国立循環器病研究センター

メニュー

広報活動

日本人脳卒中患者では、低体重(BMI 18.5未満)は転帰不良に関連し、過体重(BMI 23~25)は、転帰良好に関連することを解明

2024年5月7日
国立循環器病研究センター

 国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の日本脳卒中データバンク(JSDB)*1の登録情報を用いて、国循脳血管内科の三輪佳織医長、吉村壮平医長、古賀政利部長らのグループが、BMI*2が脳卒中後の転帰*3に影響を及ぼす事を解明しました。

 この研究成果はWorld Stroke Organization機関紙「International Journal of Stroke」オンライン版に令和6年の4月23日に掲載されました。

<注釈>

*1) 日本脳卒中データバンク(Japan Stroke Data Bank):国内多施設共同の脳卒中急性期患者登録事業、代表:国循 副院長 豊田一則

*2) BMI(body mass index):国際的に使用される肥満度の指標(肥満指数:体重(kg)÷身長(m)÷身長(m))

*3) 転帰:疾患・怪我などの治療における症状の経過や結果

■背景

 肥満度の高い人は、そうでない人に比べて、生活習慣病や心血管病の発症リスクが高い一方、心血管病の発症後の機能回復はむしろ良好であることが報告されており、「obesity paradox」と呼ばれています。脳卒中でも、肥満は発症リスク因子ですが、脳卒中発症後の転帰に関する研究結果は一貫していません。欧米で行われた複数の先行研究は、脳梗塞ではBMI 18.5 kg/m2未満の低体重の人の方が転帰不良であると報告されていますが、obesity paradoxの関連は明らかではありません。また、脳出血やくも膜下出血、さらに脳梗塞でも病型によって肥満度が転帰に関連があるかは明らかになっていません。

 日本は世界的に高齢化社会であり、さらに欧米に比べて肥満度の高い人が少ないことから、日本人集団に関する独自の検証が必要でした。そこで、多施設国内共同レジストリ研究から、BMIが脳卒中病型毎の転帰に及ぼす影響を検証しました。

■研究手法と成果

 2006年から2022年までJSDBに登録された急性期脳卒中例のうち、入院時BMIが入力された症例を対象としました。BMIはWHO(世界保健機構)が推奨するアジア人における定義に基づき、18.5未満を低体重、18.5~23未満を正常体重、23.0~25.0未満を過体重、25.0~30.0未満をI度肥満、30以上をII度肥満と分類しました。脳卒中は、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血に分類しました。さらに、脳梗塞病型を国際的に汎用されるTOAST分類を用いて、心原性脳塞栓症、アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞、その他の脳梗塞、原因不明脳梗塞に分類しました。

 評価項目である退院時の転帰(患者自立度)は、国際標準尺度である修正ランキン尺度 (0 [後遺障害なし] ~ 6 [死亡]の7段階の評価法)を用い、同尺度の5~6を転帰不良、0~2を転帰良好と定義しました。

■解析結果

 急性期脳卒中56,230例のうち、脳梗塞 (43,668例、平均年齢74 ± 12歳、男性61%)、脳出血(9,741例、平均年齢69 ± 14歳、男性56%)、くも膜下出血(2,821例、平均年齢63 ± 15歳、男性33%)が今回の研究対象となり、以下のことが明らかになりました。

(1)  BMI 18.5 kg/m2未満(低体重)は、脳梗塞と各病型(心原性脳塞栓症、アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞)や脳出血における転帰不良のリスクを約1.4~2.3倍に高めました(表1)。

(2) アテローム血栓性脳梗塞では、BMIと転帰不良にU字型の関連を認め、低体重と肥満はいずれも、転帰不良のリスクを高めました(図1)。

(3) 低体重は、とくに重症の脳梗塞や再灌流療法後における転帰不良と関連しました。

(4) BMI 23.0~25.0 kg/m2(過体重)や80歳以上の高齢者におけるBMI 25.0~30.0 kg/m2(I度肥満)のグループは、脳梗塞後の転帰不良のリスクが9~17%低下し、obesity paradoxを認めました。

■解説と今後の展望

 大規模な個別臨床情報であるJSDBを使用して詳細な解析を行なった結果、先行研究と一致して、低体重と脳梗塞や脳出血の転帰不良との関連を認めました。高齢者の低体重は、低栄養やフレイル及びサルコペニアといった全身状態や心身の脆弱性、身体的機能低下を反映することが多く、急性期脳卒中発症後の消耗に対して予備能が乏しいことが、転帰不良のメカニズムに挙げられます。フレイルやサルコペニアなどの影響が考えられる高齢者の体重減少の抑制は、脳卒中診療においても重要と考えます。

 また、低体重だけでなく、BMI 30 kg/m2以上の肥満はアテローム血栓性脳梗塞後の転帰不良の危険因子であることがわかりました。今回の研究結果から、高齢者の体重管理の目標値としてBMI 25 kg/m2を基準にすることが適切かもしれません。

 BMIは身長と体重のバランスを示す指標なので、BMIに基づく体重管理は脳卒中の発症予防および重症化予防の実現可能な対策といえます。今後の脳卒中医療の啓発に、本研究結果は参考になると考えます。

■発表論文情報

著者:Kaori Miwa, Michikazu Nakai, Sohei Yoshimura, Yusuke Sasahara, Shinichi Wada, Junpei Koge, Akiko Ishigami, Yoshiki Yagita, Kenji Kamiyama, Yoshihiro Miyamoto, Shotai Kobayashi, Kazuo Minematsu, Kazunori Toyoda, Masatoshi Koga, Japan Stroke Data Bank Investigators

題名: Clinical impact of body mass index on outcomes of ischemic and hemorrhagic strokes

掲載誌: International Journal of Stroke

■謝辞

  本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。

JSDBの事業活動は、科学研究費助成事業(19K19373, 21K07472)により支援されました。

 

表1.  BMI 分類と脳卒中病型における転帰不良の関連(多変量解析後のオッズ比を記載)

図1. アテローム血栓性脳梗塞におけるBMIと転帰不良のU字型関連

 

【報道機関からの問い合わせ先】

国立循環器病研究センター企画経営部広報企画室
TEL : 06-6170-1069(31120)
MAIL: kouhou@ml.ncvc.go.jp

最終更新日:2024年05月07日

設定メニュー