国立循環器病研究センター

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適切な高血圧予防・治療により脳梗塞発症時に血流が途絶えにくくなる

2019年6月12日
国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(略称:国循)脳血管内科・脳卒中集中治療科の藤田恭平医師(現 東京医科歯科大学)、田中寛大医師、山上宏医長、古賀政利部長、豊田一則副院長らの研究チームは、脳梗塞発症時の側副血行(注1)発達に高血圧が影響することを明らかにしました。本研究成果は、米国心臓病協会の医学雑誌「Stroke」に平成31年5月16日(現地時間)に電子掲載されました。

研究の背景

脳梗塞は、脳に栄養を送る血管が閉塞することで麻痺や言語障害などの神経症状が現れる病気です。特に脳の太い血管(脳主幹動脈)が閉塞すると重症になりますが、この時他の血管から脳軟膜動脈を介して脳主幹動脈の血流を助ける側副血行が発達します。良好な側副血行ができると、急性期脳梗塞の治療において発展した静注血栓溶解療法やカテーテルを用いた血管内治療といった再開通療法の効果がより高まります。

側副血行の発達の程度は個人差が大きく、発達の機序や要因を明らかにすることで再開通療法の恩恵を受けられる症例を増やし、脳梗塞後の障害を軽減する治療法の開発につながる可能性があります。過去の動物実験では脳梗塞発症前に慢性高血圧を有していると側副血行の発達が不良になることが報告されていましたが、実臨床における高血圧症と側副血行の関連については検証されていませんでした。

研究手法と成果

本研究では、2011年から2017年に国循に入院した脳梗塞患者3,759名のうち、発症から24時間以内の脳血管造影検査で側副血行を評価し、かつ脳主幹動脈のひとつである中大脳動脈の主幹部が閉塞した100例を対象としました。対象症例を側副血行の不良群(39名)と良好群(61名)に分類し、それぞれについて脳梗塞発症前の高血圧症の有無や降圧薬の内服歴、脳梗塞発症3ヶ月後の転帰などについて解析しました。

その結果、不良群のうち30名(77%)、良好群のうち29名(48%)が脳梗塞発症前から高血圧症を指摘されていました。側副血行の発達に影響を与えると過去に報告されているリスク因子で調整した多変量解析(注2)より、高血圧症が中大脳動脈閉塞時の側副血行不良の独立したリスク因子であることが明らかになりました(表)。さらに、高血圧症を有する患者のなかでも、降圧薬を内服していない患者の方が側副血行は不良であり、降圧薬によって側副血行が改善される可能性が示されました(図)。また、側副血行不良群の方が発症3ヶ月後の後遺障害の程度が強い傾向も示されました。

今後の展望と課題

本研究から、日々の血圧を管理して高血圧症を予防すること、高血圧症を発症しても降圧薬をきちんと内服することで、脳梗塞発症時の血流途絶に伴う代償機構が働きやすくなることが示されました。高血圧症の罹患期間や降圧薬の種類による側副血行への影響については調査が不十分であるため、今後の検討が必要です。

<注釈>

(注1)側副血行
血管が詰まったり狭くなったりした時に、血流を補うために普段は使われていない周辺の動脈を通じて自然にできるバイパス。

(注2)多変量解析
ある事象(本研究の場合は脳梗塞に伴う側副血行の発達)の発生と、それに影響を与える様々な要因の因果関係を包括的に解析したもの。一方、単変量解析(表参照)はある事象とそれぞれの要因の関係を別に解析したもの。

<図表>

(表)側副血行不良の予測因子の解析
高血圧症を有する患者では、脳梗塞発症時の側副血行が不良となるリスクが、高血圧症がない患者と比較して2.8倍高くなる。

※オッズ比:ある状態になる確率をそうでない確率で割ったもの(オッズ)を調べたい群と対照群のそれぞれで算出し、比較したもの。


(図)高血圧症または降圧薬内服の有無と、側副血行の比較
側副血行不良群の割合は、高血圧症のない患者<降圧薬を内服している高血圧症患者<降圧薬を内服していない高血圧症患者、の順に段階的に増加する。

最終更新日 2019年06月12日

最終更新日:2021年09月26日

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