国立循環器病研究センター

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持続性II型エンドリークが腹部大動脈瘤ステントグラフト内挿術後の遠隔期成績に及ぼす影響に関する解析

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)心臓血管外科の清家愛幹医長と松田均部長らが、日本血管外科学会を基盤とする血管外科系諸学会が協力して構築した、ステントグラフト実施基準委員会The Japan Committee for Stentgraft Management (JACSM)の膨大な既存情報を解析し、持続するtype IIエンドリークが腹部大動脈瘤ステントグラフト内挿術を施行された患者の予後や合併症に及ぼす影響を明らかにし、研究成果がアメリカ心臓協会の学術雑誌「 Circulation 」に令和 4 年 2 月 25 日付で掲載されました。

■背景
腹部大動脈瘤(AAA)に対する手術治療は、開腹による人工血管置換術が標準治療とされていましたが、2006年7月に低侵襲なカテーテル治療であるステントグラフト内挿術(EVAR:endovascular aneurysm repair)が薬事承認され、高齢者を中心に広く実施されるようになりました。新しい治療法であることから、長期成績については評価が定まっておらず、特に、元々大動脈瘤から分枝していた動脈から、ステントグラフトによる治療後に血液が大動脈瘤内に逆流するtype IIエンドリークについては、学会でも見解の一致を見ていませんでした。特に、欧米においては生命に及ぼす危険性は少ないと考えられることが多い一方で、日本では予防や治療を積極的に行う傾向があり、type IIエンドリークの影響を明らかにすることが必要とされていました。

■研究手法と成果
JACSMには、日本で行われているすべてのステントグラフト治療の成績が登録されています。参加施設は、術前の患者の状態や大動脈瘤の形態、術後の合併症・生死やCTの所見などのデータを術後10年まで報告しています。この膨大なデータから、2015年12月までに通常の状態で退院した75歳以下の患者21,283人を抽出し、登録データが揃っていた、17,099人(男性90.6%、平均年齢68.1±5.3歳)について解析しました。解析においてはtype IIエンドリークを認めた4,957人と認めなかった12,142人について、大動脈瘤の拡大、再治療、大動脈瘤に関連した死亡、大動脈瘤破裂の発生率を比較し、さらに、背景を一致させた(プロペンシティスコア マッチング)それぞれ4,957人でも同じ比較を行いました。
結果、大動脈瘤の拡大、再治療、大動脈瘤に関連した死亡、大動脈瘤破裂の発生率は、エンドリークを認めた場合に高く、マッチングした後の比較でも同様の結果であることが確認されています。また、ステントグラフト治療の目的は大動脈瘤の拡大防止ですが、治療後に大動脈瘤が拡大する原因として、高齢、女性、大動脈瘤のすぐ上の大動脈の直径が大きいこと、腎不全の合併が確認されました。

■今後の展望と課題
新しい治療法であるステントグラフト治療の長期成績を解析して、type IIエンドリークは放置できない問題であることがわかりましたので、必要性が疑問視されていたその予防や治療の方法を確立する必要があることが確認されました。対処法として、大動脈瘤から分枝する細い分枝(下腸間膜動脈や腰動脈など)をステントグラフト治療の前や治療と同時に塞ぐ(塞栓術)ことが既に試みられおり、今後はその効果を検証する必要があります。
また、type IIエンドリークにより、ステントグラフト治療の目的を果たせない可能性が高い要因が確認されたことから、これらの要因がある場合には、元々標準的に行われていた開腹による人工血管置換術を行うかどうかも検討する必要があります。

図1:累積発生率曲線 (コホート全体:左側)及び累積発生率曲線(スコアマッチ後:右側)

■発表論文情報
著者: Yoshimasa Seike, Hitoshi Matsuda,Hideyuki Shimizu, Shin Ishimaru,
Katsuyuki Hoshina, Nobuaki Michihata, Hideo Yasunaga, Kimihiro Komori, on behalf of the Japanese Committee for Stentgraft Management (JACSM)
題名:Nationwide Analysis of Persistent Type II Endoleak and Late Outcomes of
Endovascular Abdominal Aortic Aneurysm Repair in Japan: a Propensity-matched Analysis 
掲載誌:Circulation

■謝辞
本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。
・循環器病研究振興財団(助成金番号:#J293)

最終更新日:2022年03月28日

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