広報活動
血管周囲腔拡大は脳梗塞及び重大出血の発生と関連
―血管周囲腔拡大の臨床的影響を解明―
~2年の研究調査から得た血管リスク評価指標~
令和8年(2026年)4月2日
国立循環器病研究センター
国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の岩本創哉医師、三輪佳織医長、古賀政利部長、豊田一則副院長らの研究グループは、抗血栓薬を内服している脳・心血管疾患患者5,378名を対象とした国内52施設が参加した多施設共同観察研究BAT2注1)において、脳MRIでみられる、脳内 (基底核周辺) の小血管周囲の隙間(血管周囲腔)が拡大していることが、脳梗塞の発症リスクだけではなく全身の重大な出血リスク(消化管出血、脳出血等)に関連していることを発見しました。
脳MRIにおける血管周囲腔拡大と脳・心血管疾患リスクの関連性は知られていない
血管周囲腔は脳内の小血管を取り囲む脳脊髄液で満たされた構造で、加齢や高血圧に伴い拡大することが知られています。特に大脳基底核と呼称される脳の深部での血管周囲腔の拡大(BGPVS)は脳小血管病 注2)の一つの特徴として認識されてはいるものの、その臨床的意義はよく分かっていませんでした。
抗血栓薬を服用する患者集団は、その背景から血管に詰まり(虚血)・出血などトラブルが比較的生じやすいことが予測されます。このような患者の将来の虚血や出血のリスク評価は治療方針決定にとても重要です。
従って本研究グループは、血管周囲腔の拡大という未解明の脳小血管病マーカーが、そのような患者集団の虚血や出血イベントの発症リスクとどのような関係があるのかを調査しました。
2年間の追跡研究から得た解析結果
本研究では、全国52施設から登録された5,378名を対象に、登録時の脳MRIで大脳基底核における血管周囲腔の拡大所見を肉眼的にカウントし、0個、1〜10個、11〜20個、21個以上の4群に分類して、約2年間追跡しました。

・追跡期間中のイベント数:
重大な出血(脳を含む全身)92件、脳梗塞188件
・解析結果:
重大な出血や脳梗塞の累積発生率は血管周囲腔の拡大が増加するにつれて段階的な上昇を示しました。さらに、上記イベントの発症リスクと血管周囲腔拡大との関連を以下のように解析しました。
・血管周囲腔の拡大が21個以上の群は0個の群と比較して、
重大な出血リスク(Hazard Ratio: HR)が4.04倍(95%信頼区間:1.17〜13.92)
脳梗塞リスク(HR)が2.58倍(95%信頼区間:1.21〜5.50)
と有意に上昇していました。
また0個の群と比較せずとも、個数のカテゴリ(0個、1〜10個、11〜20個、21個以上)が1段階上昇するごとに、重大な出血リスクは1.38倍、脳梗塞リスクは1.28倍となり、これらの関連は、他のリスク因子(年齢や性別、高血圧症の有無などの背景)を考慮した解析においても同様の結果でした。


今後の展望と課題
これまで血管周囲腔の拡大は病的意義の乏しい加齢性変化と考えられていましたが、脳のみでなく全身性の出血リスクを予測する可能性があり、抗血栓療法中の患者における包括的な血管リスク評価の指標として、病気の早期発見や治療方針を定める際の指標になることが期待されます。
≪参考≫
この研究成果は、Neurologyオンライン版に令和8年3月20日に掲載されました。
注釈
- BAT2 (Bleeding with Antithrombotic Therapy 2)研究
多様化した経口抗血栓薬の使用実態を解明することを目的として立案された多施設共同前向きコホート研究です。国内52施設が参加し、経口抗血栓薬を服用する脳・心血管疾患患者5,378例が2016年10月から2019年4月にかけて登録されました。脳小血管病の評価を目的として規定条件での脳MRI撮影が行われ、画像読影は中央放射線診断委員会が一括して担当しました。登録患者は出血などのイベントの発生の有無について2年間追跡され、フォローアップは2021年4月に完了しています。(ClinicalTrials.gov NCT02889653; UMIN 000023669)
- 脳小血管病 (small vessel disease: SVD)
脳小血管病は、脳の代謝や微小循環を担う細い血管が加齢や高血圧症などにより少しずつ障害される病態を指します。進行することで脳機能を低下させたり、脳卒中や認知症のリスクが上昇する懸念があります。脳小血管病の進行度合いを示す脳MRIの変化として、ラクナ、脳微小出血、大脳白質高信号、そして本研究で調査した血管周囲腔の拡大が知られています。
発表論文情報
著者:Soya Iwamoto、Kaori Miwa、Masatoshi Koga、Sohei Yoshimura、Kanta Tanaka、Yusuke Yakushiji、Makoto Sasaki、Haruhiko Hoshino、Masayuki Shiozawa、Yoshiki Yagita、Kohsuke Kudo、Yoshinari Nagakane、Masafumi Ihara、Kazutoshi Nishiyama、Jin Nakahara、Teruyuki Hirano、Kazunori Toyoda、for BAT2 Investigators
題名:Impact of Basal Ganglia Perivascular Spaces on Ischemic and Hemorrhagic Risks in Patients Taking Antithrombotic Therapies
掲載誌:Neurology
DOI:10.1212/WNL.0000000000214745.
謝辞
本研究は日本医療研究開発機構(AMED)および日本学術振興会科学研究費の支援を受けて実施されました。

【報道機関からの問い合わせ】
国立研究開発法人国立循環器病研究センター 企画経営部広報企画室
TEL: 06-6170-1069 (21120) MAIL: kouhou@ml.ncvc.go.jp
最終更新日:2026年04月02日