国立循環器病研究センター

メニュー

広報活動

急性期脳梗塞の新たな血栓溶解薬開発:T-FLAVOR試験 比較検討相の患者登録開始

 

 国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の豊田一則副院長と杏林大学(東京都三鷹市)医学部脳卒中医学教室の平野照之教授を共同研究開発代表者とする国内多施設共同の研究グループは、急性期脳梗塞の新たな血栓溶解薬開発のためにTenecteplase versus alteplase For LArge Vessel Occlusion Recanalization (T-FLAVOR)試験を実施しています。このたび安全性確認相の実施結果に基づいて、厚生労働省の先進医療(註1)技術審査部会から試験の本相(比較検討相)へ進むことを承認されました。

 

■脳梗塞血栓溶解療法:世界標準から遅れないために

 T-FLAVOR試験に関する情報は、安全性確認相の開始前にも公表いたしましたが(https://www.ncvc.go.jp/pr/release/20210914_press/)、再度簡潔に説明します。急性期脳梗塞患者への静注血栓溶解療法は、世界中に普及した標準治療です(図1)。血栓溶解薬として遺伝子組換え組織プラスミノゲンアクチベータ(tPA、いわゆるティーピーエー)のアルテプラーゼが使われますが、わが国は血栓溶解薬開発の国際競争で後れを取り、アルテプラーゼの承認(2005年)が米国より9年遅れた苦い思い出があります。

 この10年来アルテプラーゼを改変して作られた「テネクテプラーゼ」(急性心筋梗塞治療薬)の脳梗塞治療効果が海外の複数の臨床試験で示され、近年では使用を推奨する治療ガイドラインも海外で散見されます。ところがわが国ではテネクテプラーゼを取り扱う製薬企業がなく、日本脳卒中学会などからの働きかけにも関わらず、国内開発の目途が立たない状況が続きました。この状況を打破し、海外とのドラッグラグを防ぐべく、日本医療研究開発機構(AMED)からの研究助成を受けて医師主導臨床試験T-FLAVORを始めました。

■T-FLAVOR試験の概要と展望

 本試験の概要は臨床研究実施計画・研究概要公開システムに公開され(jRCTs051210055)、またプロトコール論文も公表されています(Kawano H, et al: Eur Stroke J 2022;7:71-75)。中央事務局、中央薬局、データセンターなどを国循が務め、国内14施設が患者登録に参加します(表1)。
(表1) T-FLAVOR試験 参加施設

 本相(比較検討相)では発症4.5時間以内に血栓溶解薬を投与開始可能で、さらにカテーテルでの機械的血栓回収療法まで行うことが適切と判断された、脳主幹動脈の閉塞を伴う脳梗塞患者220例を対象に、血栓溶解薬としてテネクテプラーゼを用いる群とアルテプラーゼを用いる群とに1:1に無作為に割り付けます。主要評価項目は、閉塞脳動脈の早期有効再開通率です。他に、90日後の患者自立度や死亡率、早期の症候性頭蓋内出血など、多くの項目を評価します。
 テネクテプラーゼは国内未承認ですので、本相に進む前に安全性を確認する先行相を設け、主管施設である国循のみで患者登録を進めました。本来が重症である脳梗塞患者を対象とするため、安全性確認に当初の予想よりも手間取りましたが、このたび先進医療技術審査部会の承認を得て、いよいよ国循では8月から、他の施設では9月から、患者登録を始められる目途が立ちました。この試験を完遂した後も、さらに、厚生労働省などに対し、国内でのテネクテプラーゼの承認に向けた取組を続ける必要がありますが、日本脳卒中学会などの協力を得て、適切な急性期脳梗塞を確立させるためのステップを着実に進めて行こうと思います。
(註1 先進医療: 国民の安全性を確保し、患者負担の増大を防止するといった観点を踏まえつつ、国民の選択肢を広げ、利便性を向上するという観点から、未だ保険診療の対象に至らない先進的な医療技術や未承認の医薬品、医療機器の使用などについて、安全性、有効性等を確保するために一定の施設基準を設定し、当該施設基準に該当する保険医療機関の届出により、又は安全性、有効性等を確保するために対象となる医療技術ごとに実施医療機関の要件を設定し当該要件に適合する保険医療機関の承認により、保険診療との併用を認めるものです。)

■謝辞

T-FLAVOR試験は、 AMED臨床研究・治験推進研究事業助成JP22lk0201109、国立循環器病研究センター循環器病研究開発費(22-4-2)などの支援を受けて、遂行されます。国循は本試験の中央調整施設として、脳血管内科・脳神経内科をはじめとする関連診療科、臨床研究推進センター、薬剤部などが国内試験運営を支えます。

 

報道関係の方からのお問い合わせ

国立循環器病研究センター企画経営部広報企画室
TEL : 06-6170-1070(31120)
MAIL: kouhou@ml.ncvc.go.jp
個別取材の手続きは、こちらからご確認いただけます。

最終更新日:2022年08月19日

設定メニュー