広報活動
遺伝子配列の個人差で脳梗塞の再発リスクが5倍変わる
-東アジア人特有の遺伝子バリアント-
2026年5月1日
国立循環器病研究センター
国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の猪原匡史 副院長・脳神経内科部長、服部頼都 脳神経内科医長・認知症先制医療開発部特任部長、吉本武史 脳神経内科派遣研修生(現:広島市立北部医療センター安佐市民病院)、石山浩之 脳神経内科医師、西村邦宏 予防医学・疫学情報部部長、尾形宗士郎 同室長、清重映里 同上級研究員らの研究チームは、2026年4月に、DNA配列の個人差(以下、遺伝子バリアント)の中で、東アジア人に特有な配列である「RNF213 p.R4810K注1」を持つ人は、持たない人に比べて脳梗塞の再発しやすさが5倍、という研究成果を発表しました。この研究により「遺伝子バリアントの有無」をあらかじめ知っておくことで、各患者さんの脳梗塞再発リスクを把握して最適な予防策を講じるという個別化医療に役立つ可能性があることを明らかにしました。
◆脳梗塞再発予防戦略の有効性の開発急がれる
近年、さまざまな遺伝子バリアントによって脳梗塞の発症しやすさには個人差があることが明らかになっています。遺伝子バリアント「RNF213 p.R4810K」は、内頚動脈という太い脳血管の終末部が徐々に閉塞する「もやもや病注2の創始者バリアント注3」とみなされています。加えて、もやもや病ほど重症ではないものの、この遺伝子バリアントは「もやもや病」以外の脳の太い血管の狭窄症や脳梗塞のリスクであることも明らかとなっており、日本人を含む東アジア人集団に多いため、日本人の脳梗塞を予防するためには、この遺伝子バリアントを保有しているかどうかを知っておくことが特に必要と考えられてきました。
◆ 遺伝子バリアントの有無で脳梗塞の予防策(危険因子のコントロール)を知る
本研究は、2017年3月から2022年3月まで(中央値3.6年間)「NCVCゲノムレジストリ注4」を用いて、脳梗塞を発症して1週間以内の「もやもや病」ではない患者1267名を、この遺伝子バリアント「RNF213 p.R4810K」保有者と、非保有者の2つのグループに分類、前向きに追跡解析しました。主に、症状を伴う脳梗塞または一過性脳虚血発作の再発率を検討し、さらに、「もやもや病」への移行率も確認しました。本研究により、日本人のこの遺伝子バリアント保有者は、脳梗塞または一過性脳虚血発作の長期再発率が高いことがはじめて明らかになりました。日本人を含めた東アジア人集団において、この遺伝子バリアントは強力な「脳梗塞再発リスク」であり、本バリアントを保有していることがわかれば、従来の血管危険因子(高血圧症、糖尿病、脂質異常症、喫煙など)のさらなるコントロールを行うなど、脳梗塞の予防策を講じていくことができます。さらに、本バリアントを保有していると、「もやもや病」(指定難病22)へ移行する可能性があることから、長期的に脳梗塞予防を行うために、本バリアントの有無を調べておくことが望ましいと思われます。

◆遺伝子バリアント判定を日常診療における検査として社会実装化へつなげたい
本研究の解析結果から、脳梗塞をいったん発症した患者は、遺伝子バリアント「RNF213 p.R4810K」を保有しているかどうかを調べておくことが望ましいということが明らかになりました。この判定法を日常診療における検査として社会実装できるように、さらなるエビデンスの構築を行い、脳梗塞予防のための個別化医療を推進していきます。
≪参考≫
★この成果は、2026年4月25日にLancet誌の姉妹誌であるLancet Regional Health—Western Pacific (オンライン版)で発表されました。
- RNF213 p.R4810Kバリアント保有者(赤線)は非保有者(青線)に比べて、脳梗塞/一過性脳虚血発作の再発リスクが有意に高かった(図2)(調整ハザード比 5.58;95%信頼区間 2.15~14.54)。
- 脳血管の狭窄症を原因とする脳梗塞(アテローム血栓性脳梗塞)を発症した患者に限定して解析した場合も、本バリアントは同様の高い再発リスクを示した(図3)(調整ハザード比 4.90;95%信頼区間 1.32~18.25)。
- 本バリアント保有者の2.8%がもやもや病に移行した。

