国立循環器病研究センター

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広報活動

都市部地域住民における肝臓酵素およびアルコール摂取量と糖尿病発症リスクとの関連

 

 国立研究開発法人国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)健診部の小久保喜弘特任部長らは、都市部地域住民を対象とした吹田研究(注1)を用い、肝酵素およびアルコール摂取量と糖尿病発症リスクとの関連について検討しました。本研究成果は、国際誌Acta Diabetologica(Impact Factor 4.087、2022年6月)に2022年8月13日に公開されました(注2)。

背景

 近年、食習慣の乱れや運動不足等の生活習慣の変化に伴い、糖尿病患者数は増加しています。令和元年の「国民健康・栄養調査」によると、「糖尿病が強く疑われる人」の割合は、男性19.7%、女性10.8%でした(注3)。日本の糖尿病の大部分は2型糖尿病であり、放置すると網膜症・腎症・神経障害などの合併症を引き起こして、心筋梗塞や脳卒中などの循環器疾患や認知症、一部のがんの発症リスクを高めます。そのために、特定健診・特定保健指導における糖尿病罹患を予防するための取組が重要と考えられます(注4)。

■研究方法と成果

 吹田研究の参加者である30~79歳の都市部一般住民のうち、ベースライン調査時に循環器疾患と糖尿病の既往者を除外した5,972人(男性2,735人、女性3,237人)を対象として、糖尿病の新規発症を13年間追跡して、597人の糖尿病発症を認めました。肝臓酵素のγ-GTP(γ-グルタミルトランスフェラーゼ)、ALT(アラニンアミノ基転移酵素)、AST(アスパラギン酸アミノ基転移酵素)の低値群と比べて、高値群の糖尿病罹患の調整ハザード比(95%信頼区間)はそれぞれ、1.98 (1.44–2.72)、2.02 (1.48–2.74)、1.47 (1.12–1.95)でした。非飲酒者・過去飲酒者と比べて、現在飲酒者の糖尿病罹患の相対危険度も解析しました。適正飲酒者 (アルコール摂取量1日あたり男性23.0グラム以下、女性11.5グラム以下)、中度飲酒者 (男性23.0–45.9グラム、女性11.5–22.9 グラム)、過剰飲酒者 (男性46.0グラム以上、女性23.0グラム以上)における糖尿病罹患の調整ハザード比(95%信頼区間)はそれぞれ、0.61 (0.43-0.86)、0.80 (0.63-1.03)、0.97 (0.68-1.39)でした。非飲酒者と過去飲酒者の肝臓酵素の低値群と比べて、非飲酒者と過去飲酒者の肝臓酵素の高値群、中度飲酒者の肝臓酵素の高値群、過剰飲酒者の肝臓酵素の高値群の糖尿病罹患リスクは高く見られましたが、適正飲酒者の肝臓酵素の高値群は有意な上昇を認めませんでした。

■考察

 現在、我が国の特定健診・特定保健指導において、飲酒習慣調査(生活習慣調査)と肝臓酵素の測定が実施されています。適量なアルコール摂取はインスリンの感受性を高めて、インスリン抵抗性を弱めることが報告されています(注5)。しかし、アルコールの過剰摂取は、肝臓に蓄積した脂肪への影響、すい臓からのインスリン分泌を抑える影響から、糖尿病罹患リスクが上昇すると考えられます。また、飲み過ぎに伴う食べ過ぎによって、血糖値を上げることも原因と考えられます。肝臓酵素と糖尿病罹患リスクとの関連は既に多く報告されており、その関連は飲酒量により違う可能性がThe Kansai Healthcare Studyに報告されていますが (注6)、The Kansai Healthcare Studyは追跡時間4年で、研究対象者は男性のみであり、その研究結果の妥当性を検証する必要がありました。この度私たちは、飲酒習慣と肝臓酵素と糖尿病の新規罹患を13年間追跡して、それらの関連を都市部の一般住民において明らかにしました。

■今後の展望と課題

 本研究は、肝臓酵素のγ-グルタミルトランスフェラーゼ(γ-GTP)、アラニンアミノ基転移酵素(ALT)、アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)の測定は糖尿病予防に意義があることを示しました。さらに、適量のアルコール摂取者では糖尿病罹患リスクが低いことから、過剰飲酒の方に適量のアルコール摂取を指導するためのエビデンスを示すことが可能になります。これらから、特定健診・特定保健指導の現場で、肝臓酵素の測定値から保健指導する時には、アルコール摂取量も参考にする必要性が示唆されました。

 調整変数;性年齢, body mass index, 喫煙歴, 収縮期血圧, 降圧剤, 総コレステロール, HDLコレステロール, 脂質異常症治療, 腎推定ろ過量, 耐糖能障害, 運動習慣, 他の肝機能検査値, アルコール(g/day).

■謝辞

本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。
・国立研究開発法人国立循環器病研究センター(循環器病委託研究費「20-4-9」)
・研究成果展開事業 共創の場形成支援プログラム: 世界モデルとなる自律成長型人材・技術を育む総合健康産業都市拠点(JPMJPF2018; 分担研究者 小久保喜弘)
・厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)「生涯にわたる循環器疾患の個人リスクおよび集団リスクの評価ツールの開発及び臨床応用のための研究(20FA1002;分担研究者 小久保喜弘)
・明治安田生命・明治安田総合研究所

<注釈>
(注1).吹田研究 
国循が1989年より実施しているコホート研究(研究対象者の健康状態を長期間追跡し、病気になる要因等を解析する研究手法)で、性年代階層別に無作為に抽出した大阪府吹田市民を対象としています。全国民の約90%は都市部に在住していることを考えると、その研究結果は国民の現状により近い傾向があると考えられています。
(注2). Li J, Arafa A, Kashima R, Teramoto M, Nakao YM, Honda-Kohmo K, Sakai Y, Watanabe E, Dohi T, Kokubo Y. Liver enzymes, alcohol consumption and the risk of diabetes: the Suita Study. Acta Diabetologica. (印刷中)
(注3)令和元年国民生活基礎調査(厚生労働省)
(注4) 健康日本21(糖尿病) (厚生労働省)
(注5)Facchini F, et al. Light-to-moderate alcohol intake is associated with enhanced insulin sensitivity. Diabetes Care. 1994;17:115-119.
(注6)Sato KK , et al. Liver enzymes compared with alcohol consumption in predicting the risk of type 2 diabetes: the Kansai Healthcare Study. Diabetes Care. 2008 ;31:1230–1236

 

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最終更新日:2022年08月17日

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