国立循環器病研究センター

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脳梗塞の治療可能範囲がさらに拡大 — 従来の治療限界を超える可能性を示唆する研究結果を発表 —

2024年5月31日
国立循環器病研究センター

 国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の井上 学特任部長らは、「RESCUE-Japan LIMIT」*1のサブ解析として、急性期広範脳梗塞においての治療法について、従来の治療限界を超える可能性を示唆する新たな研究結果を発表しました。

この研究成果は、米国心臓協会(AHA)機関誌「Stroke」に公表され、オンライン版に現地時間の2024年5月28日に掲載されました。

■背景

 従来、大脳半球*2における虚血性コア*3が70-100mL程度であれば、血管内血栓回収療法(EVT)*4の効果が期待できる適用範囲の上限として考えられていました。この範囲を超える大きな虚血性コアを認める患者にEVTを行った場合、治療効果が明らかでなく、逆に安全性に問題が生じることが懸念されていました。

そこで、今回、MRIを用いて虚血性コアの正確な測定を行い、EVTの治療限界を再評価する目的で本研究を実施しました。筆頭著者の井上学は2011年から治療可能な虚血性コア容積の限界を実測に基づき探索しており、本研究はその研究をさらに推進したものです。

■研究手法と成果

 本研究は、「RESCUE-Japan LIMIT」のサブ解析であり、主幹動脈閉塞*5を起こした広範な脳梗塞患者を対象とした無作為化比較試験*6です。

RAPIDソフトウエア*7で測定された虚血性コア容積と90日後の機能的アウトカム(修正ランキンスケール*80-3)の相関を分析しました。その結果、統計的に予測周辺確率を予後良好となる脳梗塞の発症時の容積を算出すると、虚血性コアが最大128mLまでの患者もEVTが有効であることが確認されました。つまり、従来の適用範囲(100mL程度)を超える大きさでも、EVTが有益である可能性が示されました。一方、虚血性コアが250mL以上の場合は予後が良い症例がほとんど見られないこともわかりました。

95%信頼区間における予測周辺確率

脳梗塞の大きさ(ピンク箇所)の実測参考例
従来の100mL前後の脳梗塞 128mL前後の脳梗塞 250mL前後の脳梗塞
従来の100mL前後の脳梗塞 128mL前後の脳梗塞 250mL前後の脳梗塞

■今後の展望と課題

 この研究成果は、主幹動脈閉塞を有する広範な脳梗塞患者の治療方針にさらなる展望と革新をもたらす可能性があります。今後の臨床試験における患者選択基準の見直しや治療法の改善に向けて、重要な一歩となるでしょう(ClinicalTrials.gov number, NCT03702413)。

■発表論文情報

著者: 井上学、吉本武史(現筑波大学)、山上宏(現筑波大学)、豊田一則、坂井信幸、吉村紳一ほか

題名: Expanding the Treatable Imaging Profile in Large Ischemic Stroke Patients: Sub analysis from a randomized clinical trial

掲載誌: Stroke

■謝辞

本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。

・第37回公益信託美原脳血管障害研究振興基金 美原賞、日本脳神経血管内治療学会

 

<注釈>

*1 RESCUE-Japan LIMIT

兵庫医科大学(兵庫県西宮市)脳神経外科教室の吉村紳一教授を研究開発代表者とし、当院の豊田一則副院長が運営委員を務める国内多施設共同の研究

*2 大脳半球

脳の最も大きなスペースです。前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉に区別されます。

*3 虚血性コア

虚血性コアは、急性虚血性脳卒中において血流が途絶えた結果、脳組織が不可逆的に損傷を受けて死滅した領域を指します。この領域は脳血管が閉塞することにより、十分な酸素や栄養素が供給されなくなり、脳細胞が急速に死んでしまうことで形成されます。

*4 血管内血栓回収療法(Endovascular Thrombectomy、EVT)

血管内血栓回収療法(Endovascular Thrombectomy、EVT)は、急性虚血性脳卒中の患者に対して行われる治療方法です。主に大きな脳血管に形成された血栓を物理的に除去することを目的としています。この治療は、特に大動脈や主要な脳動脈を塞いでいる血栓が原因で発生する脳卒中に有効です。

*5 主幹動脈閉塞

主幹動脈閉塞(Large Vessel Occlusion, LVO)は、脳の主要な血管が血栓や塞栓によって閉塞される状態を指します。この状態は、急性虚血性脳卒中の一形態であり、特に重症度が高く、迅速な治療が必要な症例に見られます。

*6 無作為化比較試験

研究対象者をランダムに複数のグループに分け、効果等の検証をすることです。

*7 RAPIDソフトウェア

RAPIDソフトウェアは、脳卒中診断と治療計画に特化した先進的な画像解析ソフトウエアです。国立循環器病研究センターでは2017年よりこのソフトウェアを導入しており、特に急性虚血性脳卒中の患者において、CTやMRI画像から得られるデータを迅速に解析し、虚血性コアとペナンブラ(半影)領域を正確に測定するために世界中で使用されています。RAPIDは独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)による承認認可を取得していますが、保険収載がまだなためですので「承認品」は販売開始できていない状況です。

*8 修正ランキンスケール

脳卒中発症後の生活自立度の指標として、脳卒中診療において広く使用されている尺度です。以下の7段階(0 後遺障害なし、1 軽度の症候はあるが障害はなし、2 軽度の障害があるが、日常生活に介助は不要、3 日常生活に介助を要するが、歩行は可能、4 歩行や身体的要求に介助が必要、5 寝たきり、6 死亡)で評価します。

 

【報道機関からの問い合わせ先】

国立循環器病研究センター企画経営部広報企画室
TEL : 06-6170-1069(31120)
MAIL: kouhou@ml.ncvc.go.jp

最終更新日:2024年05月31日

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