広報活動
心房細動関連脳梗塞へのDOAC早期開始、アジア人でも安全かつ有益と判明
― 日本人初データで長年のジレンマに終止符 ―
令和8(2026)年5月29日
国立循環器病研究センター
国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の古賀政利 脳血管内科部長、吉本武史 脳神経内科派遣研修生(現:広島市立北部医療センター安佐市民病院)らの研究グループは、心房細動が原因で起こる脳梗塞の患者さんに、再発防止のためのDOAC(直接経口抗凝固薬)を通常よりも早いタイミングで開始しても安全かを検討しました。国際共同試験に登録されたアジア人のデータをサブ解析したところ、日本人を含むアジア人でも、DOACを早く開始しても頭蓋内出血等の出血トラブルは増えず、脳卒中再発防止に有効であることがわかりました。
心房細動関連脳梗塞におけるDOAC開始時期のジレンマ
心房細動(注1)は、重症の脳梗塞(心原性脳塞栓症)を引き起こす主要な原因疾患であり、再発予防にはDOAC(注2)による抗凝固療法が不可欠です。しかし、脳梗塞急性期のDOAC開始は頭蓋内出血を誘発する危険性があるため、「いつDOACを開始すべきか」は長年の臨床的ジレンマでした。2023年に発表された国際無作為化比較試験ELAN試験(注3)により、DOAC早期開始の再発予防効果と安全性が示されましたが、頭蓋内出血の発症率が高いとされるアジア人にこの戦略をそのまま適用してよいかは明らかではなく、日本人における至適なDOAC開始時期を決定するためには、アジア人を対象とした検証が必要と考えられてきました。
国際共同研究によるELAN試験アジア人サブ解析の実施
本研究は、スイス・ベルン大学のUrs Fischer教授(ELAN試験主任研究者)との国際共同研究として、ELAN試験のデータを用いた事後サブ解析を実施しました。世界15施設から登録されたアジア人患者245例と、欧州を中心とする非アジア人患者1,730例を対象に、早期開始群と後期開始群を比較し、ランダム化から30日後の複合アウトカム(注4)を主要評価項目としました。
DOAC早期開始の治療効果・出血リスクにアジア人と非アジア人で差は認められず
DOAC早期開始による治療効果はアジア人と非アジア人で同様の傾向を示し、両集団間に有意な交互作用は認められませんでした。安全性についても、症候性頭蓋内出血はアジア人は0%(非アジア人0.2%)であり、アジア人においてもDOAC早期開始は、再発予防効果を維持しつつ出血リスクを増加させない安全かつ有益な治療戦略であることが示されました(下図)。
DOAC早期開始戦略をアジア人の脳梗塞診療における標準治療へ
本研究の解析結果から、心房細動関連脳梗塞を発症した日本人を含むアジア人患者においても、「DOACを早期に開始することが望ましい」ということが明らかとなりました。今後は、DOAC早期開始戦略を脳卒中診療ガイドラインへ反映させ、日常診療における標準治療として、さらなるエビデンスを構築し、脳梗塞再発予防のための個別化医療を推進していきます。
<参考>
注釈
注1)心房細動(AF: Atrial Fibrillation):心房が不規則に細かく震える不整脈で、心房内に血液がよどみ血栓が形成されます。この血栓が脳動脈に詰まると、心原性脳塞栓症を引き起こします。高齢化に伴い患者数は増加しており、日本の推定患者数は100万人を超えるとされています。
注2)DOAC(Direct Oral Anticoagulant、直接経口抗凝固薬):ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンなど、トロンビンまたは第Xa因子を直接阻害する経口抗凝固薬です。従来のワルファリンと比べて出血リスクが低く、定期的な血液モニタリングが不要であることが特徴です。
注3)ELAN試験(Early versus Late initiation of direct oral Anticoagulants in post-ischemic stroke patients with atrial fibrillation):心房細動関連脳梗塞患者に対するDOACの早期開始と後期開始を比較し、有効性と安全性を検証した国際無作為化比較試験です。軽症・中等症では発症48時間以内、重症では6~7日以内の早期開始戦略が検証されました。
注4)複合アウトカム:本研究では、再発性虚血性脳卒中、全身性塞栓症、症候性頭蓋内出血、主要頭蓋外出血、血管死の5項目のいずれかが30日以内に発生した割合を評価する指標として用いました。
研究参加者プロフィール
古賀政利:
国立循環器病研究センター 脳血管内科部長。1994年広島大学医学部医学科卒業。医学博士(九州大学)。国立循環器病センターでのレジデント研修を経て、豪州メルボルンNational Stroke Research Instituteにて神経画像研究に従事。2018年より現職。専門は脳卒中・脳血管障害、心原性脳塞栓症の再発予防、急性期脳梗塞の再灌流療法。大規模脳卒中登録研究や抗血栓薬の最適化など、多くの競争的資金研究を主導。所属学術団体は日本神経学会、日本脳卒中学会、日本脳神経超音波と栓子検出学会ほか。
吉本武史:
2018年より国立循環器病研究センター脳神経内科医師、2024年からは筑波大学附属病院病院講師、2026年4月から広島市立北部医療センター安佐市民病院脳神経内科部長。主な研究領域は、脳血管内治療、急性期脳卒中の画像診断学、RNF213関連血管症。世界脳卒中機構(WSO)GENESIS委員会委員、米国心臓協会フェロー(FAHA)、SVIN 2025年年次総会プログラム委員会委員、JRC蘇生ガイドライン委員2025、日本脳卒中学会脳卒中ガイドライン委員会(改訂2025)、日本脳神経超音波学会評議員。
発表論文情報
著者:Takeshi Yoshimoto, Masafumi Ihara, P N Sylaja, Jean-Benoît Rossel, Shigeru Fujimoto, Yasuyuki Iguchi, Rajsrinivas Parthasarthy, Pamidimukkala Vijaya, Yusuke Yakushiji, Thomas Iype, Makoto Nakajima, Dheeraj Khurana, Vivek Nambiar, Hisanao Akiyama, Kazunori Toyoda, Angelika Alonso, Sven Poli, Caterina Kulyk, Nicoletta G. Caracciolo, Dimitri Hemelsoet, Ana Paiva Nunes, Jeyaraj Durai Pandian, Jesse Dawson, Urs Fischer*, Masatoshi Koga* (*責任著者)
題名:Outcomes of Early versus Later Anticoagulation in Asian Atrial Fibrillation-Related Stroke: ELAN Subgroup Analysis
掲載誌:Journal of Stroke(オンライン版、2026年5月28日掲載)
DOI:10.5853/jos.2025.05848
謝辞
本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。
- スイス国立科学財団(Swiss National Science Foundation)
- ベルン大学病院(Inselspital, University Hospital Bern)
- 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業
- 国立循環器病研究センター 循環器病研究開発費
【報道機関からのお問い合わせ】
国立研究開発法人国立循環器病研究センター 企画経営部広報企画室
TEL: 06-6170-1069 (21120) MAIL: kouhou@ml.ncvc.go.jp
最終更新日:2026年05月29日