国立循環器病研究センター

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腎不全に関連する脳梗塞病型とその臨床転帰を大規模調査研究で解明:日本脳卒中データバンク

 

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の豊田一則副院長が代表を務める国内多施設共同の脳卒中急性期患者登録事業、日本脳卒中データバンク(Japan Stroke Data Bank: JSDB)の登録情報を用いて、国循脳血管内科の三輪佳織医師、古賀政利部長らのグループが、腎不全患者における脳梗塞病型と退院時機能転帰の関連を解明しました。この研究成果は、American Academy of Neurology機関誌「Neurology」オンライン版に、令和4年3月9日に掲載されました。

■背景
腎不全は、脳卒中を含む心血管病や心血管死の危険因子です。腎不全患者は、高血圧、糖尿病などの血管危険因子の合併が高頻度であることや、腎機能低下に由来する全身状態の変化と相まって、動脈硬化の進行や血液凝固系に影響し、脳卒中発症リスクを高めることが考えられています。
脳卒中のうち、脳梗塞は75%を占める最大の病型です。その発症機序は多様であり、主な脳梗塞病型は心原性脳塞栓症、アテローム血管性脳梗塞、小血管梗塞(ラクナ梗塞)、その他の脳梗塞や原因不明脳梗塞に分類されています。脳梗塞の病型診断は、二次予防の治療方針を決定する上でも重要であり、詳細な検査と的確な診断が鍵となっています。
腎不全患者に関連する脳梗塞病型やその臨床的影響について、これまでに大規模な報告はありません。

研究手法
JSDBの2016年から2019年までに登録された急性期脳梗塞症例のうち、入院時血液検査が入力された患者個別データを対象としました。血清クレアチニン値から、腎機能の指標である推定糸球体濾過量(eGFR)を算出し、
eGFR 60 ml/min/1.72m2以下、または蛋白尿(尿定性+1以上)の陽性を「腎不全の既往あり」と分類しました。腎不全の重症度は、国際腎臓病ガイドラインであるKDIGO (Kidney Disease: Improving Global Outcome) の重症度分類に基づき、GFR正常もしくは軽度低下; eGFR ≥60, 軽度~中等度低下; 45-59, 中等度低下; <45 (mL/min/1.73 m2)に分類しました。さらに透析療法の有無に関するデータ項目から、透析患者を分類しました。eGFR ≥60mL/min/1.73 m2または蛋白尿陰性である「腎不全の既往のない」患者を対照群としました。
評価項目として、脳梗塞病型は国際的に汎用されるTOAST分類を用いて、心原性脳塞栓症、アテローム血管性脳梗塞、小血管梗塞(ラクナ梗塞)、その他の脳梗塞、原因不明脳梗塞を評価しました。退院時の機能転帰(患者自立度)は、修正ランキン尺度 (0 [後遺障害なし] ~ 6 [死亡]の7段階の評価法)を用いて評価し、同尺度の3~6を転帰不良と定義しました。さらに院内死亡を評価しました。
多変量解析では、脳梗塞病型に対して、年齢、性別、高血圧、糖尿病、スタチン剤内服の既往、心房細動で調整しました。転帰不良や院内死亡に対して、年齢、性別、高血圧、糖尿病、スタチン剤内服の既往、、病前修正ランキン尺度、入院時神経学的重症度(National Institutes of Health (NIH) Stroke Scale)[42点満点の評価法で、高点数ほど重症])、急性期再灌流療法(静注血栓溶解療法またはカテーテルを用いた血栓回収療法)で調整しました。

