国立循環器病研究センター

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足潰瘍・壊疽患者のカテーテル治療による血流変化を検証~安全・確実で効果的なカテーテル治療の普及に期待~

平成26年8月25日

国立循環器病研究センター(略称:国循)血管科の河原田修身医長らの研究チームは、動脈硬化による足の潰瘍や壊疽の患者においてカテーテル治療によって足背(足の甲)と足底(足の裏)にどのような血流改善効果をもたらすかを微小循環の観点から明らかにしました。本研究成果は、専門誌「Circulation: Cardiovascular Interventions」に8月20日(日本時間)付で掲載されました。

形成外科の領域ではもともと"アンジオサム"という概念があります。これはオーストラリアの形成外科医Taylorによって提唱されたもので、体の中で各動脈が支配する皮膚や筋肉、骨など"3次元的"な領域を示します。形成外科で頻繁に行われる皮弁(血流のある皮膚・皮下組織や深部組織の移植)手術において術後の生着のためには十分な血流が必要であるため、アンジオサムの概念にもとづいて手術を行うことが重要とされています。
近年、動脈硬化による足の潰瘍や壊死の治療でも皮膚上の"2次元的"な地図としてアンジオサム概念が登場しました。膝下には主に3本の動脈があり、特に前脛骨動脈と後脛骨動脈の2本が重要とされています(図1)。2次元的アンジオサム理論では、前脛骨動脈の支配領域である足背側に傷がある場合には前脛骨動脈を、後脛骨動脈の支配領域である足底側に傷がある場合には後脛骨動脈を治療する必要があります(図2)が、実臨床でのこの理論の有用性については一定の見解を得ていません。

当センターでは足の潰瘍や壊疽の患者の日常診療の一貫として膝下動脈治療前後で足背と足底にレーザードプラー血流計をあてて微小循環の指標である皮膚潅流圧(skin perfusion pressure: SPP)を測定しており、今回後ろ向きにSPPの変化を評価検討しました。その結果、理論通りの変化を示したのは約半数のみで、前脛骨・後脛骨のカテーテル治療に関わらず足背や足底に同等な血流改善効果(SPPの増加)を示し(図3)、実臨床では必ずしも理論上の2次元的アンジオサムに従わない結果を認めました。この理由の一つとして足の潰瘍や壊疽の患者では各動脈を結ぶネットワークの存在があげられ、多くの場合、1本の脛骨動脈の治療だけで足全体の血流が改善するものと考えられます(図4)。
本研究の結果から、足の潰瘍や壊疽の患者でのカテーテル治療では"アンジオサム"に固執することなく、まず技術的に安全確実に治療可能と考えられる動脈を治療し、少なくとも1本の血管"one straight-line flow"を確立することが重要といえます。また、それでも不十分な場合には追加のカテーテル治療を段階的に考慮することが望ましく、このような取り組みが質の高いカテーテル治療の提供につながると考えられます。

※この報道資料は、大阪科学・大学記者クラブ、その他の報道関係者の皆様にお届けしています。

(図1)膝下動脈(右側)

前脛骨動脈は膝下の外側から足背部へ、後脛骨動脈は膝下の内側から足底部へ走行する。

(図2)2次元的なアンジオサム

2次元的アンジオサムによると理論的には、足背は前脛骨動脈、足底は後脛骨動脈の支配領域とされている。

(図3)膝下動脈治療による足の皮膚潅流圧(SPP)に対する効果

前脛骨動脈であれ後脛骨動脈であれ、脛骨動脈のカテーテル治療によって足背と足底ともに同等な血流改善を認めた。

(図4)健常例と足壊疽例における血流分布のイメージ

健常例では足の指の足底側は後脛骨動脈の支配領域と考えられる(A)。
後脛骨動脈が閉塞し第2足指の裏(足底側)に壊疽(→)を認める本例では、足部全体の動脈ネットワークにより足の指は前脛骨動脈支配となっている(B)。このケースでは足壊疽を完治させるために、前脛骨動脈の治療によって足の指の表(足背側)裏(足底側)ともに十分な血流改善が得られると考えられる。

最終更新日 2014年08月26日

最終更新日:2021年09月28日

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