国立循環器病研究センター

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本邦独自の診断基準である心臓サルコイドーシス臨床診断群の予後を組織診断群と比較し報告

 

 国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の心臓血管内科 北井 豪医師、泉 知里医師らの研究チームは、心臓サルコイドーシス患者のうち、本邦独自の診断基準である臨床診断群の患者を、組織学的に診断された心臓サルコイドーシス患者と比較し、死亡、心不全入院、不整脈イベントが同等に不良であることを報告し、臨床診断群を診断することの重要性を報告しました。本研究結果は、現地時間2022年7月6日付でHeart誌に掲載されました。

背景

 サルコイドーシスは、全身の臓器に起こる原因不明の炎症を起こす難治性疾患で、炎症を起こしている組織に肉芽腫と呼ばれる塊が見られるのが特徴です。欧米の診療ガイドラインでは、サルコイドーシスと診断するためには、心臓もしくは他臓器から上記の特徴的な肉芽種などの組織学的な所見を確認することが必須とされています。ところが、組織学的な診断がついていなくても、各種画像診断や臨床所見からサルコイドーシスが強く疑われる症例は、実臨床では多く経験します。本邦のガイドラインでは、このような組織診断では診断できない患者においても、画像所見や臨床所見で一定のクライテリアの基準を満たせばサルコイドーシスと診断できる臨床診断群、というカテゴリーを世界で初めて設定しております。しかし、この臨床診断群が従来の組織診断群と比較してどのような予後であるかに関しては、十分な検討がされておりませんでした。
 そこで、本研究では、稀少疾患である心臓サルコイドーシスを十分な症例数で検討するため、全国33施設が協力したレジストリー研究(Illuminate-CS)のデータを用いて、欧米のガイドラインでの診断基準で診断される組織診断群(biopsy-proven CS)と、本邦の基準でのみ診断される臨床診断群(clinical CS)の予後を比較検討することとしました。

研究手法と成果

 Illuminate-CSレジストリに登録された512例(平均年齢62歳、女性:64.3%)の患者のうち、欧米のガイドラインで診断される組織診断群は314例(61.3%)であり、本邦のガイドラインでのみ診断される臨床診断群は198例(38.7%)でありました。両群の患者背景を比較すると、臨床診断群は組織診断群に比較して、心機能低下や左心室の構造的変化が多く見られ、PETやガリウムシンチグラフィーなどの画像検査での異常所見の頻度も多く見られました。研究期間(追跡期間の中央値は43.7ヶ月)中に両群で観察された有害事象(死亡、重症不整脈、心不全入院)を比較すると、臨床診断群も組織診断群と同等に有害事象が発生していることが確認されました(臨床診断群 vs 組織診断群, 調整ハザード比:1.24, 95%信頼区間: 0.88-1.75, p=0.22)。また、心臓のみに所見を認める心臓限局性サルコイドーシスに限った解析でも、同様に、臨床診断群は組織診断群と同等に有害事象が発生していることが確認されました(心臓限局性臨床診断群 vs 心臓限局性組織診断群, 調整ハザード比:1.23, 95%信頼区間: 0.56-2.70, p=0.61)。

今後の展望と課題

 本研究の結果より、欧米の診断基準では心臓サルコイドーシスと診断されない患者が相当数いることが確認され、またその臨床診断群も組織診断群と同等に予後不良であることを報告しました。本邦のガイドラインで推奨されている、臨床診断群のカテゴリーの重要性が示されたと考えており、この結果を元に欧米のガイドラインでも臨床診断群が追記されることが期待されます。一方、本研究では、臨床診断群の患者が組織診断群と同等の予後であることを示しましたが、”サルコイドーシス”であるということの証明はできていません。特に心臓限局性の臨床診断群では、サルコイドーシスと同様に心臓に炎症性変化をきたす他の疾患(慢性心筋炎や炎症性拡張型心筋症など)との鑑別が議論されます。現在の画像診断ではこの鑑別をすることは困難ですが、今後の重要な研究テーマと考えております。

発表論文情報

著者:Takeshi Kitai, Takeru Nabeta, Yoshihisa Naruse, Tatsunori Taniguchi, Kenji Yoshioka, Chisato Miyakoshi, Shinichi Kurashima, Yutaro Miyoshi, Hidekazu Tanaka, Takahiro Okumura, Yuichi Baba, Yutaka Furukawa, Yuya Matsue, Chisato Izumi
題名:Comparisons between biopsy-proven versus clinically diagnosed cardiac sarcoidosis
掲載誌: Heart


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最終更新日:2022年07月21日

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