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不整脈

 

1. 不整脈とはどんな病気?

不整脈とは、脈がゆっくり打つ、速く打つ、または不規則に打つ状態を指し、脈が1分間に50以下の場合を徐脈、100以上の場合を頻脈といいます。

不整脈には病気に由来するものと、そうでない、生理的なものがあります。たとえば運動や精神的興奮、発熱により脈が速くなりますが、これはだれにでも起こる生理的な頻脈といえます。

また脈が不規則になるものの中に期外収縮があります。これは30歳を超えるとほぼ全員に認められるようになり、年をとるにつれて増加します。期外収縮の数が少ない場合は生理的な不整脈といえます。一般に脈拍が1分間に40以下になると、徐脈による息切れや、めまいなどの症状が出やすくなります。

一方、明らかな誘因がないのに、突然、脈拍が120以上になる場合は病的な頻脈の可能性があります。頻脈になると動悸(どうき)や息切れのほかに、時に胸痛やめまい、失神といった症状が出ることがあります。また3つに1つ、5つに1つといったように、時々脈が飛ぶ場合は期外収縮の可能性があります。

不整脈にはいろいろな種類がありますが、ここでは不整脈があると言われた時にどのように考え、どう対処したらよいかを説明します。

(注:基礎知識として、心臓は血液を全身に送り出す、ポンプの役割をする臓器で、弱い電気が流れて動く仕組みになっており、心臓の中に"発電所"と"電線"の役目をする組織があることを頭に入れておいてください<下図>)。

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2. 期外収縮といわれたら

不整脈の中で最もよく見られるのが期外収縮です。これは心臓の中で規則的に電気を送ってくれる"発電所"(洞結節)とは別の場所から、やや早いタイミングで心臓に電気が流れる現象です。初めに説明しましたように、期外収縮は30歳をすぎる頃からほとんどの人に認められ、年齢と共にしだいに増加します。

このうち心房から出てくる期外収縮を心房性期外収縮、心房の下の心室から出てくるものを心室性期外収縮といいます<下図>。これらが出ると、脈が1拍欠けたように感じますが、決して心臓が止まったわけではありません。やや早期に心臓が収縮したために、脈としてふれることができなかった、つまりその1拍分の脈圧が弱かったために脈をふれなかっただけにすぎません。

期外収縮はそれを感じない人の方が多いのですが、のどや胸の不快感や動悸、またはキュッとしたごく短い時間の痛みとして感じる人もいます。期外収縮が連続して出現したときは一時的に血圧が下がり、めまいや動悸がすることもあります。

期外収縮は病気に関連して起こることもありますが、多くは病気とは関係なく、年齢や体質的な理由で出ます。ただ心室性期外収縮の一部は心筋梗塞や心筋症が原因で起きている場合があり、そのため危険な不整脈に移行することがあります。

期外収縮があるといわれたら、原因の病気がないか、また期外収縮から危険な不整脈に移行する可能性がないかを一度は調べてもらったほうがよいでしょう。

症状がある場合は抗不整脈薬や安定剤を服用します。症状がない場合でも、不整脈の原因となる疾患があって、しかも危険な不整脈に移行する可能性があれば、抗不整脈薬が必要になります。一方、症状のない心房性期外収縮のほとんどは治療の必要がありません。

原因となる心臓病がなくて、症状もない場合は日常生活で特別な制限をすることはありませんが、運動や飲酒時、または何もしていない時に、動悸や意識が遠くなるような症状が出た場合は注意が必要です。激しい運動も避けた方がよいでしょう。一般に精神的ストレスや睡眠不足、疲労は期外収縮を悪化させます。規則正しい生活を心がけるようにしましょう。

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3. 洞(機能)不全症候群といわれたら

これは"発電所"(洞結節)の異常によって、心臓の中で電気が作られなくなる病気です<下図>。電気不足で脈が遅くなるか、または時々心臓が止まるようになりますが、この病気では同時に心房の異常も合併することがあり、そうなると徐脈と同時に頻脈も出てくることがあります。

