広報活動
首に貼る多点シート電極による非侵襲的な交感神経活動計測技術を開発へ
~ NEDO先導研究プログラム/フロンティア育成事業に採択 ~
令和8(2026)年7月8日
国立大学法人北海道大学
国立研究開発法人国立循環器病研究センター
国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学
株式会社ニューロシューティカルズ
国立大学法人北海道大学(所在地:北海道札幌市、総長:寳金清博)は、国立研究開発法人国立循環器病研究センター(所在地:大阪府吹田市、理事長:大津欣也)、国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学(所在地:奈良県生駒市、学長:塩﨑一裕)、株式会社ニューロシューティカルズ(本社:東京都文京区、代表取締役社長:三池信也)とともに実施する、「表現学習*1と頸部貼付型多点シート電極を用いた革新的交感神経活動計測技術の研究開発」について、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(本部:神奈川県川崎市、理事長:斎藤 保、以下「NEDO」)の先導研究プログラム/フロンティア育成事業に採択され、研究開発を開始することになりましたので、お知らせします。
研究の背景・意義
自律神経は、心臓・血管・消化器など内臓の機能を自動的に制御し、睡眠・覚醒、ストレス、情動とも密接に関わる、生命維持の根幹をなす制御系統で、交感神経と副交感神経の2種類があります。中でも交感神経は、心身の活動時やストレス時に活発になり、その異常亢進や機能低下は、高血圧・不整脈・心不全・精神疾患など、多様な疾患・症状と関係することが知られています。
しかし現状では、交感神経活動(Sympathetic Nerve Activity: SNA)*2を体表から非侵襲・連続的に評価する技術は、いまだ十分に確立されていません。自律神経活動を反映する指標として心拍変動 (HRV)*3が広く用いられていますが、HRVは心拍のゆらぎを解析する間接的な指標であり、急峻な神経活動の変化をリアルタイムに捉えることや、交感神経と副交感神経を厳密に分離して評価することには限界があります。また、交感神経活動を直接捉える方法として用いられる微小神経電図などの手法は、電極を神経近傍に刺入する侵襲的な計測であり、日常的・長時間の計測には適していません。
本研究開発は、この未踏の交感神経活動の非侵襲評価に正面から挑みます。非侵襲的に交感神経活動を連続モニタリングできるようになれば、疾患の早期変化を捉える医療・ヘルスケア応用に加え、脳と身体生理の相互作用(Brain–Body coupling)を解明する神経科学研究への展開など革新的なインパクトが期待されます。
研究開発の概要
本研究開発では、心臓交感神経の主要な中継点である「星状神経節*4」に着目し、以下の二つの独自技術を開発・統合することで、世界に先駆けた非侵襲SNA計測基盤を構築します。
頸部貼付型多点シート電極の開発
星状神経節は首の付け根の皮下1〜1.5cmに位置します。体表からSNA成分を抽出するために皮膚に貼り付けるシート型電極を開発し、星状神経節周囲の体表電位を多点で同時計測します。これにより、体表から交感神経活動成分を推定・抽出するための信号取得基盤を構築します。
表現学習を用いたSNA成分抽出アルゴリズムの開発
体表電位には、SNA成分に加え、心電図(ECG)、筋電図(EMG)、体動アーチファクトなど、複数の信号が混合しています。これらの混合信号からSNA成分を選択的に推定・抽出するため、本研究開発では、機械学習、特に表現学習に基づく信号抽出アルゴリズムを開発します。
一般に、SNA成分を抽出するモデルを開発するには、直接測定した星状神経節活動を教師信号として用いる方法が考えられます。しかし、ヒトにおいて教師信号取得を目的に侵襲的な星状神経節活動計測を行うことは、倫理的・実務的に困難です。そこで本研究開発では、HRVなどから推定される自律神経状態を補助情報として活用し、多点体表電位から星状神経節由来のSNA成分を推定・抽出する表現学習アルゴリズムの開発を進めます。
開発したアルゴリズムの妥当性は、国立循環器病研究センターでの動物実験により、侵襲的に測定した星状神経節活動と照合することで検証します。その後、健常者及び患者データを用いて、ヒト向けアルゴリズムの確立を目指します。
今後の展開と応用可能性
本研究開発は4年間(2026〜2029年度)で実施します。前半2年間で動物実験によるアルゴリズムの原理実証を行い、後半2年間でヒト向けアルゴリズムの確立とシート電極・プロトタイプ機の完成、及び概念実証(Proof of Concept: PoC)の実現を目指します。
将来的には、以下のような展開が期待されます。
- 心不全・高血圧・不整脈などの早期検知及び予防・先制医療への応用
- うつ病・不安障害・パニック障害など精神疾患における自律神経ダイナミクスの解明
- 迷走神経刺激(VNS)・深部脳刺激(DBS)などニューロモジュレーション治療における客観的リアルタイム評価
- 脳と身体の生理的相互作用(Brain-Body coupling)研究における新たな計測パラダイムとしての展開
プロジェクト概要
事業名 NEDO先導研究プログラム/フロンティア育成事業
課題 課題4:脳・神経機能の回復・拡張や人機協働を実現するブレインテック・ニューロテック/脳・神経活動の非侵襲的計測の高度化とその応用
テーマ名 表現学習と頸部貼付型多点シート電極を用いた革新的交感神経活動計測技術の研究開発
代表機関 国立大学法人北海道大学(電子科学研究所)
代表研究者 北海道大学電子科学研究所 教授 藤原幸一
分担機関 国立研究開発法人国立循環器病研究センター、国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学、株式会社ニューロシューティカルズ(再委託)
実施期間 2026年6月〜2030年3月(4年間)
各機関の役割と実施体制
(代表機関)北海道大学 :(研究代表者)電子科学研究所 教授 藤原幸一
(分担機関)国立循環器病研究センター :(分担研究者)循環動態制御部 研究室長 朔 啓太
(分担機関)奈良先端科学技術大学院大学 :(分担研究者)先端科学技術研究科 准教授 久保孝富
(再委託)株式会社ニューロシューティカルズ:(分担研究者)代表取締役社長 三池信也
用語説明
*1 表現学習 … データに含まれる有用な特徴や潜在的な構造を自動的に抽出・学習する機械学習技術の総称。
*2 交感神経活動(SNA) … 自律神経系のうち、心身の活動・ストレス時に亢進する交感神経系の電気的活動。心拍数・血圧の上昇、発汗などの身体反応に関与する。
*3 心拍変動(HRV) … 心電図上のR–R間隔(心拍間隔)のゆらぎを解析する指標。自律神経活動の間接指標として広く用いられている。
*4 星状神経節 … 第7頸椎前面(首の付け根付近)に左右1対存在する交感神経の主要な神経節。神経細胞体が集まる中継点であり、心臓・血管・上肢などの交感神経活動の制御に関与する。
【報道機関からのお問い合わせ】
国立研究開発法人国立循環器病研究センター 企画経営部広報企画室
TEL: 06-6170-1069 (21120) MAIL: kouhou@ml.ncvc.go.jp
最終更新日:2026年07月08日