広報活動
指定難病「慢性血栓塞栓性肺高血圧症」、カテーテル治療・ 薬物治療の進歩により最近10年間で死亡リスクは87%減少
2025年7月18日
国立研究開発法人国立循環器病研究センター
国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の肺循環科 喜古崇豊医師、大郷剛特任部長らの研究グループは、国循の「慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)」患者834名を対象に、治療方法の進歩に応じて1980年から2023年までを3期に分類し、全死亡率の変化を検討しました。その結果、最近10年の長期生命予後が大幅に改善していることが明らかになりました。
限られた治療法からマルチモーダル治療へ
CTEPHは、肺動脈に血栓が残り、血流が慢性的に悪くなり、肺高血圧を引き起こす病気です。進行すると右心不全になり、生命に関わります。以前は有効な治療法が少なく、多くの患者が適切な治療を受けられませんでした。しかし、2000年に肺動脈血栓内膜摘除術(PEA)が開始され、2010年にはバルーン肺動脈形成術(BPA)が登場し、手術を受けられない患者への新たな治療となりました。さらに、肺高血圧症の治療薬も開発が進み、PEA、BPA、薬物治療を適切に組み合わせた「マルチモーダル治療(Multimodal treatment)」が重要であることがわかってきました。
CTEPH治療の進歩と生存率の改善
初期(1980−1999年)は治療法があまりなく、65%の患者が適切な治療を受けていませんでしたが、中期(2000-2010年)では治療を受けられない患者は36%、後期(2010-2023年)ではわずか3%となりました。「マルチモーダル治療」を受けた患者の割合は、初期では0%、中期では8%、後期では58%にまで増加しました。また、5年生存率は初期の68%から中期では85%、後期では93%へと改善し、時代が進むにつれて生存率が有意に向上していることが示されました。また、死亡リスクは、中期は初期と比べて71%低下、後期は中期と比べて55%、初期との比較では実に87%低下することが示されました。
個別化医療の最適化へ
本研究は、指定難病であるCTEPHにおいて、PEA、BPA、薬物治療の発展に伴い、国循における過去10年の長期生命予後が大幅に改善していることが明らかになりました。それぞれの治療方法の進歩や、治療の組み合わせによる「マルチモーダル治療」の発展が、予後向上に大きく寄与した可能性が高いと考えられます。今後は、どの患者にどの治療を適用すべきかを明確にし、個別化医療の最適化を図ることが求められます。
※本研究成果は、2025年7月に欧州呼吸器学会の機関紙「European Respiratory Journal」Volume 66, Issue 1に掲載されました。
《参考》
研究手法
本研究では、1980年から2023年までに国立循環器病研究センターで診断・治療されたCTEPH患者834名を対象に、予後の変化を検討しました。対象者を以下の3つの時代に分類し、全死亡率の変遷を解析しました。なお、生存率はKaplan-Meier解析を、死亡リスクはCox比例ハザード解析をそれぞれ用いた。
初期(1980年4月~1999年12月):CTEPHに対する治療方法が確立されていない時代
中期(2000年1月~2010年9月):PEAの手技が確立された時代
後期(2010年10月~2023年12月):BPA・肺高血圧症治療薬が本格的に導入され、マルチモーダル治療が確立された時代
発表論文情報
著者:Takatoyo Kiko, Ryotaro Asano, Yusuke Yoshikawa, Hiroyuki Endo, Shinya Fujisaki, Ryo Takano, Mitsumasa Akao, Naruhiro Nishi, Hiroya Hayashi, Soshiro Ogata, Akiyuki Kotoku, Hiroki Horinouchi, Yosuke Inoue, Jin Ueda, Yoshimasa Seike, Akihiro Tsuji, Tetsuya Fukuda, Kunihiro Nishimura, Hitoshi Matsuda, Takeshi Ogo
題名:Survival trends in patients with chronic thromboembolic pulmonary hypertension: An observational study
掲載誌:European Respiratory Journal
DOI:https://doi.org/10.1183/13993003.02268-2024
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国立研究開発法人国立循環器病研究センター 企画経営部広報企画室
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最終更新日:2025年07月18日