そのような人では、頻脈が停止した時に心臓が止まりやすくなり、ふらつきや失神が起こります。一般に数秒以上心臓が停止するとふらつきが起こり、10秒以上停止すると意識がなくなって倒れる(アダム・ストークス発作)ことがあります。

洞不全症候群では、心臓が止まってそのまま死んでしまうことはまずありませんが、意識を失った時にけがをしたり、交通事故に遭ったりすることがありますので注意が肝心です、また、脈の遅い状態が長く続くと、心臓の機能が低下して心不全になることがあります。

洞結節の機能は年齢と共に低下します。この病気の原因ははっきりしないことが多く、洞結節や心房の老化現象が主要な原因ではないかといわれています。また降圧薬や強心薬などの薬剤でも洞不全が起こります。

脈が遅いために失神やふらつきなどの症状が出現した場合は、ペースメーカーの植え込み手術が必要となります。症状がなくても、4秒以上の心停止が見つかった場合はペースメーカーを植え込むことがあります。

一方、長年の肉体労働やトレーニングなどにより生理的に洞結節の機能が抑制されて、脈が遅くなっているような人には、ペースメーカー治療の必要はありません。また薬剤によって一時的に洞不全が生じた人で、薬剤の中止によってその機能が回復しうる人もペースメーカーの植え込みは不要です。

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4. 房室ブロックといわれたら

心房と心室の境界には電気の流れを調節して"変電所"の役目をする房室結節という組織があります。この機能が低下して、心房から心室の方へ電気が伝わらなくなるために脈が遅くなるのが房室ブロックです。ブロックとは「(道を)ふさぐ」「(進行を)妨げる」という意味です。

この病気は重症度により1度、2度、3度に分けられます。よく運動をする人や、若年者では迷走神経という神経の機能が高まって、生理的な現象として房室結節からの電気が少し伝わりにくくなり、1度または2度のブロックが起こることがありますが、無症状であれば心配はありません。

ただし、心筋梗塞や心筋症のような病気に伴って2度~3度の房室ブロックが起こった場合は、極端に脈が遅くなったり、時に心臓がそのまま止まったりしてしまうことがありますから注意が必要です。洞不全症候群と同様に、脈が遅くなった時にふらつきやめまい、失神、心不全などが起こります。

房室ブロックは洞不全症候群と異なり、原因の病気が隠れていることが多いので、十分な検査が欠かせません。

治療が必要なのは脈が遅いために失神やふらつき、息苦しいなどの症状が出現した場合です。症状が軽い時は薬を用いることもありますが、多くはペースメーカー手術が必要です。また症状がないけれども、3度の房室ブロックがある人にはペースメーカーを植え込んだ方がよいとされています。

5. ペースメーカーが必要といわれたら

ペースメーカーは洞不全症候群や房室ブロックのような徐脈が生じる人に植え込まれますが、それが本当に必要なのは、徐脈により失神やふらつきなどの症状が起こったという証拠が心電図などでとらえられている人です。

なぜかといいますと、一般にめまいやふらつきはお年寄りには起こりやすく、一時的に血圧が低下した場合や、貧血でも生じるからです。したがって意識を失ったり、ふらついたりした時に脈が遅い(一般には毎分40回以下)、または止まっているという証拠がなければ、必要もないのにペースメーカーを入れることになりかねません(この場合はペースメーカーを入れても症状はよくならないのです)。

一方、脈が毎分30回くらいしかなくても、その時に症状がなければ、必ずしもペースメーカーは必要ないともいえます。また血圧を下げる薬や強心薬のために、知らない間に徐脈が生じていることがあります。このためペースメーカーを植え込む前には、徐脈やめまいなどの症状が薬剤やその他の一時的な原因で生じていないことを確かめる必要があります。

徐脈による症状がないにもかかわらず、ペースメーカーが必要とされる場合は限られています(薬などを飲んでいないのに4~5秒以上の心停止がある、心臓が次第に大きくなってくるなど)。症状がないのにペースメーカー植え込みを勧められた場合は、なぜ必要なのか、よく説明を聞くようにしましょう。

