国立循環器病研究センター

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脳卒中/一過性脳虚血発作の既往を有する高齢非弁膜症性心房細動患者では有意にその後の虚血/出血性イベントが多かった

 

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の脳神経内科 吉本武史医師、豊田一則副院長らの研究チームは、日本人の脳卒中/一過性脳虚血発作(以下、TIA)の既往を有する75才以上の高齢非弁膜症性心房細動患者では、脳卒中/一過性脳虚血発作の既往を有さない患者と比べて、有意にその後の虚血/出血性イベントが多く、更に、脳梗塞/TIAの既往を有する患者においては、ビタミンK拮抗薬(ワルファリン)と比して、直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)内服患者の方が有意に出血性イベントのリスクが低かったことを明らかにしました。本研究結果は、現地時間2022年4月20日付でStrokeに掲載されました。

■背景
脳梗塞発症/再発予防における抗凝固療法の課題は、虚血性イベントの予防と出血性合併症のリスクのバランスを保つことです。加齢に伴い、脳梗塞及び脳出血の発症リスクが増加することが知られています。しかしながら、脳卒中/ TIAの既往を有する高齢非弁膜症性心房細動患者におけるイベントの発生率とその危険因子に関する研究は限られています。
All Nippon AF In Elderly (ANAFIE) Registryは、日本の実臨床における高齢非弁膜症性心房細動患者の抗凝固療法及び臨床転帰の実態を明らかにするために、75歳以上の非弁膜症性心房細動患者を登録した多施設前向き観察研究です。本サブ研究の目的は脳卒中/ TIA既往の有無によるイベント発現率の違いを明らかにすることとしました。

■研究手法と成果
登録期間は2016年10月から2018年1月で、対象は非弁膜症性心房細動を有する75歳以上の患者とし、脳卒中/ TIAの有無で対象を2群に分けました。各群における2年の追跡期間中の脳卒中/全身性塞栓症、大出血及び全死亡に対して、発現率をKaplan-Meier法より推定し、ハザード比をCox比例ハザードモデルより解析しました。また、脳梗塞/ TIAの既往を有する患者において、ワルファリンとDOACの各イベントリスクを比較しました。
対象は、32,275例 (女性42.7%,平均年齢±標準偏差,81.5±4.8歳)で、その内、7,304人(22.6%)が脳卒中/TIAの既往を有していました。脳卒中/ TIAの既往を有する患者は有さない患者と比べて男性が多く、脳卒中/全身性塞栓症 (調整ハザード比2.25,95%信頼区間1.97–2.58)、大出血(1.25,1.05 –1.49)、全死亡(1.13,1.02–1.24) のリスクが高い結果でした。また、脳梗塞/ TIAの既往を有する患者6,446例の内、登録時に4,393例(68.2%)がDOACを内服しており、1,668人(25.9%)がワルファリンを内服していました。その後の脳卒中/全身性塞栓症のリスクは、これら2つのグループ間で同等でした(0.90,0.71–1.14)が、大出血(0.67,0.48–0.94)、頭蓋内出血(0.57,0.39–0.85)、および心血管死(0.71,0.51–0.99)は、DOACを内服している例で有意にリスクが低い結果でした。

■今後の展望と課題
本研究は3万人以上の高齢非弁膜症性心房細動患者を登録している世界有数の大規模レジストリです。75才以上の高齢非弁膜症性心房細動患者が、脳卒中/TIAの既往を有すると、有さない場合と比べて虚血/出血性イベントの発症リスクが高くなるため、抗凝固薬の内服の継続の判断などにおいて注意が必要です。脳梗塞/TIAの再発予防においてはDOACはワルファリンと比べて有意に出血性イベントが少なく、特に出血リスクが高い患者にはDOACの内服が望ましいと考えます。

■発表論文情報
著者:吉本武史,豊田一則,猪原匡史,井上博,山下武志,鈴木 信也,赤尾 昌治,新博次,池田隆徳,奥村謙,是恒之宏,清水渉,筒井裕之,平山篤志,矢坂正弘,丸山博文,手良向聡,木村哲也,森島義行,瀧田厚,山口武典
題名:Impact of previous stroke on clinical outcome in elderly patients with non-valvular atrial fibrillation: ANAFIE Registry
掲載誌: Stroke

■謝辞
本研究は、第一三共株式会社により資金的支援を受け実施されました。

最終更新日:2022年04月21日

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