国立循環器病研究センター

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広報活動

日本人肥大型心筋症のビッグデータ解析研究:病型によって異なる予後、 国際ガイドラインの限界と新しいアプローチの必要性が明らかに

2025年4月4日
国立研究開発法人国立循環器病研究センター

 国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の心不全・移植部門 心不全部 天野 雅史医師、泉 知里医師らの研究チームが、肥大型心筋症(HCM)の大規模国内レジストリーから新しい成果を発表しました。HCMは左室心筋が肥大し不整脈による突然死をきたしうる疾患です。研究チームは、HCMの大規模国内レジストリーであるREVEAL-HCMのデータを用いて、HCMのいくつかのタイプの特徴と、突然死の発生率を調べました。また、米国・欧州のガイドラインに基づく植込み型除細動器(ICD)適応基準が日本人にも当てはまるかを検証しました。

 研究の結果、左室機能が低下したHCMの患者の予後は悪いが、日本人に多い「心尖部肥大型心筋症」と呼ばれる特定のタイプの患者の予後は、他のタイプより良いことがわかりました。また、米国・欧州のガイドラインによるICD適応基準は、日本人には適さない部分がありました。今後、より日本人に適切なHCMにおける突然死リスクスコアを作成する必要があると考えられます。

HCM患者の診療実態

 HCM患者の診療では、突然死を予防することが非常に重要です。

 HCMは、左室内狭窄の有無や左室収縮能(左室駆出率)によりいくつかのタイプに分類されます。なかでも、左室心尖部が限局的に肥厚する「心尖部肥大型心筋症」というタイプは、日本人では比較的予後が良いとされています。しかし、日本人における各タイプの特徴や突然死の発症率の違いに関する大規模なデータは不足しています。また、現在の米国・欧州のHCM診療に関するガイドラインで示されている突然死に対する植込み型除細動器(ICD)適応基準が、日本の臨床現場ではうまく当てはまらないことも多いです。そこで、日本人にこれらのガイドラインがどの程度通用するか検証する必要があります。

 本研究は、HCMのタイプごとの臨床徴候(病気や異常の客観的なサイン)と突然死発症率を評価し、現在の米国・欧州のHCM診療ガイドラインにおける、突然死に対する植込み型除細動器(ICD)適応基準の妥当性について検証することが求められていました。

今後の展望と課題

 本研究により、左室機能が低下したHCMの患者の予後は悪いが、欧米では少ないとされる「心尖部肥大型心筋症」の割合が日本人では多く、その予後が他のタイプと比べて良いことが明らかとなりました。また、本研究から日本人HCM患者の突然死率と欧米のガイドラインの適応基準が合わない部分があることがわかりました。日本人のHCM患者に対して、欧米のガイドラインをそのまま日本のHCM臨床を行うのは困難であることも判明しました。

 今後は、日本のHCM診療ガイドラインにおける植込み型除細動器(ICD)適応基準の妥当性を検証するとともに、新たな日本人におけるHCM突然死リスクスコアを確立し、日常臨床に活かす必要があると考えられます。

≪参考情報≫

研究手法と成果

 日本の大規模な23施設が参加したREVEAL-HCMレジストリーでは、16歳以上のHCM 3611症例が登録されました。HCMフェノタイプの中では、左室駆出率<50%のend-stage HCM(拡張相肥大型心筋症)の予後が明らかに悪く(5年突然死発症率 18.5%)、続いて中部閉塞型HCM(MVO: 6.9%)、非閉塞型HCM(HNCM: 4.7%)、閉塞型HCM(HOCM: 4.3%)と続き、日本人に多い心尖部肥大型心筋症の予後が最も良好でした(Apical HCM: 2.0%)。

 また、現行の欧米のガイドラインでは、植込み型除細動器(ICD)の適応がClass 2a(施行した方が良い)とClass 2b(施行しても良い)間の層別化が不十分であり(5年突然死発症率:米国;Class 1 23.8%, Class 2a 7.2%、Class 2b 5.7%、Class 3 2.3%、欧州;Class 1 23.8%, Class 2a 2.9%、Class 2b 9.3%、Class 3 2.6%)、特に欧州のガイドラインでは、Class 2aと2bの発症率が逆転していました。

HCM症例の日本における大規模多施設レジストリー

現行欧米のHCM診療ガイドラインにおける植込み型除細動器適応クラスごとの突然死発症率
米国(2024 ACC/AHA)と欧州(2023 ESC)ともにClass 2aと2bのリスク層別化が不十分であり、欧州ガイドラインでは2aと2bの突然死発症率が逆転している。

発表論文情報

著者:Masashi Amano, Hiroaki Kitaoka, Yusuke Yoshikawa, Yasushi Sakata, Kaoru Dohi, Yukichi Tokita, Takao Kato, Shouji Matsushima, Takeshi Kitai, Atsushi Okada, Yutaka Furukawa, Toshihiro Tamura, Akihiro Hayashida, Haruhiko Abe, Kenji Ando, Satoshi Yuda, Moriaki Inoko, Kazushige Kadota, Yukio Abe, Katsuomi Iwakura, Tetsuya Kitamura, Jun Masuda, Takahiro Ohara, Takashi Omura, Takashi Tanigawa, Kenji Nakamura, Kunihiro Nishimura, Chisato Izumi, the REVEAL-HCM Investigators.

題名:Validation of Guideline Recommendation on Sudden Cardiac Death Prevention in Hypertrophic Cardiomyopathy

掲載誌:JACC Heart Failure

謝辞

本研究は、Japan Agency for Medical Research and Development (AMED)のサポートを受けています(JP23ek0109539)

 

【報道機関からの問い合わせ】

国立研究開発法人国立循環器病研究センター 企画経営部広報企画室
TEL : 06-6170-1069 (31120)  MAIL: kouhou@ml.ncvc.go.jp

最終更新日:2025年04月04日

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