ペースメーカーの手術は、局所麻酔をしたあと胸の上の方の皮膚を少し切開して、皮膚の下に直径4~5cm、厚さが5~8mm程度の大きさの電池を入れます。切開した場所の静脈からは心臓の中に細い電線(リード)を入れて、電池につなぎます。

これらは胸を開くような大がかりではなく、局所麻酔で済むような小さな手術です。手術中も意識ははっきりしていて、手術をしたその日のうちに歩くことも可能です。これによって、自分の脈が出ない時にペースメーカーが代わりに電気を流してくれ、普通の人と変わらない生活を送れるようになります。

最近はペースメーカーの性能が向上したので、ペースメーカーの植え込みによる日常生活上の障害はあまりないのが実情です。病気に伴う明らかな症状があって、手術が必要と言われた場合は、思い切って手術を受けられることを勧めます。

6. 右脚ブロックといわれたら

心臓の中には"発電所"(洞結節)と、"変電所"(房室結節)、さらに電気を流す"電線"の役目をする組織があります。心臓は左右の部屋に分かれているので、当然この電線も右と左に分岐しています。脚というのはその分岐した電線の役目をする組織を、右脚とは心臓の右側を走る電線を指し、右脚ブロックとは電線上で電気の流れが悪くなった状態を意味します<下図>。

脚ブロックには完全ブロックと不完全ブロックがあります。これは心電図による分類で、完全ブロックが必ずしも完全断線を指すわけではありませんが、完全ブロックの方が電気の流れがより悪くなっている状態と理解した方がよいでしょう。

では、完全右脚ブロックでは心臓の右側に電気が流れないのでしょうか? 実はそうではありません。仮に右側が断線していたとしても、ちゃんと左側の電線から電気が流れてきますので、完全右脚ブロックの場合も心臓は正常に動きます。

それでは右脚ブロックは心臓に病気があるから起こるのでしょうか? これもたいていの場合、心配ありません。確かに先天性の心臓病や心筋梗塞、心筋症という病気があると右脚ブロックになりやすいのですが、右脚ブロックを持つ人で心臓病のある人は、その一部にしかすぎず、多くは心臓病がありません。実は右脚というのは、ちょっとしたことで電気の流れが悪くなりやすく、断線したとしてもほとんど問題はないのです。

とはいうものの、右側の電気の流れが悪いとしたら、残っている左側の"電線"(左脚)にも障害が起こるのではないか、またその場合に電気が流れなくなって心臓が止まってしまう(完全房室ブロック)のではないか、という疑問が残ります。これももともと心臓病のない人ではほとんど心配する必要はありません。

病気のために右脚ブロックが生じている人以外は、左脚にまで障害が及ぶことはあまりないのです。また仮にそうなったとしてもペースメーカーという治療法があります。

右脚ブロックは通常は症状を伴いません。しかしながら運動などで脈拍が上昇した時などに一時的(一過性)に右脚ブロックになる人がいて、この際に胸部の違和感を訴える人もいます。

右脚ブロックは心電図で診断できますが、これがまったく心配のないものかどうかは、心臓のエコー検査(心臓超音波検査)や運動負荷検査、またはホルター心電図検査で診断します。右脚ブロックの人が何か運動を始めたいときは、念のためこれらの検査を受けておいた方がよいでしょう。これらの検査で心臓病が認められず、かつ危険な不整脈も伴っていなければ、運動は可能です。

ただし、これらの検査が正常で、自覚症状がない場合でも、親や兄弟などの近親者の中に若年~中年で突然死された方がいる場合は、マラソンなどの激しい運動はしない方がよいでしょう。特に親類の中で睡眠中に"ぽっくり"亡くなられた方がいる場合には、ブルガダ症候群という特殊な病気の可能性がありますので、不整脈の専門医を受診することを勧めます。

