国立循環器病研究センター

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手軽で簡単に使える簡易心臓拍動シミュレーションシステムの開発

アイコン 研究のポイント

1)複雑な心臓の拍動現象を、スーパーコンピュータなどを用いなくてもノートPCで簡便に表現(シミュレーション)できるシステムを開発した。

2)CG(Computer Graphics)の技術を応用して、ノートPCでも実時間で(その場で)心臓拍動を計算して可視化することができる。また、システムとしてはロバスト性が高く(外乱の影響を受けず安定して実行可能)、エラーを起こすことが極めて少ないという特長がある。

3)例えば、患者さんに心臓の拍動をできるだけ簡単に説明し、理解してもらうためのアプリケーションとして有効である。

アイコン 研究の背景

国立循環器病研究センター研究所中沢一雄 研究情報基盤管理室長、理化学研究所基幹研究所生物情報基盤構築チームの井尻敬基礎科学特別研究員と横田秀夫チームヘッドの研究グループは“科研費新学術領域研究「多階層生体機能学」”のプロジェクトに参画している。このプロジェクトは、秩序だった生体(生命)機能をシステムと考え、遺伝子・タンパク質という生体分子の要素から細胞・組織・臓器・個体というように高度に階層化させたシステムとして捉えることで、新しい数理モデルによって生体機能の原理を導き出そうとするものである。実験データに基づくコンピュータシミュレーションが有力な手法となるが、多階層にわたる膨大なデータを取り扱うため、目的に応じて不要な機能を間引いて本質的な機能を残すreductionの技術が重要になる。既存の力学モデルに基づくシミュレーション法は、大規模計算機やオフラインの計算時間を必要とするものがほとんどであり、実時間性が要求されるアプリケーションへの応用が困難なため、新しい計算手法を開発する必要性があった。

アイコン 研究手法と成果

本手法では、まず3次元四面体メッシュで表現された心臓モデルを局所領域に分離する。この局所領域は心筋の構造を表すもので、隣接する局所領域は互いに重なりをもたせる(図1BD)。拍動計算時には、各局所領域を心筋線維走向と現在の収縮割合を考慮して収縮変形させる(図1E)。次に、収縮した全ての局所領域の形状をなるべく最適化するように、心臓モデル全体を変形させる(図1)。心臓モデル全体の変形を計算する際、Shape matching法と呼ばれるCG分野で発表され注目を集めている幾何制約に基づく柔軟物体の計算法を応用した。

図2に、MRIから構築した心臓モデルの変形を計算した例を示す。心臓モデル、心筋線維走向モデル(図2A)、収縮タイミング(図2B)を入力すると拍動アニメーションが実時間で計算できる。この心臓モデルは7116個の頂点から構成され、Intel Core i7 3.33GHzを搭載した計算機を用いた実験では、1シミュレーションフレームにかかる計算時間は約24msecだった。これは実時間アプリケーションへの応用にも十分に対応できる速度と言える。

アイコン 今後の展望と課題

プロジェクト全体の本来の目的は、新しい数理モデルによって、多階層にわたるシステムとしての生体機能の原理を導き出そうとするものである。本研究グループでは、致死性不整脈の危険予測や慢性心房細動に対するアブレーション治療のシミュレーション研究などを行っているが、さまざまな技術開発を伴うことから、個々の要素技術だけを取り出しても十分な応用分野が導き出せると考えている。仮想的に病気の心臓も比較的簡便に作り出せるため、患者さんへの説明用のアプリケーションだけでなく、医師患者間コミュニケーション支援、教育支援などへの応用が可能である。

従来の力学モデルに基づく手法では、心筋線維の引き起こす応力の分布を計算した後、応力と歪みの関係式を解くことで変形を計算していた。本手法では、局所領域を変形させ、その形状を満たすよう全体形状を計算する。この違いにより、従来手法に比べて非常に高速かつ安定に心臓の拍動計算を行うことができる。ただし、力学モデルに基づかないため、力学的精度が重要な課題には不向きといった欠点がある。

アイコン その他

この成果は、国立循環器病研究センターと理化学研究所、東京大学、滋賀医科大学と共同で行った研究によるもので、科学雑誌「PLoS ONE」オンライン版 (5月30日付け:日本時間5月31日)に掲載される予定である。

原論文情報
Ijiri T, Ashihara T, Umetani N, Igarashi T, Haraguchi R, Yokota H,  Nakazawa K. “A Kinematic Approach for Efficient and Robust Simulation of the Cardiac Beating Motion”.

図1.計算法の概要
図1.計算法の概要
図は説明のため2次元だが,計算は3次元四面体メッシュに対して行う
図2.全体心(臓)モデルの拍動変形計算
図2.全体心(臓)モデルの拍動変形計算

最終更新日:2021年09月26日

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