広報活動
国循が経皮的三尖弁クリップ留置術の実施成功
~手術が難しい「三尖弁閉鎖不全症」に新たな選択肢、患者の負担減へ~
令和8年(2026年)3月2日
国立循環器病研究センター
国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の弁膜症治療チーム(心不全科、心臓外科、冠疾患科)は「TriClip」を用いた三尖弁閉鎖不全症に対するカテーテル治療を2026年3月2日に西日本で初めて実施しました。国内では、2018年から僧帽弁閉鎖不全症に対するカテーテル治療が実施されてきましたが、三尖弁閉鎖不全症は治療法が外科手術に限られていました。2026年3月1日にカテーテル治療が保険承認されたため、国循ではいち早くこの治療に取り組みました。三尖弁閉鎖不全症の患者さんの身体的な負担を軽減できる可能性のある新たな治療法が加わり、心不全治療の幅をさらに広げるものと期待されています。
三尖弁閉鎖不全症における治療の課題
心臓は4つの部屋と、それらの間を一方向に血液が流れるように調整する弁によって構成され、全身に血液を送りだすポンプとして働いています。この弁の機能に問題が起こると「弁膜症」と診断され、進行すると心不全を引き起こします。「弁膜症」のなかでも「三尖弁閉鎖不全(逆流)症」は、全身の血液を受け取る側の弁である三尖弁が十分に閉じず、血液が逆流してしまう状態で、足のむくみや肝うっ血など右心不全の症状が現れ、重症になると、生活の質の低下や死亡率の増加につながることが知られています。しかし、外科手術しか根本的治療がなく、特に高齢の心不全患者では実際に手術を受けられる方はごくわずかでした。そのため『治療が必要であっても受けられない』患者が多く存在することが大きな課題でした。こうした背景のもと、より身体的負担が少ないカテーテル治療への期待が高まっていました。
日本の三尖弁閉鎖不全症(TR)患者数
今回実施した「TriClip」カテーテル術は、右足の付け根からカテーテルを挿入し、弁尖をクリップでつまむことで逆流を軽減する低侵襲治療です。同様の治療は僧帽弁では日本で1万例以上行われており、安全性が確立されています。すべてのTR患者が治療対象ではありませんが、多くの方が恩恵を受ける可能性がある治療です。薬物治療と比較して、安全性と効果の両面で優れた結果が次のように報告されており、今後の普及が期待されています。
- 84%の患者で逆流が中等度以下に改善
- 生活の質(KCCQ)が15ポイント以上改善(=患者が自覚的に「良くなった」と感じるレベル)
- 心不全による再入院を有意に減少(0.19 vs 0.26件/人年)
- 周術期死亡率 0%
新たな選択肢、患者の負担減へ
海外のデータでは、75歳以上では4%が中等度以上のTRがみられ、日本のデータでも慢性心不全患者の22.4%が中等度以上のTRを認めるとされています。(KUNIUMI Registry, 2025)
また、日本の心不全患者数は約120万人と報告されており、約27万人が中等度以上のTRを有すると推計されます。(Journal of Cardiology 2023)
このことからも「TriClip」カテーテル術で多くの患者の命をつなぐことが期待されます。
≪ 参考資料 ≫
受診すべき症状
TRに特有の症状はありませんが、心不全の症状が手がかりになります。
- 新たに出現した息切れ
- 疲れやすい、倦怠感
- 足を中心としたむくみ
高齢者では「年のせい」と誤解される例も多いですが、実際には心不全が隠れていることがあります。治療可能な原因による心不全であれば、適切な治療により症状の改善や生活の質の大幅な向上が期待できます。特に 足のむくみ・疲れやすさ・息切れ が続く場合は、年齢のせいにせず、一度検査を受けることで安心につながります。
実際のデータを示す:JTS2023
【報道機関からの問い合わせ】
国立研究開発法人国立循環器病研究センター 企画経営部広報企画室
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最終更新日:2026年03月02日