もし検査で何らかの異常が見つかるようであれば、その病態に合わせてどの程度の運動が可能であるかを担当医に尋ねてください。また現時点では右脚ブロック以外に異常がなくても、数年~数十年先に異常が出てくる場合も時にはありますので、1~2年に1回程度は心電図検査、または健康診断を受けるようにしましょう。

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7. 左脚ブロックといわれたら

左脚ブロックは左側の電線の流れが悪くなった状態ですが、右脚ブロックと違って心臓病を伴う場合が多いとされています。左脚ブロックといわれたら、まずもともと心臓病がないかどうかを病院で調べてもらいましょう。また新たに運動を始める場合も、それを行ってよいか悪いか、またどの程度までなら可能かを尋ねてからにしましょう。

8. WPW症候群・発作性上室性頻拍症といわれたら

正常の伝導路(電線)以外に、心房と心室の間に余分な電線(副伝導路)がある<下図>ために、正常の電線と余分な電線の間で電気の旋回が起こって頻脈(発作性上室性頻拍)が発生する病気です。WPW症候群は生まれつきの病気ですが、一定の年齢にならないと頻脈発作は起こらないことが多く、3~4割の人はずっと発作が起こらないといわれています。

心電図でWPW症候群といわれても、動悸症状のない場合、治療は必要ありません。でも病的な動悸(脈拍数が150以上で突然始まり、突然止まる動悸、あるいはまったく不規則に脈の打つ動悸)症状があり、それがいったん生じると長く続く場合、または頻繁に起こる場合は治療が必要になります。

発作時の症状が強くて、日常生活に支障が出るようであれば、根本的な治療(カテーテルアブレーション:後で詳しく説明します)をした方がよいでしょう。これは心臓に入れた細い管(カテーテル)の先から高周波を流して異常な回路(副伝導路)を焼き切る治療法で、これを行うと心電図は正常になり、頻脈発作も起らなくなります。

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9. 心房細動・心房粗動といわれたら

心房細動は心房が細かく動く、つまり速く動くことを意味します。この原因として、心房のどこか(多くは肺静脈の入り口部周辺)に新たな"発電所"ができて(あるいは胎児の頃に持っていた発電所から)電気が漏れ出るためであり、それにより心房の中で不規則な電気の流れ(旋回)が起こる、という仕組みが考えられています<下図>。

心房細動になると心房は1分間に300から500回ほど興奮し、細かく動きます。ただその電気信号が心室にすべて伝えられるのではなく、房室結節(変電所の役割をする部位)で適当に間引いて伝えられます。そのため心房細動時には不規則に電気が心室に伝えられ、心臓は全体として1分間に60回から200回の頻度で不規則に興奮します。ですから脈はまったくバラパラで打ち、動悸がして息苦しくなり、時にはめまいや胸痛などの症状が出る場合があります。ただ、心室につたわる脈がそれほど速くない場合には、まったく症状のない患者さんもいます。

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心房細動は、時々発作の起こる(つまり心房細動が出現する)「発作性心房細動」と、心房細動の状態がずっと続く「持続性(慢性)心房細動」に分けられます。心房細動によく似た不整脈に心房粗動がありますが、心房粗動では心房の中で一定の回路を通って規則的な電気の旋回が起こっています<下図>。

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心房細動は70歳を超えると、病気のあるなしに関係なく数~10%の人に現れてくる不整脈で、原因は心房の筋肉の一種の老化現象ではないかとも考えられています。その一方で若い人にも出ることがあり、それらの多くは体質的な理由で起こり、また、高血圧、肺疾患、甲状腺機能亢進(こうしん)症、弁膜症、心臓の手術後では、より生じやすくなります。

10. 心房細動といわれたら

心房細動は心臓の4つの部屋のうち、「右心房、左心房」と呼ばれる部屋の心筋が高頻度かつ不規則に動く不整脈です。心房が不規則に動くことにより、心室の動きも不規則になります。下図は心房細動時の心電図ですが、心室の動きを示すR波の間隔が不規則であることが分かります。また、R波とR波の間にある基線は、通常まっすぐの線ですが、心房細動では細かく揺れているのが分かると思います。

