国立循環器病研究センター

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脳波上のInterictal epileptiform dischargesが脳卒中後てんかんの再発と関連することを解明

 

 国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)脳神経内科部長猪原匡史が代表を務める国内多施設共同研究(PROgnosis of Post-Stroke Epilepsy:PROPOSE)において、国循脳神経内科の阿部宗一郎医師、田中智貴医長、福間一樹医師、猪原匡史部長らのグループが、脳卒中後てんかんにおける脳波所見とてんかん再発の関連を解明しました。この研究成果は、Oxford academic機関誌「Brain communications」オンライン版に、2022年11月26日に掲載されました。

■背景

 脳卒中後てんかんは脳卒中罹患後の主要な合併症の一つです。脳卒中後てんかんの再発は機能予後、生存率を悪化させるため、早期に治療介入し再発予防を行うことが重要です。脳卒中後てんかんの再発にはいくつかの報告がありますが、てんかん診療の大きな柱である脳波所見と再発の関連についてはあまり知られていませんでした。脳卒中後てんかん患者の脳波所見について詳細に観察し、Interictal epileptiform discharges (IEDs)やPeriodic discharges (PDs), Rhythmic delta activity (RDA)といった異常脳波所見(図1)とてんかん再発の関連について検討しました。

■研究手法

 全国8施設(国立循環器病研究センター、神戸中央市民病院、熊本済生会病院、東京都健康長寿医療センター、中村記念病院、聖マリア病院、国立病院機構岡山医療センター、京都大学)において2014年~2018年にかけて脳卒中後てんかんと初めて診断された症例において、前向きに1年間の発作再発、予後、抗てんかん薬の服薬状況を観察しました。脳波所見については、IEDs、PDs、RDAといった異常脳波の有無により発作再発率を比較し、更にそれぞれの脳波の頻度や形、範囲などを詳細に検討しました。

■成果

 本研究には、国立循環器病研究センターに入院した191人とその他の施設に入院した201人が登録されました(図2)。国立循環器病研究センターの症例で脳波検査が行われなかった4例を除いた187例の症例において、IEDsを48例(25.7%)、PDsを39例(20.9%)、RDAを12例(6.4%)に認めました。IEDsを呈する群では、呈さない群に比し有意にてんかんの再発が多くみられました(調整ハザード比3.82倍, p<0.01, 図3)。PDsを呈する群では、呈さない群とてんかん再発率において有意差はありませんでしたが(ハザード比1.67, p=0.12, 図3)、棘波や鋭波を呈するPDsはてんかん再発と関連する傾向が見られました(ハザード比1.85, p=0.08)。RDAにはてんかん再発との関連は見られませんでした。高齢者、若年者、初発/再発てんかん、抗てんかん薬種類などで抽出した各サブループでもIEDsはてんかん再発の有意な危険因子でした(図4)。国立循環器病研究センター以外の他施設でのコホートでもIEDsはてんかん再発と関連がみられました(p<0.05)。

■今後の展望と課題

 脳卒中後てんかん診療において、発作再発リスクの高い、IEDの存在に気をつけ、適切な抗てんかん薬による治療をすることは、非常に重要であると考えられます。PROPOSE試験では新世代抗てんかん薬が旧世代抗てんかん薬と比較して、てんかん発作再発抑制、服薬継続率で有効性が高いという報告(Tanaka T, Fukuma K, Abe S, Ihara M et al. Brain and Behavior 2021)、や発作再発を予防することが機能予後にも極めて大切である報告(Hajime Y, Tomotaka T, Fukuma K, Ihara M et al. Neurology 2021)を行っています。本研究では今まで報告が少なかった脳波所見と脳卒中後てんかん再発に関する報告となっています。脳波所見は判読が難しく、これまで画一的な評価を行いにくい側面がありましたが、脳卒中、てんかん専門診療に特化した医療機関が参加した国内多施設共同試験を行うことで、実臨床を反映した信憑性が高い結果が得られました。てんかん治療の柱の一つである脳波を詳細に観察した本研究の結果は、今後の脳卒中後てんかんの再発予防に対する早期治療介入や治療効果を評価する上で重要な知見となると考えられます。

(図1)

(図2)

(図3)

(図4)

■発表論文情報

著者: Soichiro Abe, Tomotaka Tanaka, Kazuki Fukuma, Soichiro Matsubara, Rie Motoyama, Masahiro Mizobuchi, Hajime Yoshimura, Takayuki Matsuki, Yasuhiro Manabe, Junichiro Suzuki, Hiroyuki Ishiyama, Maya Tojima, Katsuya Kobayashi, Akihiro Shimotake, Kunihiro Nishimura, Masatoshi Koga, Kazunori Toyoda, Shigeo Murayama, Riki Matsumoto, Ryosuke Takahashi, Akio Ikeda, Masafumi Ihara, and the PROPOSE Study Investigators
題名: Interictal epileptiform discharges as a predictive biomarker for recurrence of poststroke epilepsy
掲載誌: Brain communications

■謝辞

本研究は、AMED循環器疾患、糖尿病等生活習慣病体側実用化研究事業(AMED#18ek0210057h0003)により支援されました。

 

 

報道関係の方からのお問い合わせ

国立循環器病研究センター企画経営部広報企画室
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最終更新日:2022年11月29日

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