広報活動
国循が国内統括する医師主導国際共同試験の主解析結果公表
ー急性期脳出血への止血治療開発、第二段階へ前進ー
令和8(2026)年3月5日
国立循環器病研究センター
国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の豊田一則副院長が国内研究代表者を務め、世界93施設(国内14施設)共同でFASTEST注1試験を行ないました。急性期脳出血患者への止血治療薬としての遺伝子組換え活性型第VII因子(FVIIa、静注薬)の有効性と安全性を偽薬と比較する臨床試験の中間解析で、試験薬の有効性を証明できませんでした。しかし登録時の頭部CTでスポットサイン注2が見られた症例には試験薬の効果がより明瞭に認められ、現在そのような症例に対象を絞ったPart 2試験が開始されています。第二段階に進んだ急性脳出血止血治療の開発に、期待が持てます。
■急性期脳出血への治療開発の遅れ
脳卒中はわが国の死因の第4位を占める国民病です。急性期脳梗塞に再灌流療法(血栓溶解、血栓回収)などエビデンスの高い標準治療が存在する半面、脳卒中の中でも脳出血は特に重症でありながら、急性期治療開発が遅れています。FVIIaは生体内での一連の凝固反応の起点となり、これまでに血友病や先天性第VII因子欠乏症の出血傾向を抑止する治療薬ノボセブン®として、国内でも承認されています。この特性を生かして、FVIIaを全身の大出血への治療に用いる臨床試験が各種行われ、脳出血に対してもFVIIaの臨床応用が試みられるも、成功に至りませんでした。
■試験の設計を柔軟に変更できるアダプティブデザインを採用
米国シンシナティ大学のジョセフ・ブレデリック教授が主宰し、豊田副院長も計画の早期段階から運営に加わり、過去の試験のデザインや結果から、発症後超早期の患者だけに対象を絞って、今回のFASTEST試験は組まれました。
多施設共同、前向き、二重盲検、無作為化、偽薬対象、第Ⅲ相試験で、試験の設計を柔軟に変更できるアダプティブデザイン注3を採用し、カナダ、スペイン、ドイツ、英国と合計6カ国が参加して行われました。発症後2時間以内に試験薬を投与可能な脳出血患者をFVIIa 80 μg/kgか偽薬の1:1に無作為に割り付け、180日後の修正ランキン尺度注4を用いた機能転帰を主要評価項目としました。626例の検討で2群を比べた結果、FVIIaで出血拡大を確実に防げますが、転帰改善には至らず、中間解析を経て試験はいったん中止されました。しかしアダプティブデザインを採用していましたので、サブグループ解析でCT血管造影でスポットサインを認めた症例では有望な結果が得られ、独立安全性評価委員会からも勧められて、スポットサイン陽性例に対象を絞ったPart 2試験を現在行っています。
■FASTEST試験への日本の貢献
本試験の計画段階から日本医療研究開発機構(AMED)の研究助成を受け、国内14施設が参加。国循は国内主管施設として、参加施設の調整やモニターリング、中央薬局など多くの業務に就きました。国循は276例(全体の44%)を登録し、施設別で世界第1位となりました。また、日本は90分以内の超早期に登録した割合が参加国の中で高く、そのためか相対的に良い主要評価項目の結果を残しました。本試験の結果はLancet誌への電子掲載と同日に、米国ニューオーリンズで開かれていた国際脳卒中カンファレンスのプレナリー発表に選ばれ、ブレデリック教授と豊田副院長とで発表を行いました。
≪参考≫
注1 FASTEST:rFVIIa for Acute Hemorrhagic Stroke Administered at Earliest Time。(ClinicalTrials.gov NCT03496883)
注2 スポットサイン:造影CTで脳出血の血腫内に見られる点状の造影剤集積を指す。血腫拡大の予測因子として有名。
注3 アダプティブデザイン:事前に定めたルールに従い、臨床試験の進行中に収集された臨床情報に基づいて、試験の設計を柔軟に変更できる方法論。
注4 修正ランキン尺度:脳卒中後の患者の機能的自立度を評価する尺度。0~6の7段階に分ける。
※本試験では3段階に分けて評価①0~2(日常生活が自立)②3(何らかの介助を要するが歩行は介助不要)③4~6(歩行や日常生活に介助必要、寝たきり、死亡)
※学術誌Lancet誌オンライン版に、2026年2月4日(米国時間)に掲載されました。
■FASTEST試験主解析結果
シフト解析で調整オッズ比1.09、95%信頼区間 0.79~1.51と有意差を示せず(図)、4日以内の重篤な血栓塞栓合併症は相対危険3.41、95%信頼区間1.14~10.15とFVIIa群で多いものの発症頻度は5%未満と低く、また治療開始後24時間以内の血腫量拡大の平均値はFVIIa群が偽薬群に比べて3.7mL(95%信頼区間 -5.4~-1.9)、血腫量と脳室内出血量の和は5.2mL(-7.6~-2.8)と、ともに有意に小さい結果でした。
図: 180日後の修正ランキン尺度

国内からのFASTEST試験参加施設
施設名 | 登録数 |
神戸市立医療センター中央市民病院 | 53 世界第2位 |
岩手県立中央病院 | 29 世界第4位 |
虎の門病院 | 25 世界第6位 |
新潟市民病院 | 19 世界第7位 |
鹿児島市立病院 | 16 世界第9位 |
杏林大学医学部付属病院 | 12 |
京都第二赤十字病院 | 12 |
岐阜大学医学部附属病院 | 11 |
大阪医療センター | 9 |
中村記念病院 | 7 |
関西医科大学附属病院 | 7 |
九州医療センター | 4 |
自治医科大学附属病院 | 2 |
国立循環器病研究センター | 70 世界第1位 |
■発表論文情報
著者: Broderick JP, Naidech AM, Elm JJ, Toyoda K(豊田一則), Dowlatshahi D, Demchuk AM, Khatri P, Steiner T, Bath PM, Audebert HJ, Vagal A, Yoshimura S(吉村壮平), Mayer SA, Wang LL, Sabagha N, Mocco JD, Molina C, Aviv R, Stinson E, Quadri SA, Carrozzella J, Huynh T, Phan A, Beall J, Davis I, Sakai N, Ohta T, Yokosawa M, Hara T, Sangha N, Morita K, Dominc Tse MY, Streib CD, Miyashita F, Silva Y, Nagakane Y, Gheorghiu T, Sun CH, Hirano T, Poli S, Izumo T, Fukuda-Doi M(福田真弓), Ihara M(猪原匡史), Koga M(古賀政利), Buck B, Walsh KB, Spokovny I, Grotta JC; FASTEST Investigators. (下線は日本人研究者、太字は国循職員)
題名: Recombinant factor VIIa versus placebo for spontaneous intracerebral haemorrhage within 2 h of symptom onset (FASTEST): a multicentre, double-blind, randomised, placebo-controlled, phase 3 trial.
掲載誌: Lancet
■謝辞
本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。
・AMED (JP19lk0201094, JP23lk0221171)
【報道機関からの問い合わせ先】
国立循環器病研究センター 企画経営部広報企画室 水本・間嶋
TEL : 06-6170-1069(21120) MAIL: kouhou@ml.ncvc.go.jp
最終更新日:2026年03月05日