国立循環器病研究センター

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広報活動

家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体の予後悪化に関与する遺伝子変異型が判明

令和3年2月22日
国立循環器病研究センター

家族性高コレステロール血症において、脂質代謝異常に関与する2つの遺伝子変異型を有する症例は、心筋梗塞などの動脈硬化性心血管疾患発症リスクが顕著に高いことを、国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:小川久雄、略称:国循)の心臓血管内科 土井 貴仁 研修生、心臓血管内科部 冠疾患科 片岡 有 医長、野口 暉夫 副院長、研究所 病態ゲノム医学部 堀 美香 客員研究員、研究責任者の研究所 分子病態部 斯波 真理子 シニア研究員らが報告しました。この研究結果は、アメリカ心臓病協会英文機関誌「Journal of the American Heart Association」オンライン版に、2021年2月3日に掲載されました。

背景

家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体(FH)は、高LDLコレステロール血症、早発性冠動脈疾患、腱・皮膚結節性黄色腫を主な特徴とする常染色体性遺伝子疾患です。FHを引き起こす主な原因遺伝子変異として、LDL受容体遺伝子変異、PCSK9遺伝子変異の関与が報告されてきましたが、FHの臨床予後と遺伝子変異の関係については十分に検証されていませんでした。FHは、極めて心血管リスクの高い病気ではありますが、一方で、若年齢より心血管疾患を引き起こす例から、比較的高齢まで引き起こさない例もあり、FHにおける高リスク群を正確に選ぶことが重要だと考えられています。そこで今回、FHにおける遺伝子変異の種類と、その予後についての関係を検討しました。

研究手法と成果

国立循環器病研究センターにおける遺伝子解析にてFHを起こしうる遺伝子異常をもつFHの患者232例を解析しました。全症例の80%においてLDL受容体遺伝子変異、14%にPCSK9遺伝子変異を認めました。残りの6%のFH症例は、LDL受容体遺伝子変異とPCSK9遺伝子変異の両方を有していました。これらの2つの遺伝子変異(LDL受容体遺伝子変異+PCSK9遺伝子変異)を有するFH症例は、診断時(未治療時)において顕著な高LDLコレステロール血症を呈しており、高用量スタチンやPCSK9阻害剤を用いた強力な脂質低下療法が高頻度に使用されていました。その結果として、治療後のLDLコレステロール値は他のFH症例に比して低値でした。しかしながら、観察期間中、2つの遺伝子変異を有するFH症例において心筋梗塞が高率に発症していました(ハザード比=3.21, 95%信頼区間1.20-7.20, p値=0.02: 図1)。特に、2つの遺伝子変異を有する男性のFH症例では、心筋梗塞の発生率は86%と著明に高率であることも確認されました (図2)。これらのことから、遺伝子解析により、FHの診断を下すことができるとともに、FHの予後予測も可能になったと考えられます。

今後の展望と課題

生体内におけるLDL代謝に影響を及ぼすLDL受容体遺伝子変異ならびにPCSK9遺伝子変異は、FH発症における主要な原因遺伝子変異です。研究責任者の研究所 分子病態部 斯波 真理子 シニア研究員、病態ゲノム医学部 堀 美香 客員研究員は、2016年にPCSK9遺伝子変異の1つであるV4I変異のみ有するFH症例は、LDLコレステロール値や冠動脈疾患の合併に影響を及ぼさなかったが、LDL受容体遺伝子変異とPCSK9 V4I変異の両方を有する場合、高LDLコレステロール値ならびに冠動脈疾患合併率が増加することを報告しました(J Clin lipidol.2016;10:547-55)。この研究成果から、LDL受容体遺伝子変異とPCSK9遺伝子変異を有する場合にFHの病態が大きく修飾される可能性が考えられました。今回発表した研究では、V4I変異以外のPCSK9遺伝子変異型も含めて予後解析を行い、2つの遺伝子変異を有するFH症例における心筋梗塞や冠血行再建実施が有意に高率であることが判明しました。脂質低下療法の施行等の因子を調整しても、上記関係は依然として有意差を認めました。本研究結果からは、FHにおける遺伝子検査の重要性、特に、遺伝子検査により同定される2つの遺伝子変異を有するFHは、極めて高いリスクを有すると考えられました。更に、遺伝子検査を行うことにより、FHの心血管リスクを評価し、適切な脂質管理用法の選択・導入につながることも示唆されます。今後は、このような高リスクFHに対する有効な治療アプローチの確立を目指し研究を進めていく予定です。

発表論文情報

著者:Takahito Doi#, Mika Hori#, Mariko Harada-Shiba, Yu Kataoka, et al. (#: equal contribution)
題名:Patients with LDLR and PCSK9 Gene Variants Experienced Higher Incidence of Cardiovascular Outcomes in Heterozygous Familial Hypercholesterolemia
掲載誌:Journal of the American Heart Association

謝辞

本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。
・厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業 原発性高脂血症に関する調査研究(H26-nanji-ippan-056, H30-nanji-ippan-003)
・文部科学省科学研究費補助金(JP17K08681)
・AMED 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業 (16ek0210075h0001)
・循環器病研究開発費(28-2-2; 29-6-11)
・Japan Heart Foundation & Astellas Grant for Research on Atherosclerosis Update
・武田科学振興財団
・日本循環器学会

<図>
(図1)


(図2)

最終更新日 2021年02月22日

最終更新日:2021年09月26日

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