■成果
脳梗塞患者10,392 例のうち、2,419例(23%)はeGFR 45-59 mL/min/1.73 m2の軽度~中等度低下, 1,976例(19%)はeGFR <45 mL/min/1.73 m2 の中等度低下の腎不全に分類され、その内、185例(1.8%) は血液透析を受けていました。
脳梗塞病型のうち、eGFR 45-59の軽度~中等度低下, eGFR <45 mL/min/1.73 m2の中等度低下の腎不全患者や蛋白尿を認める患者は、心原性脳塞栓症の割合が最も多く(図1)、多変量解析で調整後も増加の関連を認めました(eGFR 45-59 mL/min/1.73 m2: オッズ比1.21, 95%信頼区間[1.05–1.39]、eGFR <45 mL/min/1.73 m2:オッズ比1.55 [1.34–1.79]、蛋白尿: オッズ比1.52 [1.22–1.90])。さらに、eGFRが 1 mL/min/1.73 m2減少する毎に、心原性脳塞栓症の割合が増加する関連性を認めました。一方で、小血管梗塞の割合は減少の関連を認めました(2)。アテローム血管性脳梗塞、その他の脳梗塞や原因不明脳梗塞では、腎不全の有無で割合に差を認めませんでした。透析患者では、心原性脳塞栓症の割合が高いことを認めました(オッズ比1.67 [1.14 – 2.45])。
脳梗塞後の機能転帰について、eGFR <45 mL/min/1.73 m2の中等度低下の腎不全患者は、心原性脳塞栓症における転帰不良(オッズ比1.30 [1.01–1.69])と院内死亡(オッズ比1.44 [1.01–2.07])と、小血管梗塞における転帰不良(オッズ比1.44 [1.01–2.07])と院内死亡(オッズ比35.0 [2.92–427])とに、それぞれ有意な関連性を認めました。eGFR値(連続数)の検討でも同様の関連を認めました(図3)。蛋白尿を認める患者は、同病型の転帰不良と関連を認めました(心原性脳塞栓症;オッズ比3.18 [2.0 –4.98], 小血管梗塞;オッズ比2.08 [1.08–3.98])。透析患者では、心原性脳塞栓症の転帰不良(オッズ比2.13 [1.06 – 4.28])と関連を認めました。

■今後の展望と課題
腎不全は、心原性脳塞栓症に独立した関連があり、その後の転帰不良にも影響しました。透析患者にも同じ結果を認めました。さらに小血管梗塞(ラクナ梗塞)の臨床転帰に対しても、腎不全は危険因子でありました。
本研究は、詳細な個別臨床情報を用いて、腎不全患者における脳梗塞病型とその臨床転帰を大規模研究で明らかにしました。とくに、脳梗塞病型毎の臨床転帰に関する報告は世界初であります。
脳卒中専門診療に特化した医療機関が参加した国内多施設共同試験の本研究は、実臨床を反映した信憑性が高い結果であると考えられます。
高齢化社会の進行とともに、腎不全の患者数は増加傾向であることから、脳梗塞の発症予防や重症化予測の対策、治療戦略は喫緊の課題であります。今後、脳梗塞ハイリスクである腎不全患者を焦点とした更なる研究が待たれます。

■発表論文情報
著者: Kaori Miwa, Masatoshi Koga, Michikazu Nakai, Sohei Yoshimura, Yusuke Sasahara, Junpei Koge, Kazutaka Sonoda(済生会福岡総合病院), Akiko Ishigami, Yoshitaka Iwanaga, Yoshihiro Miyamoto, Shotai Kobayashi(島根大学), Kazuo Minematsu(医誠会病院),  Kazunori Toyoda, Japan Stroke Data Bank Investigators

題名:Etiology and outcome of ischemic stroke in patients with renal impairment
including chronic kidney disease: Japan Stroke Data Bank

掲載誌:Neurology

■謝辞
本研究は、科学研究費助成事業(19K19373, 21K07472)により支援されました。

 

図1.eGFRカテゴリー別と蛋白尿の有無別における脳梗塞病型の割合

グラフ中の数値は%を示す。

図2.eGFRと脳梗塞病型の関連

X軸はeGFR(mL/min/1.73)、Y軸はオッズ比を示す。 実線(黒)はeGFR 1 mL/min/1.73 m2の変化毎のオッズ比、
点線は95%信頼区間を示す

図3.eGFRと転帰不良の関連

X軸はeGFR(mL/min/1.73)、Y軸はオッズ比を示す。 実線(黒)はeGFR 1 mL/min/1.73 m2の変化毎のオッズ比、
点線は95%信頼区間を示す。

 

最終更新日:2022年03月11日

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