国立循環器病研究センター

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脳出血超急性期患者の血圧推移の特徴と臨床転帰 :  研究者主導国際試験ATACH-2の副次解析

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の田中寛大脳血管内科医師、古賀政利脳血管内科部長、豊田一則副院長らが海外研究者と共同で行ったAntihypertensive Treatment of Acute Cerebral Hemorrhage (ATACH)-2試験(ClinicalTrials.gov NCT01176565; UMIN000006526)に基づく副次解析が、Stroke誌オンライン版に、令和4年4月11日に掲載されました。

■背景
脳出血は、我が国の脳卒中全体の約2割を占める重大な国民病であり、有効な治療法の確立が待たれる疾患の一つです。効果が期待される治療法として、発症早期の積極的降圧療法が挙げられます。
国循の研究チームは、海外研究者らとともに、研究者主導国際共同試験ATACH-2を実施しました。ATACH-2では、急性期の積極的な降圧が脳出血の臨床転帰を改善するかを調べるため、発症から4時間半以内の脳出血患者1000例を積極降圧群(収縮期血圧110〜139 mmHg)と標準降圧群(140〜179 mmHg)に1:1の割合で無作為に割り付け、24時間、目標血圧範囲を維持しました。試験の主要評価項目である3か月後の死亡または高度機能障害の割合(modified Rankin Scale(注1)4–6に相当)は、両群とも約38%で有意差を認めませんでした。この成果はNew England Journal of Medicine誌(2016;375:1033-1043)に掲載されました。
ATACH-2試験全体では、脳出血患者における積極降圧療法の有用性は示されませんでしたが、実際の臨床では脳出血患者の降圧療法に対する反応は一様ではありません。ある患者は降圧療法によく反応する一方で、降圧療法への反応が悪く高用量の降圧薬を必要とする患者もいます。ATACH-2のデータで血圧推移の特徴を客観的に分類し、観察することができれば、最適な目標血圧範囲の決定に貢献できると考えました。

■研究手法と成果
ATACH-2の脳出血超急性期の血圧推移の特徴を再現性よく分類するために、group-based trajectory modeling(GBTM)と呼ばれる手法を用いました。GBTMは似ている軌道の一群を識別して分類する手法であり、心理学や犯罪学での発達軌道の研究に応用されてきました。今回は、このGBTMを脳出血急性期の血圧推移の特徴を識別・分類するために応用しました(1)。
GBTMの結果、収縮期血圧の推移について4つの特徴的なグループが分類されました。

1: 収縮期血圧:中(298例、積極降圧群の占める割合11.1%)
2: 収縮期血圧:中→低(395例、積極降圧群の占める割合88.6%)
3: 収縮期血圧:高→低(134例、積極降圧群の占める割合85.1%)
4: 収縮期血圧:高(173例、積極降圧群の占める割合1.7%)

この4つのグループのうち、収縮期血圧が>210 mmHgから<140 mmHgまで低下する(血圧の低下幅が大きい)グループ3(収縮期血圧:高→低のグループ)では、収縮期血圧が180 mmHg程度から<140 mmHgまで低下するグループ2(収縮期血圧:中→低のグループ)と比べて、死亡または高度機能障害(オッズ比2.29、95%信頼区間1.24–4.26)、急性腎障害(オッズ比3.50、95%信頼区間1.83–6.69)、腎臓系の有害事象(オッズ比2.84、95%信頼区間1.22–6.62)、心血管系の有害事象(オッズ比2.26、95%信頼区間1.10–4.64)のリスクが有意に上昇していました。収縮期血圧が180 mmHg程度から150–160 mmHgへ低下するグループ1(収縮期血圧:中のグループ)、200 mmHg程度から160–170 mmHgへ低下するグループ4(収集期血圧:高のグループ)では、これらのリスクの有意な上昇がありませんでした。
グループ3(収縮期血圧:高→低のグループ)の85.1%が積極降圧群にランダム化されていましたが、このグループでは、他の3つのグループと比べて、降圧薬の使用量が最も多く、また、使用された降圧薬の種類が最も多いという特徴がありました。グループ3(収縮期血圧:高→低のグループ)には降圧薬が効きづらい重症高血圧例が多く含まれていた可能性が示唆されます。

■今後の展望と課題
ATACH-2では積極降圧群と標準降圧群の2群へとランダム化されましたが、GBTMの結果、収縮期血圧の推移について4つの特徴的なグループが分類されました。その中に、目標血圧範囲を達成するために高用量の降圧薬、複数の高圧薬で治療された重症の高血圧患者群が存在し、この患者群では死亡または高度機能障害、心腎合併症のリスクが高いことが示唆されました。脳出血患者の高血圧の重症度に合わせて、目標血圧範囲を最適化する必要性があると考えられます。

〈注釈〉
(注1)脳卒中患者の自立度の尺度のこと。0(無症状)~6(死亡)の7段階評価となっており、4~6は、要介護状態を示す。

■発表論文情報
著者:Kanta Tanaka, MD, PhD; Masatoshi Koga, MD, PhD; Mayumi Fukuda-Doi, MD, MPH, PhD; Adnan I. Qureshi, MD, PhD; Haruko Yamamoto, MD, PhD; Kaori Miwa, MD, PhD; Masafumi Ihara, MD, PhD; Kazunori Toyoda, MD, PhD
題名:Temporal trajectory of systolic blood pressure and outcomes in acute intracerebral hemorrhage: ATACH-2 trial cohort
掲載誌:Stroke

■謝辞
ATACH-2試験はNIHの神経疾患・脳卒中部局であるNational Institute of Neurological Disorders and Strokeからの研究助成費(U01-NS062091、U01-NS061861)によって、運営されました。国内での試験遂行の一部は、国循循環器病研究開発費(H23-4-3、H28-4-1)により支援されました。本副次解析の遂行にあたりAMED(21lk0201094h0003)による支援をいただきました。

図1. 今回の研究の概要

最終更新日:2022年04月12日

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