心房細動では、動悸・息切れ・めまいなどの自覚症状を呈する場合もありますが、約半数の心房細動は無症状です。自覚症状の有無にかかわらず、心房細動があると、心臓の中の血液の流れが悪くなり(血流のうっ滞)、血液の塊(血栓)が形成されることがあります(特に左心房の一部である左心耳に多い)。そして、その血栓が心臓の中から飛び出して、脳の血管を閉塞してしまうと生死にかかわる脳梗塞を生じる場合があります。また、心房細動があると、心不全を発症しやすくなることも分かっています。心房細動は、日本だけでも約100万人弱の患者さんがいることが分かっていて、高齢者に多い病気ですが、比較的若年の方が発症することも稀ではありません。

心房細動に対する治療の基本は、脳梗塞を予防するための抗凝固療法です。また心房細動による症状を抑える、もしくは心房細動自体を無くす目的で、薬物療法やカテーテルアブレーション治療を行うこともあります。

心房細動およびその治療法(薬物療法、カテーテルアブレーション)に関して、以下の動画で詳しく説明しています。ぜひご覧ください。

国循 心房細動におけるカテーテルアブレーション治療法 - YouTube

11. 心房細動の治療は

心房細動の治療は、原因となる病気がある場合はそちらの治療をまず行います。原因疾患がなく、かつ症状もない時は治療が必要でないこともありますが、動悸などの症状がある場合は治療が必要です。

心房細動では、運動をしたり精神的に興奮したりすると一時的に房室結節の通りがよくなって、急に脈拍数が増加して息切れやめまいなどの症状が出ることがあります。また発作性心房細動では発作のおこりはじめに血圧が下がって意識を失うこともあります。そのような場合、脈拍数をコントロールする薬剤や、発作自体を起こしにくくする薬剤が使われます。心房細動が長く続き、そのため一時的に心臓の機能が低下したり、症状が強く出たりする場合は電気ショックで正常のリズムに戻すことがあります。

心房細動の治療は、抗凝固療法(血液を固まりにくくする薬剤の服薬)が基本となります。動悸などの症状がある場合や心機能が低下している場合には、それに抗凝固療法に加え、抗不整脈薬やカテーテルアブレーションによる治療を行います。

12. 心房細動と脳梗塞

心房細動時には心房が細かく動くだけで、十分な収縮ができませんので、そこで血液がよどみ、血栓(血液の固まり)ができ、それが頭や手に飛んでいって血管が詰まる(脳であれば脳梗塞になる)ことがあります。そのため心房細動に対しては、脳梗塞を予防する目的で、血液を固まりにくくする薬剤(ワルファリンや直接経口抗凝固薬)が使用されることが多いです(抗凝固療法)。

特に、高血圧、糖尿病、心不全や、脳梗塞・一過性脳虚血発作の既往のある方、また高齢の方では、脳梗塞を起こす頻度が高いため、血液を固まりにくくする薬剤の服用が必要です。

適切な量のワルファリンや直接経口抗凝固薬を服用していれば、どのようなタイプの心房細動であっても、脳梗塞の発生頻度を減らすことができます。抗凝固薬を服用中であっても手術は可能ですし、仮に出血しても、押さえてやれば、ちゃんと血は止まります。

13. 心房細動・心房粗動のカテーテルアブレーション

心房細動がある人は日常生活の心がけとして、精神的ストレス、睡眠不足、疲労、過度のアルコール摂取などを控えることが必要です。というのは、それらによって心房細動を誘発する原因となる期外収縮が増加するからです。

近年、心房細動を根本的に治してしまう治療法(カテーテルアブレーション)が行われています。これは心臓に入れた細い管(カテーテル)の先から高周波を流して、異常な電気の発生源や回路を焼き切って不整脈を出なくする治療法です。薬が効きにくい場合や、薬なしで心房細動を治したいという患者には、大きな福音となっています。近年は、バルーンアブレーション、といって、より簡便・短時間で、心房細動の治療を行う機器も使用できるようになっています。

