国立循環器病研究センター

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広報活動

心房細動を伴う脳梗塞の再発防止には発症4日以内の抗凝固薬開始が有用

‐脳梗塞の診療ガイドライン推奨内容の改訂につながる成果‐


2025年7月3日
国立研究開発法人国立循環器病研究センター

 国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の脳血管内科(古賀政利部長)は国際共同ELAN試験(15カ国103施設参加の大規模臨床試験)の日本代表として、国際共同研究グループCATALYSYSに参加しました。CATALYSYS研究は、4つの国際共同無作為割付試験の個別データを一つの大規模データベースに統合して解析を行い、「心房細動を伴う脳梗塞では発症4日以内に直接作用型経口抗凝固薬を開始することが安全かつ有効である」ことを示しました。

非弁膜症性心房細動を伴う脳梗塞の急性期は脳梗塞の再発と脳梗塞部位の出血のリスクがどちらも高く、最適な抗凝固薬開始時期が検討されてきた

 非弁膜症性心房細動を伴う脳梗塞の再発予防にはDOAC(凝固因子を直接阻害することのできる経口投与薬)を使った抗凝固療法が有効です。しかし、脳梗塞発症直後は出血のリスクが高く、この治療をいつから開始するか十分な研究データがありませんでした。欧州心臓律動学会は、専門家の意見をもとに、脳梗塞発症後の抗凝固療法開始の目安を提案しました。一過性脳虚血発作では1日後、軽い脳梗塞では3日後、中等症脳梗塞では6日後、重症脳梗塞では12日後で、「1-3-6-12 日ルール」と呼びます。しかし、2022年、当センターの脳血管内科が中心となって行った観察研究統合解析では、DOACをより早く始める方が有効かつ安全である可能性が示されました。新しい提案は、一過性脳虚血発作は1日後、軽症脳梗塞2日後、中等症脳梗塞3日後、重症脳梗塞4日後からの開始で、「1-2-3-4 日ルール」と呼びます。さらに今回の研究であるCATALYSISでは、4つの無作為割付試験の個別データを統合解析して、脳梗塞を発症して4日以内のDOAC開始の安全性と有効性を調べました。その結果、心房細動を伴う脳梗塞の場合、発症4日以内にDOACを始めることが安全かつ有効であることが確認できました。

ガイドライン改訂に繋がる成果へ

 本研究では、「非弁膜症性心房細動を伴う脳梗塞患者を対象として発症4日以内と5日以降のDOAC開始を比較した無作為割付試験」を、PubMed、Cochrane、Embaseなどの文献データベースを使用して体系的に調べました。その結果、対象となった試験は、TIMING(NCT02961348)、ELAN(NCT03148457)、OPTIMAS(NCT03759938)、START(NCT03021928)の4試験です。
統合されたデータには5,441例(平均年齢77.7歳、女性45.4%)が含まれました。主要評価項目である登録30日以内の脳梗塞再発、頭蓋内出血または分類不能脳卒中の複合評価項目の発生率は、発症4日以内DOAC開始で2.12%、5日以降開始で3.02%であり、4日以内開始で有意に30%少ない結果でした。
副次評価項目の登録30日以内の脳梗塞再発は各1.68%と2.55%で、4日以内開始により有意に34%減少しました。登録30日以内の症候性頭蓋内出血(各0.45%と0.40%)、頭蓋外出血(各0.45%と0.55%)、死亡(各3.68%と4.36%)の発生は、2群間で同程度でした。
本研究の結果は、非弁膜症性心房細動を伴う脳梗塞発症4日以内からのDOAC開始の有効性と安全性を確立し、ガイドライン改訂に繋がる成果となりました。

※主要および副次評価項目

今後の展望と課題

 本研究CATALYSISに統合した4つの1つであるELAN試験は、循環器病研究開発費の研究助成を受けて、国循が中心となって国内の多くの施設が参加しました。
なお、このCATALYSIS研究では、全ての試験に出血性脳梗塞(脳実質内血腫type2)は登録されていないことに注意が必要です。また、超重症脳梗塞患者は全体の4.6%しか含まれていないため、超重症脳梗塞患者に対する適切なDOAC開始時期に関して、今後のさらなる検証が必要です。

※この研究成果は、Lancetオンライン版に令和7年6月23日に掲載されました。

《参考》

発表論文情報

題名:Collaboration on the optimal timing of anticoagulation after ischaemic stroke and atrial fibrillation: a systematic review and prospective individual participant data meta-analysis (IPDMA) of randomised controlled trials (CATALYST)
著者:Dehbi H-M,PhD; Fischer U,MD; Åsberg S, MD, PhD, Milling TJ, MD, Abend S, BSc, Ahmed N, MSc, Branca M, PhD, Davis LA, PhD, Engelter ST, MD, Freemantle N, PhD, Gattringer T, MD, PhD, Lakic TG, MSc, Hijazi Z, MD, PhD, James M, MD, FRCP, Koga M, MD, PhD, Lawrence P, BS, Lemmens R, MD, PhD, Lip GYH, MD, Massingham S, DipHE, RGN, Nash PS, MSci MBBS, Ndoutoumou A, MPharm, Norrving B, MD, PhD, Salanti G, PhD, Sprigg N, DM, Thomalla G, MD, Vanniyasingam T, MSc, Wester P, MD, PhD, Warach SJ, MD, PhD, Oldgren J, MD, PhD, Dawson J, MD, Werring DJ, FRCP, PhD, FESO
掲載誌:Lancet
DOI:10.1016/S0140-6736(25)00439-8

謝辞

本研究の解析対象論文となったELAN試験は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。

  • 循環器病研究開発費(20-4-5)

 

【報道機関からの問い合わせ】

国立研究開発法人国立循環器病研究センター 企画経営部広報企画室
TEL : 06-6170-1069 (31120)  MAIL: kouhou@ml.ncvc.go.jp

最終更新日:2025年07月03日

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