国立循環器病研究センター

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肺高血圧症の早期発見・早期治療につなぐ研究成果発表

― もやもや病、脳梗塞、肺高血圧症のリスク遺伝子と心エコー所見との関連が明らかに ―

2025年1月28日
国立研究開発法人国立循環器病研究センター

 国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の服部頼都:認知症先制医療開発部特任部長・脳神経内科医長、猪原匡史:脳神経内科部長、野田浩太郎:脳神経内科研修生(現:東京科学大学脳神経内科)、大郷剛:肺循環科特任部長、中岡良和:血管生理学部部長らは、脳梗塞、肺高血圧症のリスクであるRNF213 p.R4810Kバリアント(注1)と心エコー所見との関連を明らかにしました。

 この研究成果により、心エコーによって、肺高血圧症にかかる前にRNF213 p.R4810Kバリアント関連の肺高血圧症の疾患リスクを予測することが将来的に可能となることが示唆されました。

 本研究成果は、 米国心臓協会オンライン機関誌「Journal of American Heart Association」に、2025年1月27日に掲載されました。

■プレスリリースのポイント

  • RNF213 p.R4810Kバリアントは、我が国のもやもや病、脳梗塞、肺高血圧症のリスクと考えられている。
  • RNF213 p.R4810Kバリアント関連の肺高血圧症を発症していない段階での肺循環状態はこれまで明らかとなっていなかった。
  • 肺動脈圧が低下していることが判明:RNF213 p.R4810Kバリアント関連の肺高血圧症未発症者において、右室流出路血流波形のacceleration time (RVOT-ACT) が延長しており、肺動脈圧が低下している可能性。(肺高血圧症患者では、RVOT-ACTは短縮する。)
  • 将来的な肺高血圧症の発症の有無:RVOT-ACTが延長している場合は、RNF213 p.R4810Kバリアントを保有しているかどうかを確認し、将来的な肺高血圧症の発症の有無に対して注意深く経過をみていく必要がある。

■背景

 RNF213 p.R4810Kは東アジアでのもやもや病(注2)の創始者バリアント(注3)と同定され、我が国における脳梗塞のみならず、肺高血圧症とも強い関連があることが知られています。肺高血圧症は、心臓から肺へ血液を送る血管である肺動脈に狭窄や閉塞が生じて肺動脈圧が上昇する疾患で、治療が奏功しないと進行性で心不全に至ることもある、予後不良の厚生労働省の指定難病です。しかしながら、肺高血圧症を発症していないRNF213 p.R4810Kバリアント保有者の肺循環状態について、未だ明らかにはなっておりません。

■研究手法と成果

 多施設共同前向き観察研究であるNational Cerebral and Cardiovascular Center(NCVC)ゲノムレジストリに登録され、RNF213 p.R4810Kバリアント解析の同意の取得が得られた患者を対象とし、本バリアントの有無で分類し、心エコー所見の比較を行いました。2017年5月から2021年8月までにNCVCゲノムレジストリに登録された2089名のうち、肺高血圧症を発症しておらず、心エコーを施行した患者は1312名で、そのうち71名がRNF213 p.R4810Kバリアント保有者でした(平均年齢 54.4歳、男性32名)。右室機能を示唆する心エコー所見の中で、右室流出路血流波形のacceleration time (RVOT-ACT) が本バリアント保有者で有意に延長していました(139.2 ms vs. 122.2 ms、p < 0.001)。多変量線形回帰分析において、本バリアントが、RVOT-ACT延長の独立した因子であり(β 8.86、95%信頼区間 1.57~16.15、p = 0.017)、多変量ロジスティック回帰分析においても、RVOT-ACT > 150msの独立した因子でした(オッズ比 2.40、95%信頼区間 1.29~4.47、p = 0.006)。

■本研究から得られた知見

 肺高血圧症は肺動脈狭窄・閉塞症を主要因とするため、肺高血圧症を発症した後は、RVOT-ACTが短縮することでよく知られています。しかしながら、本研究において、肺高血圧症の兆候を示していないRNF213 p.R4810Kバリアント保有者では、反対にRVOT-ACTが延長していました。この「RVOT-ACTの延長」は、肺に病前から「もやもや血管」が増生して肺血管容積の増加を示唆している可能性が考えられます。このことから、肺高血圧症発症前に、「RVOT-ACTの延長」を認めた場合、RNF213 p.R4810Kバリアントの有無を確認するとともに、肺高血圧症の発症の有無に対して注意深く経過をみていく必要があることがわかりました。

 この結果から、今後も、RNF213 p.R4810Kバリアント保有者の心エコーを発症前から縦断的に追跡し、肺高血圧症を発症する患者と発症しない患者の違いを発見し、肺高血圧症の早期発見・早期治療につなげていくことが重要と考えられます。

■注釈

注1)RNF213 p.R4810Kバリアント:

もやもや病の疾患感受性遺伝子であるRNF213遺伝子のp.R4810Kバリアント(DNAの塩基配列に生じる違い)は日本人の2~3%が有しています。もやもや病のみならず、頭蓋内動脈狭窄症とそれに起因する脳梗塞、肺高血圧症とも関連していると考えられています。

注2)もやもや病:

ウィリス動脈輪閉塞症とも呼ばれ、脳に栄養を送る頭蓋内の太い動脈(内頸動脈)が細くなったり、詰まったりして脳に流れる血液の量が減少して起こる病気です。不足した血液を補うように発達した末梢の細い血管(もやもや血管)が、脳血管造影検査でもやもやした煙のように見えることから「もやもや病」と名付けられました。この病気は日本で見つかり、「もやもや病」という病名は、現在世界中で使われています。

注3)創始者バリアント:

集団の最初の一人が有し、子孫集団中に広がったと考えられる遺伝子バリアントのこと。RNF213 p.R4810Kバリアントは、推定1万5千年前の中国、韓国、日本共通の祖先にまでにさかのぼることが判明しており、東アジアの歴史の中で広がっていった遺伝子バリアントです。

■発表論文情報

著者:野田浩太郎、服部頼都、西井達矢、堀之内宏樹、中奥由里子、尾形宗士郎、稲垣泰申、浅野遼太郎、吉本武史、西村邦宏、大郷剛、中岡良和、猪原匡史

題名:Relationship between RNF213 p.R4810K and echocardiographic findings in patients with cerebrovascular diseases: A multicenter prospective cohort study

掲載誌:Journal of American Heart Association

DOI:https://doi.org/10.1161/JAHA.124.036333

■謝辞

 本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業「東アジア特有の高血圧・脳梗塞リスクRNF213 p.R4810K多型の迅速判定法の確立と判定拠点の構築」 、公益財団法人先進医薬研究振興財団、公益財団法人 鈴木謙三記念医科学応用研究財団、一般財団法人代謝異常治療研究基金により資金的支援を受け実施されました。

 

【報道機関からの問い合わせ】

国立研究開発法人国立循環器病研究センター 企画経営部広報企画室
TEL : 06-6170-1069 (31120)  MAIL: kouhou@ml.ncvc.go.jp

最終更新日:2025年02月03日

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