国立循環器病研究センター

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広報活動

NAD+SIRT1軸に着目した頸動脈狭窄症または閉塞症における認知症予防・治療法 特定臨床研究開始へ

 

2023年7月28日
国立研究開発法人国立循環器病研究センター

 国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)脳神経内科の服部頼都医長、吉本武史医師、阿部宗一郎医師、猪原匡史部長らは、血管拡張作用・抗酸化作用などが期待できるトランス・レスベラトロールを投与し、頸動脈狭窄/閉塞症患者の認知機能低下に対する有効性評価を主目的とした特定臨床研究を2023年4月にJapan Registry of Clinical Trials公表しました。頸動脈狭窄/閉塞症における脳血流低下などを原因とした認知症において、トランス・レスベラトロールは、血管拡張作用・抗酸化作用・抗炎症効果などの多面的効果を見込める治療薬である(図1)と期待され、本特定臨床研究は、その開発の第一歩であるといえます。

 ※なお、本研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「統合医療」に係る医療の室向上・科学的根拠収集研究事業の令和5年度公募において採択され、AMED委託契約研究開発(2023年6月19日締結)として実施します。
※また、本研究では研究協力企業として株式会社ナチュレ・ホールディングス(大阪府大阪市、ナチュレサプリメント運営)より試験薬の提供を受けて実施します。

■背景

 頸動脈狭窄/閉塞症は脳梗塞の主要な原因疾患ですが、脳梗塞を発症せずとも認知機能障害を発症するため、認知症の主な原因疾患の1つです。日本における頸動脈狭窄/閉塞症の患者数は、200万人前後と言われています。しかしながら、現在まで様々な治療薬候補は現れていますが、いずれも有効性が示されていません。
 トランス・レスベラトロールは、長寿遺伝子と称されるSIRT1を活性化させると考えられています。治療法としてのSIRT1の有効性は動物実験で示されてきました。脳神経内科の服部頼都医長、猪原匡史部長らは、2014年に、頸動脈狭窄症モデルマウスにおいて、SIRT1が血管内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の脱アセチル化を介して活性型へ変換し、脳血流を維持し、脳内炎症を抑制することで、大脳白質病変や認知機能を有意に改善することを示しました。さらに、2015年に頸動脈閉塞症モデルマウスにおいても、SIRT1は脳血流低下を抑制し、海馬の虚血性神経傷害を有意に抑制することを明らかにしました。(図2)。この動物実験の結果から、SIRT1を活性化させうるトランス・レスベラトロールを投与する臨床試験が待望されていました。

■本特定臨床研究

 これらの期待できる結果から計画された本特定臨床研究は、国循に受診される中等度以上の無症候性頸動脈狭窄症または閉塞症患者100名を2群に分けて、トランス・レスベラトロールまたは偽薬(プラセボ)を無作為に投与して、35週間の追跡調査を行い、認知機能と脳循環代謝への効果などを検討します。二重盲検試験のため、医師、患者さんともに、トランス・レスベラトロールまたはプラセボのどちらが投与されているかはわからないため、正確なトランス・レスベラトロールの効果の評価が可能となります。

■今後の展望

 老年期の認知症患者の多くは脳血管に問題があることが提唱されており、今回の研究は、脳血管に問題をもつ認知症患者に有効な治療薬の開発につながる可能性があります。さらにこの研究が成功に終わった暁には、高齢者の認知症全般の予防法開発に貢献するための新たな臨床試験を施行する計画としています。

■研究実施機関

代表機関名:国立研究開発法人国立循環器病研究センター
代表者名(所属・役職):服部 頼都(脳神経内科・医長)
AMED事業名:「統合医療」に係る医療の質向上・科学的根拠収集研究事業
https://www.amed.go.jp/program/list/14/03/009.html
AMED委託研究開発課題名:NAD+/SIRT1軸に着目した脳血管を標的とした血管性認知障害の治療法開発

■研究協力企業

株式会社ナチュレ・ホールディングス(ナチュレサプリメント運営)
大阪府大阪市西区北堀江2-2-6-302
https://www.nsup.jp/nature-hd/

■概要

(図1)トランス・レスベラトロールによるNAD+/SIRT1経路の活性化
トランス・レスベラトロールは、抗炎症効果、抗酸化作用、血管拡張作用などの多面的効果を保有しています。

(図2)頸動脈狭窄症/閉塞症モデルマウスにおけるSIRT1の効果

 

 

【報道機関からの問い合わせ先】

国立循環器病研究センター企画経営部広報企画室
TEL : 06-6170-1069(31120)
MAIL: kouhou@ml.ncvc.go.jp

最終更新日:2023年07月28日

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