治療を受ける際には十分な説明を受け、心房細動の成り立ちや治療の方法、危険性をよく理解し、あなたの病状と照らし合わせたうえで、受けるか受けないかの決断をするのがよいと思います。

心房粗動に対してもカテーテルアブレーション治療が有効です。心房粗動の多くは、電気の旋回が三尖弁の周囲でのみ起こります。だから、その回路の一部を焼き切ることで発作を起こさなくすることができます。ただ心房粗動は心房細動の仲間(同様な心房内の不整脈)であるために、心房粗動がなくなっても、今度は心房細動が起こってくることがあります。

心房細動・粗動の治療はここ10年の間にめざましく発展しており、現在これら以外にもいろいろな治療法が研究されています。また、副作用が少なく、非常に有効な薬の開発も行われており、近い将来、危険性が少なく、治癒(ちゆ)率の高い方法が開発されると予想されています。

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14. カテーテルアブレーションが必要といわれたら

カテーテルアブレーションについて、すでに簡単にふれましたが、ここで詳しく説明します。この方法は血管から心臓の中に細い管(カテーテル)を入れて、その先端から高周波を流すことによって心臓の筋肉の一部に軽いやけどをさせて不整脈の源を取り払う治療法です。

通常、足の付け根やひじの血管に局所麻酔をして、そこからカテーテルを入れます。高周波を流す際には時に痛みがありますが、強い痛みではありません。これが成功すると不整脈が根本的に治りますので、薬物治療は不要になります。現在この治療法はWPW症候群、発作性上室性頻拍、特発性心室頻拍、心房粗動、心房細動などで良好な成績が得られています。

ただカテーテルアブレーションは心臓の中に何本もの管を入れる必要があるため、それに伴っていろいろな合併症が起こることがあります。主なものとしては、心臓タンポナーデ(心臓の壁に穴があいて、そこから血液が外にもれる)、脳梗塞(脳の血管に血のかたまりが飛んでいって詰まる)、房室ブロック(正常伝導路が切断されて脈が遅くなる)、動静脈婁(動脈と静脈の間に交通ができる)などがあります。

こうした合併症が起こる頻度は、施設や集計の方法にもよりますが、0.5~2%前後(心房細動では0.5~5%)といわれており、それが起こると、時に外科手術やペースメーカーの植え込みが必要になります。この治療法は他のカテーテル検査や治療と同様に、絶対に安全と言い切れる方法ではありませんので、治療を受ける前に、その詳細に関して受診した医療機関で十分に説明を受けて下さい。

15. Brugada(ブルガダ)症候群(Brugada心電図)と言われたら

Brugada(ブルガダ)症候群は日本人の成人男性に比較的多く、心電図の胸部誘導において図のような特徴的な波形を認めた場合に診断されます。この特徴的な心電図は上向きに凸のcoved型(type 1)と下向きに凸のsaddle back型(type 2)がありますが、Brugada(ブルガダ)症候群の診断確定には上に凸のtype1波形を認めることが必要です。Type2の心電図のみでは厳密にはBrugada(ブルガダ)症候群とは診断されません。すなわちBrugada(ブルガダ)症候群は心電図で診断確定され、必ずしも症状の有無は関係ありません。実際に多くの方は無症状で学校や職場検診の心電図検査で指摘されることが多いため、別名Brugada(ブルガダ)型心電図とも言われます。

Brugada(ブルガダ)症候群とよく似た心電図波形に右脚ブロックがあります。Brugada(ブルガダ)症候群のtype1波形と途中まで似ていますが、よく見るとtype1波形のような上に凸の盛り上がり(図の点線)がありません。しかし全てが図のように容易に鑑別できるわけではありません。また心電図は同じ人でもその時々で変化しますので、ある時はtype2でも別な日はtype1になったり、あるいは右脚ブロックだったりします。年齢や性別によっても変化しますので、どちらとも言えない心電図の場合は繰り返し検査をしたり、必要に応じて専門的な検査を受けることをお勧めします。

