国立循環器病研究センター

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脳卒中や認知症の原因となる遺伝性脳小血管病  CADASILの制圧への第一歩 国産新薬アドレノメデュリンを用いた世界初の医師主導治験1例目治験薬投与開始へ

令和4年1月4日
国立循環器病研究センター

 

 国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)脳神経内科の猪原匡史部長、データサイエンス部の南学部長らは、宮崎大学フロンティア科学総合研究センターの北村和雄特別教授、三重大学の冨本秀和教授、新堂晃大准教授らとともにペプチドホルモンであるアドレノメデュリンを遺伝性脳小血管病CADASIL患者さんに投与する世界初の医師主導治験 AMCAD試験を計画し、2022年1月13日に1例目への治験薬の投与を開始しました。
遺伝性の神経難病であるCADASILに対する根本的な治療薬は未だありません。CADASILに対する国産新薬であるアドレノメデュリン投与の有効性・安全性が明らかとなれば、わが国のみならず世界中のCADASIL患者さんにとって大きな福音となります。またCADASILは遺伝性脳梗塞および遺伝性認知症という側面もあります。本治験においてCADASILに対するアドレノメデュリンの有効性が示されれば、将来的に孤発性(非遺伝性)の脳梗塞やに対する新規治療薬の開発にもつながる可能性が期待されます。

CADASILの治験に関するお問い合わせは下記をクリックして問い合わせフォームにお進みください。
https://forms.office.com/r/fZneReNc8c
(CADASIL患者様もしくはそのご家族様限定)

当院ではCADASILの患者さん向けにCADASIL外来を開設しています。詳しくはこちらをご覧ください。

■研究開発の背景
CADASIL(皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症)(指定難病124)はわが国の国民病である脳梗塞や血管性認知症を呈する最も代表的な遺伝性脳小血管病です。NOTCH3遺伝子変異により常染色体優性遺伝形式で発症し、大脳白質病変を特徴とします(図1)。近年、CADASILが多くの脳梗塞の原因となっていることが判明し、CADASIL患者さんは予想以上に多いと考えられます。典型的なCADASIL患者さんでは、30歳以降に脳小血管病変・脳血流低下による大脳白質病変が出現し始め、その後脳梗塞を繰り返し認知症や寝たきり状態を引き起こします。一般の脳梗塞の再発予防として用いられる抗血小板薬の効果は乏しく、認知症に対する薬剤もないため、未だ治療法がありません。

図1.CADASILについて

 

■アドレノメデュリンのCADASILへの臨床応用
アドレノメデュリンAdrenomedullin: AM)は52個のアミノ酸からなるペプチドホルモンです(図2)。AMは循環器系臓器で広く作られ、血管を拡張させたり、血管新生を促したりと、多彩な作用が知られています。AMは脳虚血に対する生体防御反応をつかさどると考えられています。

図2.AMについて

治療薬としてのAM投与の有効性は各種の動物実験で示されてきました。脳神経内科の猪原匡史部長らは、CADASILの中核病変である大脳白質病変を再現する血管性認知症モデル動物において、AMが血管新生を誘導し、炎症を抑制して、大脳白質病変や認知機能を改善することを示しました。更に、細胞培養実験で、AMが低酸素下で抑制される乏突起膠細胞前駆細胞の分化を促進することを示し、大脳白質再生作用があることを明らかにしました。以上からCADASILに対して、AMを投与する臨床試験が待ち望まれていました。

■AMCAD治験について
臨床応用に向け、AMの安全性が問題となります。しかし、そもそもAMはヒトの体内に存在する生理活性物質であるという点が強みと言えます。また、すでに新型コロナウィルス感染症(COVID-19)や炎症性腸疾患、うっ血性心不全、急性心筋梗塞、陳旧性脳梗塞、急性期脳梗塞の患者さんでAMが投与された臨床研究の報告があり、いずれも大きな有害事象は生じていません。健常者を対象とした第1相試験も完了し、現在潰瘍性大腸炎とクローン病を対象としたAMの治験が行われています。
そして今回、CADASIL患者さんを対象としたAM投与の有効性および安全性の評価を目的とした医師主導治験(AMCAD治験)を行うこととし、1例目への治験薬の投与を2022年1月13日に開始しました。なお、本治験の治験計画書の作成にあたり、CADASILの患者会「CADASIL友の会」の会員様からのご支援をいただきました。

■治験内容と流れ
実施区分:医師主導治験
対象患者:CADASIL(皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症)
治験のデザイン:多施設共同単群試験(国立循環器病研究センター、三重大学)
対照の種類:対照なし(治験薬投与前と投与後の脳血流の変化量などを評価します)
盲検化のレベル:盲検化なし(治験参加者全員にAMが投与されます)
目標症例数:60症例

■今後の展望・課題
ラクナ梗塞や血管性認知症は、その大半が生活習慣病に起因する孤発性(非遺伝性)の病態ですが、遺伝性の脳梗塞、血管性認知症に限定すれば、CADASILは最も主要な原因疾患の一つであると考えられています。AMは、CADASILにおいて、血管新生・抗炎症・大脳白質再生作用を期待できる革新的治療薬であると期待されていますが、世界初の本医師主導治験はその第1歩であるといえます。

■謝辞
本治験は、日本医療研究開発機構(AMED)医療分野国際科学技術共同研究開発推進事業戦略的国際共同研究プログラム (SICORP)日・シンガポール共同研究、「加齢性大脳白質病変の決定因子の解明」において得られた知見に一部基づき、日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業「皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症(CADASIL)患者を対象としたアドレノメデュリン静注療法による安全性および有効性に関する多施設共同単群試験(研究開発代表者:脳神経内科 部長 猪原匡史)」の支援を受けて実施します。

最終更新日:2023年01月23日

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