広報活動
日本・欧州の人種横断的ゲノムワイド関連解析によってブルガダ症候群の新規疾患リスク遺伝子座を解明
2024年5月17日
国立循環器病研究センター
札幌禎心会病院
国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)・社会医療法人禎心会札幌禎心会病院(北海道札幌市、理事長・院長:徳田禎久)の蒔田直昌 (国循研究所細胞生物学部客員部長、元副所長・札幌禎心会病院循環器内科医師)らの研究チームは、本邦を含む東アジア人に多い心臓突然死の原因であるブルガダ症候群(BrS)について、日本と欧州の人種横断的ゲノムワイド関連解析を行い、新規リスク遺伝子座を世界で初めて特定しました。この研究成果は「European Heart Journal」に令和6年5月15日付でオンライン掲載されました。この研究は、令和3年に同誌に発表された、「BrSの突然死に関わる単一遺伝子リスクの研究」(1)に続くものです。
■背景
- BrSの有病率: BrSは、青壮年男性に重症不整脈や夜間突然死をもたらす遺伝性不整脈で、日本では「ぽっくり」、フィリピンでは「bangungut」、タイでは「lai-tai」とも呼ばれています。アジア人ではBrSの有病率と致死性不整脈の発生率が高い一方で、心筋NaイオンチャネルSCN5Aの変異陽性率は低いことが知られています。
- 研究の必要性: BrSにおける臨床的・疫学的な人種差の原因は不明であり、アジア人特有の遺伝的リスクの同定が期待されています。
■研究手法と成果
- GWASの実施: 日本人(BrS 940例、対照1,634例)でゲノムワイド関連解析(GWAS)を行い、その後、欧州のGWASデータ(BrS 3,760例、対照11,635例)と人種横断的にメタ解析を実施しました。
- 新規遺伝子座の同定: 日本人特異的GWASでZSCAN20近傍に1つ、人種横断メタ解析で6つの新規リスク遺伝子座を含む17の関連シグナルが同定されました。これらの対立遺伝子効果は人種間で高い相関を示し、BrSの多遺伝子構築が人種を越えて類似していることが示唆されました。
■今後の展望と課題
この研究は、BrSの新たな疾患リスク遺伝子座を明らかにし、人種差を越えた多遺伝子構築の類似性を示しました。しかし、BrS型心電図パターンの遺伝的リスクと突然死のリスクとの直接的な関連はまだ明らかにされておらず、異なるアプローチの研究手法が今後の課題となります。
図1. BrSの有病率と致死性不整脈イベント(LAE)は欧州人に比べアジア人が高いが、SCN5A変異陽性例は逆にアジア人の方が少ない。日本人(JPN) のBrSでGWASを行い、欧州(EUR)のデータとの人種横断メタ解析を行ったところ、新たに同定された6個を含め17個のリスク遺伝子座が同定された。リスク遺伝子座の遺伝子効果は両人種で類似しており、EUR由来の遺伝的リスクスコア(GRS)システムは日本人集団にも適応できたことから、人種差を超えたBrSの多遺伝子構築が示された。またカルモジュリンキナーゼII-δ遺伝子(CAMK2D)近傍の新規リスク遺伝子座は、スプライシングに影響を与える量的形質遺伝子座 (sQTL)であることが判明した。
■発表論文情報
著者:Taisuke Ishikawa, Tatsuo Masuda, Tsuyoshi Hachiya, Christian Dina, Floriane Simonet, Yuki Nagata, Michael WT Tanck, Kyuto Sonehara, Charlotte Glinge, Rafik Tadros, Apichai Khongphatthanayothin, Tzu-Pin Lu, Chihiro Higuchi, Tadashi Nakajima, Kenshi Hayashi, Yoshiyasu Aizawa, Yukiko Nakano, Akihiko Nogami, Hiroshi Morita, Seiko Ohno, Takeshi Aiba, Christian Krijger Juárez, John Mauleekoonphairoj, Yong Poovorawan, Jean-Baptiste Gourraud, Wataru Shimizu, Vincent Probst, Minoru Horie, Arthur AM Wilde, Richard Redon, Jyh-Ming Jimmy Juang, Koonlawee Nademanee, Connie R Bezzina, Julien Barc, Toshihiro Tanaka, Yukinori Okada, Jean-Jacques Schott, Naomasa Makita(責任著者)
題名:Brugada syndrome in Japan and Europe: a genome-wide association study reveals shared genetic architecture and new risk loci
掲載誌:European Heart Journal, In press.
■謝辞
本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。
文部科学省科学研究費 (JP18KK0245, JP18H02808, JP21H02920)
日本学術振興会二国間セミナー(JPJSBP220224403)
国立研究開発法人日本医療研究開発機(AMED) (JP17km0405109, JP21kk0305011)
<注釈>
(1)Ishikawa T, Makita N et al. Functionally validated SCN5A variants allow interpretation of pathogenicity and prediction of lethal events in Brugada syndrome. Eur Heart J 2021;42:2854-2863.
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国立循環器病研究センター企画経営部広報企画室
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最終更新日:2024年05月17日