広報活動
筋ジストロフィー関連遺伝子SGCBが重症拡張型心筋症の原因でもあることを発見
~東アジア人に多いSGCBの遺伝子変化を世界で初めて解明、将来の治療法開発へ前進~
令和8(2026)年6月30日
国立循環器病研究センター
大阪大学
国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、略称:国循)ゲノム医療支援部 四宮春輝室長、朝野仁裕部長と大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学 李方方さん(博士課程)、坂田泰史教授の共同研究グループは、東北大学 東北メディカル・メガバンク機構、京都大学iPS細胞研究所などとの共同研究により、これまで筋ジストロフィーの原因遺伝子として知られていたSGCB遺伝子注1の特定の変化(スプライス部位バリアント注2)が、別の疾患である拡張型心筋症を引き起こすことを、世界で初めて明らかにしました。この変化は東アジア人集団に比較的多く見られ、両親から受け継ぐ2つのSGCB遺伝子の両方にこの変化を持つ「ホモ接合体」の拡張型心筋症患者では、補助人工心臓の装着や心臓移植が必要となるなど、重篤な経過をたどりやすいことも明らかになりました。
■拡張型心筋症は、原因を特定できない症例が半数以上残されていた
拡張型心筋症(以下、DCM)は、心臓が大きく拡大し、全身へ血液を送り出す力が弱くなる病気です。進行すると心不全や突然死に至ることがあり、心臓移植の主要な適応疾患の一つとなっています。遺伝的要因が関与することが知られていますが、全ゲノム解析などDNA配列情報に基づく解析だけでは、原因を特定できない症例が半数以上残されています。その背景の一つとして、全ゲノム解析では多数の遺伝子の違い(バリアント)を網羅的に検出できる一方で、特にたんぱく質を作らない領域の変化については、病的意義の判断が難しいという課題があります。細胞内の遺伝子の働きを読み取るRNA-seq解析注3は、この課題を解決する補完的手法として注目されていますが、患者由来の心臓組織を用いた解析報告は限られていました。
■SGCB遺伝子が関連するのは肢帯型筋ジストロフィーだけでなく重症拡張心筋症の原因にも
本研究では、心臓移植または補助人工心臓装着時に得た患者心臓組織のRNA-seq解析と全ゲノム解析を統合するアプローチにより、従来のDNA配列情報に基づく解析だけでは原因が特定できなかったDCM症例から、SGCB遺伝子のスプライス部位バリアント(c.243+6T>A)を新たな病因として同定しました。
SGCB遺伝子は、従来、肢帯型筋ジストロフィー(肩や腰回りの筋肉を中心に進行性に萎縮する疾患)との関連が知られていましたが、今回同定したバリアントをホモ接合体で保有するDCM患者では、骨格筋症状を認めず、心臓に限局した病態を示すことが明らかになりました。

図:SGCB遺伝子の変化による拡張型心筋症発症の仕組み SGCB遺伝子の特定の変化によりスプライシング異常が生じ、βサルコグリカンタンパク質が低下します。 |
本バリアントは東アジア人集団に比較的高頻度で認められ(マイナーアレル頻度約0.94%注4)、本バリアントをホモ接合体で保有するDCM患者では、若年での補助人工心臓装着、心臓移植、心血管死などの重篤な心血管イベントと関連することが示されました。
■今後の展望と課題
本バリアントは東アジア人集団に比較的高頻度で存在することから、東アジア人におけるDCMの遺伝子診断精度の向上に貢献する可能性があります。また、今回同定されたバリアントは機能喪失型バリアントであり、ヘテロ接合体保有者注5では明らかな心筋症発症リスクの上昇は確認されなかったことから、SGCB遺伝子の機能を部分的にでも回復させることが、将来的な治療戦略となる可能性を示しています。
≪参考≫
◆研究内容の詳細◆