なぜこのようなBrugada(ブルガダ)心電図が注目されるのでしょうか。それはこのような心電図を認める方の“ごく一部”にですが、突然死(ぽっくり病)につながる危険な不整脈(心室細動)がおこる可能性があるからです。一般的には検診などで偶然Brugada(ブルガダ)型心電図を認めた方が生命に危険のある発作をおこす確率は、年0.1%程度と言われています。つまり大多数のBrugada(ブルガダ)症候群の方は生涯を通じて無症状で経過します。ただしこのような発作は働き盛りの成人男性に多くしかも夜間に多いことから、これまでに突然意識がなくなった(失神・気絶)、夜間に突然息が止まるくらい苦しくなったような経験がある場合には要注意なので、早めの専門医受診をお勧めします。

Brugada(ブルガダ)症候群の専門的な検査・診断・遺伝子検査や治療の詳細はこちらをご覧ください。

16. QT延長症候群と言われたら

心電図とは心臓の電気をからだの外から記録したもので、図のようにP、Q、R、S、T(U)と記号がついています。QからT波の終わりまでの時間をQT時間と呼び、心拍数で補正した長さ(QTc時間)で約440ミリ秒までが正常範囲です。QT延長症候群とはこのQT時間が長い状態の総称です。どのくらい延長していると「QT延長」か?は、500ミリ秒を超えていれば間違いありませんが、480ミリ秒以上でもQT延長の可能性は高いと思われます。その間の440~480ミリ秒は境界(ボーダーライン)です。

心拍数は常に常に一定でなく、運動や緊張時に脈は速くなり、逆に安静や睡眠中はゆっくりになりQT時間もそれに伴い変動します。また基礎疾患のある方、お薬や女性ではホルモンの影響でも大きく変化するため、一度の心電図だけで判断せず繰り返し検査することが大切です。また運動負荷や24時間ホルター心電図もQT延長の鑑別に有用です。

ほとんどのQT延長症候群は無症状で、学校や職場検診などで疑われる場合がほとんどです。ではなぜQT延長症候群を心配しないといけないのでしょうか?それはQT延長が原因で失神発作や生命に関わる危険な不整脈に繋がる恐れがあるためです。

QT延長症候群は原因も様々ですが遺伝的な原因のこともあり、遺伝子検査(保険診療)が診断確定に有用です。またQT延長症候群は不整脈を予防する治療法もある程度確立しているので、きちんと診断し治療を続けることで危険な不整脈を回避することも可能です。特に心電図検査でQT時間が500ミリ秒以上、過去に失神・気絶発作や、家族に突然死した人がいるなどが該当する方は、早めに受診して頂き、診断・治療を行って頂くことをお勧めします。当センターでは「遺伝性不整脈外来」でQT延長症候群に関する診断・遺伝子検査のカウンセリング、学校生活や治療についての相談も行っています。詳細はこちらをご覧ください。

17. 経カテーテル的左心耳閉鎖術について

心臓の中の心房という部屋が痙攣する心房細動という不整脈が発生すると、血の流れが悪くなって心臓の中で血が固まり(=血栓)、その血栓が脳に流れて脳梗塞をおこす場合があります。一般に90%以上の血栓が左心房の中の「左心耳」という袋状の部屋に生じるとされています。経カテーテル的左心耳閉鎖術は、開胸手術をする必要なく、そけい部(足の付け根)の静脈からカテーテルという細い管を通して特別な器具を留置し、左心耳を閉鎖する治療法です。全身麻酔で行いますので、特に治療中の痛みはありません。現在、日本で使用できる器具はWatchman®のみですが、今後さまざまな器具が登場してくる予定です。この治療により、脳梗塞のリスクを低減し、また血を固まりにくくする抗凝固薬(ワルファリンなど)が大半の方で中止可能となります。

治療の詳細は、不整脈科ページのこちらからも詳細をご確認いただけます。

 

 

最終更新日:2023年09月22日

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