国立循環器病研究センター

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家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体における高Lp(a)血症は、全身性の動脈硬化症を呈するPolyvascular Disease発症に寄与することを報告

 

 国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の心臓血管内科 舟橋紗耶華 派遣研修生、心臓血管内科部冠疾患科 片岡有医長、野口暉夫副院長、研究所病態ゲノム医学部 堀美香客員研究員、研究所分子病態部 小倉正恒客員研究員、研究責任者の研究所分子病態部 斯波真理子客員研究員らの研究グループは、血中リポ蛋白(a)(注1)値の上昇は、家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体患者における動脈硬化性疾患の併発を予測し、リポ蛋白(a)が50 mg/dl以上の症例は、全身血管のスクリーニングが必要な高リスク群であることを報告しました。この研究結果は、Journal of the American Heart Association誌に2022年8月16日付で掲載されました。

注1)リポ蛋白(a) ([Lp(a)]) : apolipoprotein (a) [apo (a)]とアポ蛋白Bが結合したLDL様粒子である。動脈硬化の危険因子の一つとされている。

■背景

 家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia)ヘテロ接合体(以下、FHとする)は、顕著な高LDLコレステロール血症を特徴とする常染色体性遺伝子疾患です。FHは早発性(男性55歳未満、女性65歳未満)の動脈硬化性心血管疾患を発症するリスクが高く、冠動脈疾患だけでなく脳血管・下肢血管疾患を合併し、複数の血管に広範な動脈硬化性疾患(Polyvascular Disease: PolyVD)を伴うことを研究者グループは2021年に報告しました (Funabashi, Kataoka, Harada-Shiba, et al. JACC Asia. 2021;1:245-255)。一方、PolyVDを合併するFHの臨床像等は十分に解明されていませんでした。
 我々は、PolyVDを合併するFH症例は動脈硬化を引き起こす可能性の高い脂質粒子であるリポ蛋白(a)[Lp(a)]値が高値であることを報告しました(Funabashi, Kataoka, Harada-Shiba, et al. JACC Asia. 2021;1:245-255)。Lp(a)は、アテローム血栓形成、酸化ストレスや炎症反応等を促進するリポ蛋白であり、心筋梗塞・脳梗塞・下肢血管疾患などの動脈硬化性心血管疾患発症に寄与することが報告されています。
 故に、FHにおける高Lp(a)血症はPolyVDの合併を予測しうるバイオマーカーの可能性を考え、以下に示す臨床研究を行いました。

■研究手法と成果

 国立循環器病研究センターに受診あるいは入院されたFH症例において、全身動脈の評価を行った370例のFH症例を後ろ向きに解析しました。PolyVDは冠動脈疾患、頸動脈狭窄症、下肢動脈疾患のいずれか2つ以上を有するものと定義しました。FH症例の21.9%が何らか1つの動脈硬化性心血管疾患を有しており、2つ以上を有するPolyVDはFH症例の5.7%に認めました(図1)。PolyVDを有するFHは、複数の動脈硬化性危険因子を持ち、アキレス腱肥厚および皮膚黄色腫、角膜輪を高頻度に有していました。さらに、PolyVDを伴うFHは、高頻度に高Lp(a)血症を呈していました。多変量解析では、Lp(a)≧50 mg/dl(ハザード比=4.42、95%信頼区間=1.45-13.5、p値=0.009)、年齢、ならびに早発性の冠動脈疾患家族歴がFHにおけるPolyVD合併を予測する独立した因子でした。
 特に、年齢58歳以上、早発性の冠動脈疾患家族歴、Lp(a) ≥50 mg/dlの全ての条件を満たすFH症例は、PolyVDの合併率が33.3%と高率でした(図2、ハザード比=10.3、95%信頼区間=3.12-33.4、p値<0.001)。

■今後の展望と課題

 本研究の結果から、血液中のLp(a)値の上昇は、FHにおけるPolyVDの合併を予測しうることが明らかとなりました。特に、Lp(a)値50 mg/dl以上のFHは、全身血管のスクリーニングが必要な高リスク群であることが示唆されました。近年、Lp(a)に対する介入薬剤が開発され、Lp(a)低下効果が報告されています。現在、Lp(a)介入薬剤による心血管イベント発生抑制効果を検証する第3相試験が行われており(HORIZON試験)、その結果が待たれます。
 今後は、PolyVDを有するFHに対する最適な治療アプローチの確立も必要であり、さらなる研究を進めていく予定です。

■発表論文情報

著者:Funabashi S, Kataoka Y, Hori M, Ogura M, Noguchi T, Harada-Shiba M, et al.
題名:Characterization of Polyvascular Disease in Heterozygous Familial Hypercholesterolemia: Its Association with Circulating Lipoprotein(a) Levels
掲載誌:Journal of the American Heart Association

 

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国立循環器病研究センター企画経営部広報企画室
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最終更新日:2022年08月16日

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