広報活動
新型コロナウイルス感染患者の急性期脳梗塞診療:世界の研究者が経験をまじえて分担執筆
令和2年5月7日
国立循環器病研究センター
国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:小川久雄、略称:国循)の豊田一則 副院長を含めた世界18か国の臨床脳卒中医家が、現時点での経験や文献資料、報道資料などに基づいて、新型コロナウイルス COVID-19の感染者および感染疑い患者が脳卒中を発症した場合の診療の要点を纏めました。この総説論文は、世界脳卒中機構(World Stroke Organization)の機関誌であるInternational Journl of Stroke電子版に令和2年5月3日付で掲載されました。
執筆の経緯
COVID-19感染症は現在世界各国で猛威を奮い、終息の見通しは未だ立っていません。感染患者の爆発的増加は各地で医療崩壊を招き、感染症以外の救急疾患である脳卒中や心臓・血管疾患の診療にも、大きな支障が生じています。
今回、米国ミズーリ大学脳神経内科のAdnan Qureshi教授が世界の研究者仲間に呼びかけ、米国をはじめイタリア、スペイン、ドイツ、中国、韓国、インド、イランなど多数の患者を経験した世界5大陸18か国の24名の臨床脳卒中医家が、現在の危機的状況における脳卒中診療のノウハウを執筆し、共著者皆の合意を得て発表しました。
内容
この総説では、全体を18章に分けて、COVID-19の感染者および感染疑い患者を診療する際の注意点を記しています。
冒頭の章でCOVID-19感染者における急性期脳卒中発症率を、中国武漢からの報告に基づいて4.9%(95%信頼区間 2.8-8.7%)と推測しています。5月6日時点で世界全体の患者数は350万人を超えましたので、推測値を単純に当てはめれば脳卒中患者はそのうち約17万人を占めます。一般に呼吸器疾患に罹った初期の3日間に脳卒中発症リスクが3.2~7.8倍増えると報告されており、とくに高齢のCOVID-19感染患者が重症化しやすい点も考え併せると、COVID-19感染患者の脳卒中併発を十分に注意する必要があります。
次章以降も脳卒中医療チームの感染危険、危険回避のための防御法、画像診断や静注血栓溶解、機械的血栓回収治療、急性期抗血栓療法、重症例の呼吸管理などにおけるの留意点を、記載しています。とくに機械的血栓回収に関連して、麻酔管理や血管造影室使用時の注意点を、詳述しています。
COVID-19感染者における急性期脳卒中に精通した医師は、およそ未だ世界のどこにも存在しないでしょう。共著者皆が短時間に情報を集めて執筆し、いったんは20000語超に膨れ上がった原稿を3分の1に縮めて、世界の臨床医家に送るメッセージとしました。この内容が日本の医療の現状に沿うか、自信のない点もあります。COVID-19への不十分な情報に悩みながら現場で脳卒中医療を守る医療者に、少しでも参考になればと、この総説論文を紹介させていただきました。
論文情報
題名: Management of Acute Ischemic Stroke in Patients with COVID-19 Infection: Report of an International Panel.
著者: Qureshi AI, Abd-Allah F, ..., Toyoda K, 他 (24名)
掲載誌: International Journl of Stroke
最終更新日 2020年5月7日
最終更新日:2021年09月26日