広報活動
急性期脳梗塞への静注血栓溶解(rt-PA)療法の新ルール ―日本脳卒中学会による適正治療指針改訂―
2019年3月29日
国立循環器病研究センター
遺伝子組み換え組織型プラスミノゲン・アクティベータ(recombinant tissue-type plasminogen activator: rt-PA)であるアルテプラーゼを用いた、急性期脳梗塞患者に対する静注血栓溶解療法は、良好な治療効果が示され、国内外で広く普及しています。静注血栓溶解療法への最新の推奨を採り入れた「静注血栓溶解(rt-PA)療法 適正治療指針 第三版(2019年3月)」が、日本脳卒中学会によって作成され、2019年3月27日に同学会のHP<http://www.jsts.gr.jp/img/rt-PA03.pdf>に公表されました。国立循環器病研究センター(略称:国循)に本指針の改訂にあたる部会の事務局が置かれ、豊田一則副院長が部会長となって自、他施設から選ばれた指針作成委員と作業に当たりました。
背景
脳梗塞は世界各国で死因の上位を占める重大な疾患です。脳梗塞・脳出血・くも膜下出血の総称である脳卒中はわが国の死因の第3位、要介護原因の第1位となる重大な疾患です。脳卒中を取り巻く諸問題の解決を目指して、「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」(いわゆる脳卒中・循環器病対策基本法)が昨年末に公布されました。このため今後は脳卒中診療指針の整備なども速やかに進める必要があります。以上の事情から、このたび「静注血栓溶解(rt-PA)療法 適正治療指針」(旧:rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法適正治療指針)について2005年の第一版、2012年の第二版に次ぎ全面的に改訂いたしました。
主な改訂点とその臨床的意義
今回の改訂の要点として、以下の3点が挙げられます。
- 従来は、脳梗塞発症から4.5時間以内に静注血栓溶解療法を始めることが、治療の有効性と安全性を考慮した上での鉄則でした。睡眠中発症や発症時同伴者不在のため発症時刻が明らかでない場合は、「無症状であることが最後に確認された時刻(睡眠中発症例では、就床した時刻)」から4.5時間以内の治療開始が求められ、このようなタイプの脳梗塞患者への静注血栓溶解療法施行はほぼ不可能でした。今回、欧州で行われた臨床試験(WAKE-UP試験)の試験結果に基づいて、MRIを用いて発症から4.5時間以内と推定できる所見(いわゆるDWI/FLAIRミスマッチ[図1])を得た場合は、静注血栓溶解療法の施行を考慮しても良いという、推奨を増やしました[図2]。MRIの撮影方法や、治療法選択の判断の詳しい方法は、指針をお読みください。なお、この推奨は海外の一つの試験結果のみに基づくもので、推奨グレードは高くありません。国内外で同様の試験が行われており、これらの最終結果を待って、より科学性の高い推奨グレードへの改訂を目指します。
- 抗血栓薬投与中、とくに抗凝固療法中の患者には、静注血栓溶解療法の選択を慎重に検討する必要があります。近年新規薬剤の開発とともに事情が様変わりしつつある抗凝固療法中の患者への治療法選択について、2017年に日本脳卒中学会が公表した「抗凝固療法中患者への脳梗塞急性期再開通治療に関する推奨」の内容を採り入れ、大幅に改変しました。
- 急性期脳梗塞患者への血管内治療は、日進月歩で新たな知見が現れています。2018年に公表された「経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針 第三版」(日本脳卒中学会、日本脳神経外科学会、日本脳神経血管内治療学会 三学会合同指針作成委員会)と連動させて、静注血栓溶解療法と機械的血栓回収療法を組み合わせて行う場合の推奨を、書き直しました。
他にも、この数年間に国内外で蓄積された新たな科学的根拠や実践的情報をもとに、全編を見直し、より現実に即した治療指針となるよう修正が行われました。新たな推奨の中でも、とくに①の発症時刻不明脳梗塞への治療推奨は、これまで対象外とされていた症例でも静注血栓溶解療法の実施を検討する可能性を高めるものですが、MRIでの慎重な治療法選択の判断が必要です。発症時刻不明脳梗塞患者の一部は、従来から静注血栓溶解療法を行わずに機械的血栓回収療法を直接受けることも可能でしたから、医療者は指針を十分に理解した上で、この二つの治療、あるいは他の従来内科治療の適切な組み合わせを考える必要があります。
国循のチームでは、2019年度に発症時刻不明脳梗塞患者への静注血栓溶解療法の治療実態を調べる調査研究を計画中です。
<図>
(Koga M, et al for THAWS investigators. Int J Stroke. 2014 Dec;9(8):1117-24.より)
最終更新日 2019年03月29日
最終更新日:2021年09月26日