国立循環器病研究センター

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広報活動

Adaptive CRT機能をもった心臓再同期療法に関する国際共同研究(AdaptResponse試験)

 

2023年8月25日
国立循環器病研究センター

 

 国立循環器病研究センター (大阪府吹田市、理事長:大津 欣也、略称:国循)の草野研吾副院長/心臓内科部門長は、アジア代表として参加している、過去最大症例数の心臓再同期療法:CRT(ペースメーカを使用し心臓の機能を補助することによる心不全の予後を改善する治療法)に関する国際共同多施設前向き介入試験(AdaptResponse試験)の結果を「The Lancet」誌に報告しました。
ClinicalTrials.gov: NCT02205359

■背景

 左脚ブロック(LBBB:左室内の伝導障害。右心室よりも左心室の収縮が遅れている状態にみられる。)と正常房室伝導を有する心不全(HF)患者において、左心室(LV)のみを刺激して自己の正常な右脚伝導と融合させる連続自動最適化(LV同期刺激):Adaptive CRT機能をもった心臓再同期療法(CRT)は、従来の両室CRTよりも良好な結果をもたらす可能性があることが示唆されていました。

■方法

 このグローバル試験では、NYHA(心不全の重症度分類)クラスⅡ~ⅣのHF、左室駆出率≦35%、LBBBでQRS時間≧140ms(男性)または≧130ms(女性)(正常値120ms以下)、ベースラインPR間隔≦200msの患者を、adaptive CRT群(LV単独同期刺激を与えるアルゴリズム)と従来の両室CRT群にランダムに割り付けました。無作為化はコンピュータで作成され、ウェブベースのデータ収集ツールを通じ利用できるようになっており、患者に対してはグループ分けを盲検化されましたが、施設スタッフに対しては盲検化されずに実施されました。主要アウトカムは、全死亡または心不全に対する治療介入を複合したものを評価しました。

■成果

 2014年8月から2019年1月にかけて、3617人の患者(平均年齢64.9歳、43.4%女性)が登録され、adaptive CRT(n=1810)または従来のCRT(n=1807)を受けるように無作為に割り付けられました。追跡期間中央値は59.0ヶ月(四分位範囲[IQR]:45-72 ヶ月)となり、主要評価項目は、adaptive CRT群では430人(Kaplan-Meier推定、60ヶ月で23.5%)、従来型CRT群では470人(25.7%)に発生しました(HR 0.89; CI 0.78-1.01; p=0.077)。

■解釈

 これまでに報告されたCRTに関する最大の無作為化試験において、adaptiveCRTアルゴリズムは、従来のCRTと比較して、HF、LBBB、 正常房室伝導を有する患者の対象集団において、全死因死亡率やHF減弱のための介入の発生率を有意に低下させることはありませんでした。
しかし本研究の事後解析では、adaptive CRT機能により、自己の正常右脚伝導を温存した左室単独ペーシング率の割合が高い(>85%)集団で主要エンドポイントの有意な減少が観察されました。死亡率およびHF悪化は、いずれのCRT治療法でも低く、この集団では、先行試験よりもCRTに対する反応が高いことが示されました。

心電図の図示

■発表論文情報

著者: Prof. Bruce L. Wilkoff, MDa; Prof. Gerasimos Filippatos, MDb; Prof. Christophe Leclercq, MDc; Prof. Michael R. Gold, MDd; Prof. Ahmad S. Hersi, MDe; Kengo Kusano MDf; Prof. Wilfried Mullens, MDg,h; Prof. G. Michael Felker, MDi; Charan Kantipudi, MDj; Prof. Mikhael F. El-Chami, MDk; Prof. Vidal Essebag, MDl, m; Bertrand Pierre, MDn; Francois Philippon, MDo; Francisco Perez-Gil, MDp; Eugene S. Chung, MDq; Juan Sotomonte, MDr; Stanley Tung, MDs,t; Balbir Singh, MDu; Babak Bozorgnia, MDv; Satish Goel, MDw; Hans Holger Ebert, MDx; Prof. Niraj Varma, MDa; Kara J. Quan, MDy; Fiorella Salerno, MDz; Bart Gerritse, PhDaa; Janelle van Wel, PhDaa; Daniel E. Schaber, PharmDbb; Dedra H. Fagan, PhDbb; and Prof. David Birnie MDcc
題名: Adaptive versus conventional cardiac resynchronisation therapy in patients with heart failure (AdaptResponse): a prospective randomised controlled trial
掲載誌: The Lancet

■謝辞

本研究は、メドトロニック社の資金的支援を受け実施されました。

 

 

【報道機関からの問い合わせ先】

国立循環器病研究センター企画経営部広報企画室
TEL : 06-6170-1069(31120)
MAIL: kouhou@ml.ncvc.go.jp

最終更新日:2023年08月25日

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