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「血液サラサラの薬」だけでは防ぎきれない、脳梗塞の再発 不整脈そのものを抑える「リズムコントロール」に注目
― 脳梗塞後早期の治療開始で、再発リスクが低下 ―
令和8(2026)年10月22日
京都大学
国立循環器病研究センター
心房細動[注1]という不整脈は、高齢社会における「国民病」ともいえる疾患です。心房細動があると心臓の中に血の塊(血栓)ができやすくなり、できた血の塊が血の流れに乗って脳血管を詰めて脳梗塞を引き起こします。脳梗塞は死亡や寝たきりの主な原因の一つであり、高齢化が進む日本では大きな問題となっています。
心房細動による脳梗塞を防ぐ基本の治療は「抗凝固薬」、いわゆる「血液サラサラの薬」です。しかし、この薬を飲んでいても、脳梗塞を経験した患者さんのおよそ6人に1人が5年以内に再発すると報告されています。抗凝固薬は血栓をできないようにするだけで、その源である心房細動という不整脈そのものは治療されないまま残ります。不整脈そのものを正常な脈に戻す「リズムコントロール」[注2]は、心房細動の患者さんで心血管イベントを減らすことが海外の臨床試験で示されていますが、脳梗塞を起こした直後の患者さんに行われることはまれで、その効果もわかっていませんでした。
京都大学大学院医学研究科の江頭柊平博士課程大学院生、井上浩輔教授、今中雄一教授、国立循環器病研究センターの古賀政利部長らの研究グループは、ドイツ・ハンブルク大学医療センターとの国際共同研究として、心房細動を伴う急性期脳梗塞患者約1万4千人を追跡し、脳梗塞後8週間以内に「リズムコントロール」を開始した患者さんでは、リズムコントロールを受けていない患者さんと比べてその後の脳梗塞再発リスクが44%低いこと(5年間の再発率8.0%対13.8%)を明らかにしました。一方で、実際にこの治療を受けていたのは全体のわずか1.9%(268人)でした。この結果は、抗凝固薬に「上乗せ」する新たな再発予防の選択肢として、リズムコントロールの可能性を示すものです。
本成果は、2026年10月21日に米国神経学会(AAN)の医学雑誌『Neurology®』にオンライン掲載されました。
心房細動を伴う脳梗塞患者約1万4千人を、脳梗塞後8週間以内にリズムコントロールを開始した群と通常治療群に分けて比較した。早期リズムコントロール群では5年間の再発率が8.0%と、通常治療群(13.8%)より低かった。©京都大学/江頭柊平
1.背景
心房細動による脳梗塞の再発予防では、抗凝固薬による治療が標準ですが、それでも6人に1人が5年以内に再発するという報告があります。抗凝固薬が防ぐのは「血栓」であり、その源である「心房細動そのもの」は残るためです。心房細動を正常な脈(洞調律)に戻し維持するのがリズムコントロール[注2]で、抗不整脈薬、カテーテルアブレーション[注3]、電気的除細動が含まれます。心房細動と診断されて間もない患者さんでは、この治療が脳梗塞や心不全を減らすことが大規模臨床試験で示されています。しかし、脳梗塞直後の患者さんは高齢で全身状態も不安定なことが多く、国際調査では専門医の約8割が「脳梗塞後にリズムコントロールをほとんど行わない」と回答しています。脳梗塞後の早い時期にこの治療を始めることに意味があるのか——それを実際の診療データで検証したのが本研究です。
2.研究手法・成果
全国約1,600万人をカバーする医療データベースを用いて、心房細動を伴う急性期脳梗塞で入院し、8週間後の時点で生存していた患者14,355人を、以下の2つのグループに分けて長期予後を比較しました。
- ① 早期リズムコントロール群:入院から8週間以内にリズムコントロール(抗不整脈薬・カテーテルアブレーション・電気的除細動)を開始した人(268人、全体の1.9%)
- ② 通常治療群:8週間以内にリズムコントロールを開始しなかった人(14,087人)
【結果】 5年間の脳梗塞再発・全身性塞栓症の発生率は、早期リズムコントロール群8.0%、通常治療群13.8%と、早期リズムコントロール群でリスクが44%低いという結果でした(ハザード比0.56)。治療開始の期間を4週間〜24週間に変えて解析しても、結果は一貫していました。
3.波及効果・今後の予定
本研究は、脳梗塞後の早い時期にリズムコントロールを始めることが新たな再発予防の選択肢になりうることを示したものです。開始時期を4〜24週間に変えても結果は同様であり、入院中でも、リハビリテーションを終えて落ち着いてからでも、治療を検討できる可能性があります。現在、国際的な臨床試験(EAST-STROKE試験)が進行中であり、その結果とあわせて、脳梗塞後の再発予防の診療が変わっていくかもしれません。
<用語解説>
- [注1] 心房細動:心臓が不規則に震える不整脈。血栓ができやすくなり、脳梗塞の主要な原因となる。
- [注2] リズムコントロール:心房細動を正常な脈(洞調律)に戻し、維持する治療。
- [注3] カテーテルアブレーション:カテーテルを血管から心臓まで進め、不整脈の原因となる部分を焼く治療。
<研究者のコメント>
血液サラサラの薬を出して治療しても、5年以内に6人に1人は脳梗塞を再発するというデータは私にとって衝撃的であり、他の治療選択肢はないか探しだしたのが本研究の出発点です。脳梗塞後の再発予防の選択肢が広がるきっかけになればと思っています。本論文は,雑誌の新たな試みである,査読プロセスを公開するプロジェクトにも選定されました。他の専門家との議論も併せて読んでいただけるとさらに興味深いと思います。(江頭柊平)
<論文タイトルと著者>
タイトル:Early Rhythm Control vs Usual Care after Acute Ischemic Stroke in Patients with Atrial Fibrillation
(心房細動を伴う急性期脳梗塞後の早期リズムコントロールと通常治療の比較)
著者:Shuhei Egashira, Kosuke Inoue, Masatoshi Koga, Kazunori Toyoda, Märit Jensen, Götz Thomalla, Tatsushi Toda, Yuichi Imanaka
掲載誌:Neurology
DOI:10.1212/WNL.0000000000218736
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国立研究開発法人国立循環器病研究センター 企画経営部広報企画室
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最終更新日:2026年10月22日