化疾患を合併するため強力なLDL-C低下治療が必要ですが、既存の薬物療法だけでは不十分となることも多く、後述のLDLアフェレシスを必要とする場合確定診断には遺伝学的検査が有用です。

図3アキレス腱の肥厚

診断について

FHの診断は、高LDL-C血症、アキレス腱肥厚や皮膚黄色腫、家族歴で診断をします。
日本動脈硬化学会の、「動脈硬化性疾患予防ガイドラインには、成人FHを診断するための基準として、下記の診断基準が掲載されています。

  1. 高LDL-C血症(未治療時のLDL-C 180mg/dL以上)
  2. 腱黄色腫(手背、肘、膝などの腱黄色腫あるいはアキレス腱肥厚)あるいは皮膚結節性黄色腫
  3. FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(2親等以内の血族)

●2項目目以上を満たす場合に FH と診断する。
●2項目以上を満たさない場合でも、LDL-C が 250 mg/dL 以上の場合、あるいは2 または3 を満たしLDL-C が 160 mg/dL 以上の場合はFH を強く疑う。
● FH ホモ接合体が疑われる場合は遺伝学的検査による診断が望ましい。診断が難しい FH ヘテロ接合体疑いも遺伝学的検査が有用である。
● FH と診断した場合、家族についても調べることが強く推奨される。

遺伝学的検査について

上記のように遺伝学的検査がFHの診断確定に使用できることが明記されました。FHの原因となるのは、LDL受容体(LDLR)のほか、Proprotein Convertase Subtilisin/Kexin type 9(PCSK9)、アポリポ蛋白質B-100(アポB-100)などの遺伝子のバリアントで、いずれもLDL-CがLDL受容体に取り込まれる過程において重要な役割を果たす蛋白です。臨床診断されたFH(ヘテロ接合体)を疑う症例の5-8割で、上記候補遺伝子上にFHの原因となるバリアントが確認されています。

1)LDL受容体(LDLR)
FHの大部分はLDL受容体の遺伝子変異が原因です。
2)PCSK9
LDL受容体を分解する蛋白で、機能獲得型(gain of function)の変異はLDL受容体を減少させ、その結果、高LDL-C血症をきたします。
3)アポB-100(APOB)
LDL受容体に対するリガンド(受容体に結合する際に必要)であるアポB-100の遺伝子バリアントでもLDL受容体を介したLDL-Cの取り込みが低下するために高LDL-C血症をきたします。白人では頻度が高いですが、日本人はじめ他民族では頻度が低いと言われています。

当院ではLDL受容体(LDLR)、PCSK9の遺伝子検査を施行しています(ホモ接合体が疑われる方は 2022年4月より保険適用内で検査できるようになりました)。
問い合わせ先:電話(代表)06-6170-1070 (担当:野口、槇野)、ファックス06-6170-1782

治療方法

早発性冠動脈疾患など動脈硬化症の発症および進展の予防のため、早期診断・早期治療と厳格な治療が重要です。食事療法に加えて、喫煙・肥満などの動脈硬化の危険因子を避けることが必要です。成人FH(15歳以上)ヘテロ接合体の患者さんのLDL-Cの管理目標値は1次予防(まだ冠動脈疾患を発症されていない場合)で100 mg/dl未満、2次予防(冠動脈疾患をすでに発症されて再発予防の場合)で70 mg/dl未満とされていますが、生活習慣の改善のみではLDL-Cを目標域まで低下させることは困難な場合が多く、成人FHヘテロ接合体患者さんには以下のような治療を行います。

  1. 薬物療法
    FH患者さんには、肝臓でコレステロール合成を阻害するスタチンと呼ばれる薬が第一選択です。スタチンは初期用量から使用し、LDL-C値、副作用発現を観察しながら必要に応じて増やします。FH患者さんでは、スタチンを増やしても目標のLDL-C値に届かない人も多いです。その場合、スタチンに加えて、他の作用を持つ薬を使用します。コレステロール吸収阻害剤であるエゼチミブを併用することが多く、他にも胆汁酸吸着レジン(陰イオン交換樹脂)であるコレスチラミンやコレスチミド、あるいはプロブコールなどの治療薬剤を併用することもあります。
    上にあげた治療薬剤は飲み薬ですが、近年になりPCSK9阻害薬という自己注射薬も登場し、強力に血中のLDL-Cを低下させることが出来るようになりました。用法は2週間に1回、あるいは4週間に1回、皮下注射となっています。
    ホモ接合体患者さんは、これらの薬を使ってもLDL-C値が低下しない場合もあり、その際、MTP阻害薬、そしてLDLアフェレシス治療が必要になります。

    図4 コレステロール代謝
    図5 お薬とその作用部位
  2. LDLアフェレシス療法
    FHホモ接合体、および薬物を使用してもLDL-C値が170 mg/dL以下に低下せず、明らかな冠動脈硬化を有するFHヘテロ接合体の患者さんに対しては、体外循環により血中のLDL-Cを直接取り除くLDLアフェレシスが保険適応となります。小児患者さんにおいても発達や発育に影響が無く安全に実施可能で、皮膚黄色腫のみならず動脈硬化性病変の進展抑制や改善が知られています(図6)。またLDL-Cの低下のみならず、細胞接着因子の発現抑制、凝固因子の低下による血栓形成の抑制、炎症性サイトカインの除去などを介した抗動脈硬化作用が報告されています。
    図6 二重膜濾法で使用する機械

参考:日本動脈硬化学会(編): 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版. 日本動脈硬化学会, 2022
*本ページで掲載しているイラスト・図・写真は前国立循環器病研究センター研究所病態代謝部部長の斯波真理子先生から提供されたものを使用しています。

最終更新日:2022年10月24日

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