広報活動
MRIで見える脳の小さな血管の障害が身体機能低下に影響していた
― 国循が2年間の追跡研究で明らかに ―
~脳小血管病を標的とした治療戦略の確立と長期的な機能予後改善へ~
令和8年(2026年)6月11日
国立循環器病研究センター
国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)脳血管内科の新垣慶人医師、三輪佳織医長、古賀政利部長、豊田一則副院長らの研究グループは、国内52施設が参加した多施設共同観察研究BAT2研究*1において、頭部MRIの所見の中の脳小血管病(small vessel disease:以下SVD)*2の重症度が、将来の身体機能低下に独立して関連することを明らかにしました。
SVDは、脳の細い血管が障害される病態で、頭部MRIで評価できる脳の変化です。SVDはこれまで脳卒中の発症リスクであることが示されてきました。本研究ではさらに、脳卒中などのイベントを起こさない場合でも、SVDの所見が重度の患者は2年間で身体機能が低下するリスクが高いことが分かりました。この結果は、SVDそのものが、将来の身体機能低下に関与する重要な病態である可能性を示しています。
脳小血管病の重症度と身体機能低下との関連について大規模データ検証がされていなかった
現在「健康寿命」を伸ばすことが重要な課題となっていますが、そのためには身体機能低下をもたらす要因を明らかにしなければなりません。脳の中の非常に細い血管が高血圧などの影響を受けて少しずつ傷んでしまうSVDは、主として頭部MRIの所見としてみられます。特に、高血圧など血管危険因子を有する人や高齢者に多くみられ、将来の脳卒中の発症リスクや機能転帰との関連が知られています。そのSVDの重症度を頭部MRIで総合的に評価する指標として、「SVDスコア」があります。SVDスコアとは、「白質病変」「ラクナ」「脳微小出血」「大脳基底核の血管周囲腔拡大」の4項目を点数化し、重症度を0〜4点で評価する指標です。本BAT2研究では、2024年に、SVDスコアが高いほど、脳卒中再発や脳出血を含む出血イベントのリスクが上昇することを報告しました。SVDスコアは脳卒中リスクを総合的に反映するMRI指標として注目されています*3。その一方で、大規模な実臨床データではSVDスコアと身体機能低下との関連について検証されていませんでした。
SVDによる身体機能低下への影響は、脳出血、脳梗塞や心筋梗塞などの影響よりも、影響がより大きい
SVDは、脳の細い血管が障害されることで、脳に慢性的なダメージを与えることが知られており、脳へのダメージが徐々に蓄積することで、脳のネットワーク機能が低下し、歩行障害などの身体機能低下に影響する可能性が考えられます。そこで、本研究ではSVDの重症度がその後の身体機能低下に与える影響を明らかにすることを目的とし、登録時のSVDスコアと、その後2年間の身体機能低下との関連を検討しました。本研究は、抗血栓薬を内服している脳・心血管疾患患者5,378名を2年間調査しました。身体機能低下は、modified Rankin Scale(mRS)*4の上昇(1点以上の悪化、ΔmRS≧1)で評価しました。なお、mRS 6は死亡を意味し、本研究では最も重い機能転帰として扱いました。SVDスコア0と比較して、SVDスコア3以上で、2年間でmRS 1点以上の悪化が生じるリスクが高いことが分かりました。さらに、媒介解析*5の結果、SVDによる身体機能低下への影響は、脳出血などの出血イベントまたは脳梗塞や心筋梗塞などの虚血イベントを介した影響よりも、それらを介さない直接的な影響がより大きいことが示されました。これらの結果から、SVDそのものが身体機能低下へ関与している可能性を示しており、脳小血管病は出血や脳梗塞などの発症リスクを高めるだけでなく、身体機能低下にも直接関与する可能性が示されました。

今後の展望と課題
本研究により、頭部MRIで評価されるSVDの重症度が、その後の長期的な身体機能低下と関連することが明らかとなったことから、今後は、SVDそのものを標的とした治療戦略の確立と長期的な機能予後改善に向けた検討が求められます。
≪参考資料≫


注釈
*1 BAT2 (Bleeding with Antithrombotic Therapy 2)研究
多様化した経口抗血栓薬の使用実態を解明することを目的として立案された多施設共同前向きコホート研究です。国内52施設が参加し、経口抗血栓薬を服用する脳・心血管疾患患者5,378例が2016年10月から2019年4月にかけて登録されました。脳小血管病の評価を目的として規定条件での脳MRI撮影が行われ、画像読影は中央放射線診断委員会が一括して担当しました。登録患者は出血などのイベントの発生の有無について2年間追跡され、フォローアップは2021年4月に完了しています。(ClinicalTrials.gov NCT02889653; UMIN 000023669)
*2 脳小血管病 (small vessel disease: SVD)
脳小血管病は、脳の代謝や微小循環を担う細い血管が加齢や高血圧症などにより少しずつ障害される病態を指します。進行することで脳機能を低下させたり、脳卒中、認知症、排尿障害、歩行障害や気分障害のリスクが上昇する懸念があります。脳小血管病を示す脳MRI画像所見として、主に、大脳白質高信号、ラクナ、脳微小出血、血管周囲腔の拡大が知られています。大脳白質高信号は脳の神経線維が障害され白く見える変化、ラクナは小さな脳梗塞、脳微小出血は微小な出血、血管周囲腔の拡大は細い血管の周囲にある隙間が広がった状態を指します。
*3 参考文献
Tanaka K, Miwa K, Koga M, Yoshimura S, Kamiyama K, Yagita Y, Nagakane Y, Hoshino H, Terasaki T, Okada Y, et al. Cerebral Small Vessel Disease Burden for Bleeding Risk during Antithrombotic Therapy: Bleeding with Antithrombotic Therapy 2 Study. Ann Neurol. 2024;95:774-787. doi: 10.1002/ana.26868
*4 modified Rankin Sclae (mRS)
脳卒中領域で頻繁に使用される機能的な回復状況や障害の程度を評価するスケールです。0から6までのスコアで評価され、0は後遺症がない状態、6は死亡を意味します。スコアが高いほど、機能障害が重いことを意味します。
*5 媒介解析
ある要因が結果に影響を与える際に、その影響がどのような経路(直接的な影響か、他の出来事を介した間接的な影響か)を通じて生じているかを分けて評価する統計手法です。
発表論文情報
著者: Yoshito Arakaki, Kaori Miwa, Masatoshi Koga, Sohei Yoshimura, Kanta Tanaka, Jin Nakahara, Yusuke Yakushiji, Makoto Sasaki, Shigeru Fujimoto, Masayuki Shiozawa, Satoshi Okuda, Toru Iwama, Masafumi Ihara, Kazutoshi Nishiyama, Teruyuki Hirano, Kazunori Toyoda, for BAT2 Investigators
題名: Impact of cerebral small vessel disease on functional decline: Bleeding with Antithrombotic Therapy 2 Study
掲載誌: Stroke
DOI: 10.1161/STROKEAHA.125.054738
謝辞
本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。
・BAT2 studyの事業活動は、日本医療研究開発機構(AMED: JP18ek0210055、JP24lk0221171、およびJP24lk0221186)と日本学術振興会 科学研究費助成事業(JP19K17023およびJP23K27522)からの財政的支援を受けています。
【報道機関からのお問い合わせ】
国立研究開発法人国立循環器病研究センター 企画経営部広報企画室
TEL: 06-6170-1069 (21120) MAIL: kouhou@ml.ncvc.go.jp
最終更新日:2026年06月11日