■注釈
注1) RNF213 p.R4810K:
もやもや病の疾患感受性遺伝子であるRNF213遺伝子のp.R4810Kバリアント(DNAの塩基配列に生じる違い)は日本人の2~3%が有しています。もやもや病のみならず、さまざまな脳血管の狭窄症とそれに起因する脳梗塞とも関連していると考えられています。
注2) もやもや病:
ウィリス動脈輪閉塞症とも呼ばれ、脳に栄養を送る頭蓋内の太い動脈(内頚動脈)が細くなったり、詰まったりして脳に流れる血液の量が減少して起こる病気です。不足した血液を補うように発達した末梢の細い血管(もやもや血管)が、脳血管造影検査でもやもやした煙のように見えることから「もやもや病」と名付けられました。この病気は日本で見つかり、「もやもや病」という病名は、現在世界中で使われています。

注3) 創始者バリアント:
集団の最初の一人が有し、子孫集団中に広がったと考えられる遺伝子バリアントのこと。RNF213 p.R4810Kバリアントは、推定1万5千年前の中国、韓国、日本共通の祖先にまでにさかのぼることが判明しており、東アジアの歴史の中で広がっていった遺伝子バリアントです。
注4) NCVCゲノムレジストリ:
猪原匡史 副院長・脳神経内科部長を研究代表として、国内8医療機関が参加・実施した医療情報データベースです。
■研究参加者プロフィール
猪原匡史:
2019年より国立循環器病研究センター脳神経内科部長、2025年より国立循環器病研究センター副院長。脳卒中と認知症の創薬研究に注力し、ペプチドホルモンによる創薬では実用化に近づいている。米国内科学会上級会員(FACP)、米国心臓協会フェロー(FAHA)として海外での招待講演多数。
服部頼都:
2019年より国立循環器病研究センター脳神経内科医長、2024年より同認知症先制医療開発部特任部長を併任。基礎研究・臨床研究の両面から、脳血管障害、認知症のメカニズムを追求するとともに、橋渡しによる新規脳血管障害・認知症治療法の開発をも手掛けている。国際脳循環代謝学会理事。
吉本武史:
2018年より国立循環器病研究センター脳神経内科医師、2024年からは筑波大学附属病院病院講師、2026年4月から広島市立北部医療センター安佐市民病院脳神経内科部長。主な研究領域は、脳血管内治療、急性期脳卒中の画像診断学、RNF213関連血管症。世界脳卒中機構(WSO)GENESIS委員会委員、米国心臓協会フェロー(FAHA)、SVIN 2025年年次総会プログラム委員会委員、JRC蘇生ガイドライン委員2025、日本脳神経超音波学会評議員。
石山浩之:
2021年より国立循環器病研究センター脳神経内科医師として、脳血管内治療を含む脳卒中診療に従事。主な研究領域は脳卒中遺伝学で、遺伝学的視点から脳卒中や遺伝性脳血管障害の病態解明に取り組み、ゲノム情報の臨床応用・社会実装を推進している。
■発表論文情報
著者:吉本武史、服部頼都、石山浩之、清重絵里、尾形宗士郎、西村邦宏、岡田陽子、赤岩靖久、川本未知、一條真彦、井上裕康、水野敏樹、冨本秀和、川上大輔、猪原匡史
題名:Long-term outcomes in the pre-moyamoya stage of RNF213-related vasculopathy presenting with ischaemic stroke or transient ischaemic attack: Insights from the NCVC Genome Registry
掲載誌:Lancet Regional Health—Western Pacific
■研究実施機関
代表機関名:国立研究開発法人国立循環器病研究センター
代表者名(所属・役職):猪原匡史(副院長、脳神経内科部長)
■謝辞
本研究は、本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。
・AMED循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業「東アジア特有の高血圧・脳梗塞リスクRNF213 p.R4810K多型の迅速判定法の確立と判定拠点の構築」により支援されました。
【報道機関からの問い合わせ】
国立研究開発法人国立循環器病研究センター 企画経営部広報企画室
TEL: 06-6170-1069 (21120) MAIL: kouhou@ml.ncvc.go.jp
最終更新日:2026年05月01日