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心臓外科

対象疾患・治療法
冠動脈バイパス術

冠動脈バイパス術(Coronary artery bypass grafting: CABG)

冠動脈の狭窄や閉塞により引き起こされる狭心症や心筋梗塞に対して行われる手術です。当センターでは人工心肺装置を使用せずに心臓を動かしたままCABGを行う方法であるOff-pump CABG (OPCAB)を標準術式としており、CABGの90%以上はOPCABを用いております。また2000年から2017年までに2000例以上のOPCABを施行してきた豊富な実績があります。高度の狭心症や心筋梗塞では緊急手術が必要なことも多くありますが、当センターではハートチームによる24時間体制が充実しており、いつでも緊急のCABGを行う体制が整っております。 通常の動脈硬化による冠動脈狭窄や閉塞のみならず川崎病後遺症の冠動脈瘤による冠動脈の狭窄や閉塞に対してもCABGを施行しており、小児の患者様においてもCABGを施行してきた実績があります。

上記以外の冠動脈の疾患(冠動脈瘤、冠動脈起始異常)に対しても外科手術を施行しておりますのでお気軽にスタッフにご連絡ください。


図1 当センターでの冠動脈バイパス術件数と術式別の件数

1960年代より開始されたCABGは現在日本で年間約20000件施行されている手術です。冠動脈の狭くなった部分より先の部分に小さなメスで穴を開け、グラフトと呼ばれる自分の体に存在する血管をとってきて縫い付けます。グラフトが冠動脈に縫い付けられた部分を吻合部といいます。グラフトから流れてきた血液は吻合部を通り、冠動脈へ流れ込み、心筋へと入り込むさらに小さな微小冠動脈に流れ込んでいきます。狭窄部分や閉塞部分はそのままにしておきます。


図2 グラフトからの血流と冠動脈からの血流の流れ

冠動脈バイパス術の目的は、狭窄や閉塞により血液が不足している心筋へ新たな血液を供給することで心筋の活動を助けることと、狭心症の予防、そして心筋梗塞の予防です。これらを達成することで、患者さんの生活の質を向上させ、生命予後を改善します。

グラフトを縫い付ける場所の冠動脈内腔の大きさは1.0mmから2.0mmほどなので、このサイズに適した大きさのグラフトが必要です。そのため使用できるグラフトは前胸部の内側にある内胸動脈(右、左)、前腕にある橈骨動脈(右、左)、下肢にある大伏在静脈(右、左)、胃大網動脈と限られています。

1990年代から2000年代において動脈グラフト(内胸動脈、橈骨動脈、胃大網動脈)の良好な遠隔期成績が示されたことから、当院では積極的に動脈グラフトを使用しています。主なグラフトのデザインは、胸の内側にある内胸動脈と前腕にある橈骨動脈を使用する方法です。


図3 左右内胸動脈と橈骨動脈を用いた冠動脈バイパス術(吻合カ所: 4カ所)の1例。赤い矢印は血液の流れを示す。

橈骨動脈を採取する際には前腕に長い傷が出来ますが、患者さんによっては内視鏡システムを用いて小さな傷で採取することができます。


図4 橈骨動脈採取後の創部の違い(手術1年後)

動脈グラフトが足りない患者さんや、動脈グラフトの使用がふさわしくない患者さんには、大伏在静脈を使用します。

冠動脈バイパス術の際には、人工心肺装置という心臓を補助する機械を用いて行う方法(On-pump CABG)と人工心肺装置を使用せずに心臓を動かしたまま行う方法 (Off-pump CABG: OPCAB)があります。世界的な流れとして手術に低侵襲という概念が広がってきた1990年代始めより、人工心肺装置の使用による体へのダメージを減らすためOPCABが行われるようになり、1990年後半より成績が安定してきました。当センターでは2000年より積極的にOPCABを行っており、良好な成績を得ています。

低侵襲冠動脈バイパス術 (MICS-CABG)

冠動脈バイパス術は胸骨正中切開という大きな傷が必要です。最近では、さらなる低侵襲化(手術のダメージを小さくすること)のため、より小さな傷で行うこともあります。これをMinimally invasive direct coronary artery bypass grafting (MIDCAB)あるいはMinimally invasive cardiac surgery CABG (MICS-CABG)といいます。左胸部の小切開で行うことが多く、この場合、手術支援ロボット(da Vinciサージカルシステム、Intuitive Surgical社)を用いて内胸動脈をはがしてきて使用できるようして冠動脈に縫い付けます。通常、人工心肺装置は使用しません。手術の特殊性から全ての患者様が適応となるわけではありませんが、適応などご不明な点がありましたらお気軽にスタッフにご連絡ください。


図5 左小開胸、da Vinciシステムを用いた冠動脈バイパス術(MIDCAB)

通常の動脈硬化による冠動脈の病変とは異なり、小児期に罹患した川崎病の後遺症として小児期から成人にいたるまで冠動脈の瘤化、狭窄、閉塞が問題となることが有ります。当センターではこの川崎病後遺症による冠動脈狭窄・閉塞に対しても動脈グラフトを用いて冠動脈バイパス術を施行しており良好な成績を得ています 。


図6 2001年から2017年までの川崎病後遺症による冠動脈病変に対するCABG手術件数。年齢別に表示しております。

図7 川崎病の後遺症による冠動脈瘤

図8 川崎病冠動脈瘤に対するCABGの図と術後造影CT検査

川崎病以外において、何らかの原因で冠動脈が瘤化する病気があります。瘤化した冠動脈は大きさや形によりますが進行性に拡大していく傾向に有り、放置すると心筋梗塞や破裂による突然死、瘤部分の感染、心不全などを引き越すことがあります。したがって冠動脈瘤には手術が必要となることがあります。手術手技としては瘤の切除や縫縮を行い、多くの場合は冠動脈バイパス(CABG)を同時に行うことが多いです。


図9 左冠動脈主幹部の冠動脈瘤。冠動脈瘤切除とCABGを施行。

冠動脈バイパス術の適応は、主に以下のいずれかになります。

① 左冠動脈主幹部あるいは左前下行枝の根元近くに狭窄・閉塞病変がある
② 左前下行枝、回旋枝、右冠動脈のすべてに狭窄・閉塞病変がある
③ カテーテルによる治療が何らかの原因により不適切である

以上より、冠動脈バイパス術が適応となる患者さんは、冠動脈の様々な場所に狭窄・閉塞病変を有する場合が多いため、当センターでの患者さん一人あたりの平均吻合カ所(バイパスカ所)は約4カ所です。①-③以外の場合はカテーテル治療が適応となります。患者さんにとって冠動脈バイパス手術とカテーテル治療のどちらが適切であるかは、心臓血管外科チームと循環器内科チームによるハートチームにより総合的に判断して決定します。


図10 冠動脈造影検査。狭窄や閉塞のない冠動脈

図11 冠動脈造影検査。冠動脈の前下行枝、回旋枝、右冠動脈の全てに狭窄や閉塞病変がある(冠動脈3枝病変)。


最終更新日:2021年10月08日

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