本研究では、心臓移植または補助人工心臓装着時に得た患者心臓組織を用い、RNA-seq解析による発現・スプライシング異常の検出と、全ゲノム解析を組み合わせた統合解析を行いました。その結果、従来のDNA配列情報に基づく解析だけでは原因が特定できなかったDCM患者から、SGCB遺伝子のイントロン2のスプライス部位バリアント c.243+6T>A を同定しました。本バリアントのホモ接合体の頻度は、DCM患者群で約1.07%(およそ100人に1人)であり、一般日本人集団の約0.006%と比較して著しく高く、本バリアントがDCMの発症に強く関連することが示されました。
また、本バリアントは、SGCB遺伝子からRNAが作られる過程でエクソン2が読み飛ばされる「エクソン2スキッピング」を引き起こし、SGCB遺伝子産物であるβサルコグリカンタンパク質の発現低下、さらにα・γ・δサルコグリカンを含むサルコグリカン複合体全体のタンパク質の著明な発現低下をもたらしました。
従来、SGCB遺伝子は肢帯型筋ジストロフィーとの関連が知られていましたが、本バリアントをホモ接合体で保有する患者では筋力評価・血清CK値(筋肉の障害を反映する血液マーカー)・骨格筋MRI評価のいずれにも骨格筋障害を示す明らかな所見は認められず、病態は心臓に限局していました。さらに、これらの患者は、遺伝的原因不明のDCM患者と比較して予後が不良であり、若年で補助人工心臓装着・心臓移植・心血管死に至る例が多いことも明らかになりました。
■注釈
注1 SGCB遺伝子:
βサルコグリカンというタンパク質を作る遺伝子。βサルコグリカンは、心筋細胞や骨格筋細胞の細胞膜に存在する「サルコグリカン複合体」を構成するタンパク質の一つで、この複合体は細胞内の骨格と細胞外組織をつなぎ、筋肉の構造を安定に保つ役割を担う。
注2 スプライス部位バリアント:
遺伝子からRNAが作られる際に、不要な部分(イントロン)を切り取り、必要な部分(エクソン)をつなぎ合わせる「スプライシング」の境界部分に存在する塩基配列の違い。スプライシング異常を引き起こし、正常なタンパク質の産生低下や機能異常につながることがある。
注3 RNA-seq解析:
細胞や組織で発現しているRNA(遺伝子の転写産物)を網羅的に解読する解析手法。遺伝子発現量の異常やスプライシング異常を検出できる。
注4 マイナーアレル頻度:
ある集団において、2番目以降に頻度が低い(=マイナーな)方の対立遺伝子が占める割合のこと。
注5 ヘテロ接合体保有者:
片方の染色体のみにバリアントを持つ状態のこと
■発表論文情報
著者:李方方、四宮春輝*、藏本勇希、金岡幸嗣朗、坂橋優治、石原康貴、木岡秀隆、井手盛子、山口由美、田高周、元池育子、木下賢吾、大根田絹子、櫻井英俊、奥村貴裕、宮下洋平、城島昂太、加藤久和、松岡研、田邊和也、西村俊亮、髙島成二、朝野仁裕*、坂田泰史 (*:責任著者)
題名:Homozygous SGCB splice-site variant causes isolated dilated cardiomyopathy through sarcoglycan complex destabilization in East Asians
掲載誌:The Journal of Clinical Investigation
DOI: 10.1172/JCI198675
■謝辞
本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。
- 日本医療研究開発機構(AMED)(難治性疾患実用化研究事業(特発性心筋症の遺伝子診療に直結するエビデンス創出))
- 日本学術振興会科学研究費助成事業 (JP23K24328、JP25K02658、JP24K19057)
- 国立高度専門医療研究センター医療研究連携推進本部横断的研究(2024-B-08)
- 東北メディカル・メガバンク事業(MEXT・AMED:JP21km0105001、JP21km0105002、JP21tm0424601)
【報道機関からのお問い合わせ】
国立研究開発法人国立循環器病研究センター 企画経営部広報企画室
TEL: 06-6170-1069 (21120) MAIL: kouhou@ml.ncvc.go.jp
最終更新日:2026年06月30日