国立循環器病研究センター

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難治性心不全患者(腎動脈閉塞症合併)へのステント治療 により心不全症状が速やかに改善

~腎動脈閉塞症合併心不全患者へ新たな治療の選択肢提示が可能に~

2015年10月21日

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:橋本信夫、略称:国循)心臓血管内科(血管科)の河原田修身医長らのグループが、腎動脈閉塞症を合併している難治性心不全患者に対し、腎動脈閉塞症のカテーテル治療(ステント治療)を行い、速やかに心不全を改善させることに成功しました。
この成果はヨーロッパ心臓病学会の心不全専門誌「ESC Heart Failure」オンライン版に10月20日付掲載されました。

背景

心不全患者の増加が世界的に指摘されている中、心不全患者の約10%程度に腎動脈の動脈硬化による狭窄や閉塞が合併することが報告されています。腎臓は血 圧のコントロールや体の水分や老廃物の排泄に関与しており、腎動脈の狭窄や閉塞によってこれらの調節が困難となり結果的に心臓へ負担をかけ心不全発作を助 長します(図1)。腎動脈がまだ狭窄の段階であればステント治療が一般的に行われてきましたが、腎動脈が完全に閉塞した患者さんではステント治療も技術的 に困難と考えられていました。また腎動脈バイパス術の選択肢もありますが心臓を含めた全身への負担が大きく一般的に行われていませんでした。
しかし、近年のカテーテル治療の進歩により、腎動脈が閉塞した患者さんに対してもカテーテル治療が行えるようになってきました。 腎動脈閉塞のステント治療はこれまで世界で7例の報告がありますが、すべて高血圧や腎不全の改善を目的としたものでした。今回、難治性心不全の治療として 腎動脈閉塞のカテーテル治療を行いました。

(図1)腎動脈の動脈硬化と心不全の関係 (図1)腎動脈の動脈硬化と心不全の関係
腎動脈に狭窄や閉塞があると、血圧が不安定に
なり、また水分や老廃物が溜まりやすくなり心不全を発症する。

治療手法と成果

呼吸困難の症状を繰り返し、薬物療法にも抵抗性の心不全のために入院されていた60代女性が右腎動脈完全閉塞を合併していることが判明しました。心機能は保たれている一方で心不全薬からの離脱が困難であることから、心臓以外の因子、特に右腎動脈閉塞が血圧・体液量調節に悪影響を及ぼし心不全増悪に強く関与していると考えられました。右腎に退廃はなく、閉塞より末梢の血流も確認されたため、この患者に対し、近年急速に進歩しているガイドワイヤーや血管内手技を用いることで閉塞していた腎動脈を再開通させるステント治療を行いました(図2)。その結果、腎動脈を開大した直後から尿量が十分に得られるようになり心不全は速やかに改善しました。治療後4日目に退院可能となり、現在まで9ヶ月間心不全発作なく経過されています。

(図2)腎動脈ステント治療前後

右腎動脈は閉塞し(→)、その先には側副血行路を介して血流が認められた。胸部レントゲン写真では心臓の拡大と胸水貯留を認めた。ステント治療後は、1日で6リットル以上の尿量が得られ、3日後には体重が3kg減少、治療4日後に退院となった。
腎動脈閉塞の解除により、血圧のコントロールが得られるようになり、また水分や老廃物の排泄が回復したことがこのように速やかな心不全改善をもたらしたものと考えられる。


今後の展望と課題

本症例から、難治性心不全患者においても腎動脈の動脈硬化の合併を評価することの重要性が示唆されました。また、薬物治療が奏効しない場合には腎動脈の閉塞した重症患者さんに対してもステント治療という新たな治療の選択肢を提供していきたいと考えています。

最終更新日 2015年10月21日

最終更新日:2021年09月26日

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