広報活動
<糖尿病実態アンケート調査結果>約半数の患者さんが血糖管理目標に達していない
国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:橋本信夫、略称:国循)の岸本一郎糖尿病・代謝内科医長らの研究グループは、心臓病や脳卒中の高危険群である糖尿病の地域診療の現状を把握するため、豊能圏域糖尿病地域連携クリティカルパス検討会議と豊能圏域薬剤師会の協力を得て、平成23年12月から平成24年2月までの3ヶ月間に豊能2次医療圏の約350(吹田市125、豊中市120、箕面市52、池田市50)の調剤薬局に糖尿病薬の処方箋を持参した約1,000人の患者を対象として糖尿病実態アンケートを実施いたしました。この結果は8月30日発行の日本糖尿病学会雑誌「糖尿病」に掲載されました。
【調査結果の概要】
①約半数が血糖管理目標に達していない(注1) (注1)人口の約8%が糖尿病であるが、その半数が合併症を予防するために必要な血糖値の管理が出来ていない。 |
近年日本の糖尿病人口は年々増加傾向にあり、2011年には1,000万人以上と推定されています。糖尿病は、心筋梗塞や脳卒中、人工透析などのハイリスクグループであるため、その診療においてこれらの合併症をいかに予防してゆくかが重要です。しかし、糖尿病患者のうち、継続的に治療を受けているのは全体で約6割に過ぎず、専門医に通院して治療を受けている糖尿病患者でも目標値に沿って血糖管理をしなければ合併症が十分に予防できないことが懸念されています。
今回の調査で合併症を防止するための血糖コントロールが不十分であることが明らかになりました。今後は、地域での診療連携をさらに推進するとともに、自己管理に有用な糖尿病連携手帳の普及が必要であると考えられます。
【主な調査結果】
① 回答数
1,026人からアンケート回答を得た。
② 年齢
14歳から96歳まで平均67歳であった。
③ 性別
男性が63%、女性が37%であった。
④ 糖尿病通院歴
数ヶ月から49年まで平均10年であった。
⑤ 血糖コントロール状況
血糖管理指標であるHbA1c(NGSP)(注)の平均値は7.2%であった。日本糖尿病学会は、合併症予防のために、多くの糖尿病患者さんにおける血糖管理目標値をHbA1c 7% 未満とし、より良い血糖管理などを通じて糖尿病の合併症で悩む人々を減らす「熊本宣言2013(添付資料)」を本年5月に出しているが、今回の調査では、約半数が合併症予防のための血糖管理目標に達しておらず地域での糖尿病診療をさらに充実させる必要性が強く示されている。また、約1割の方は、血糖管理の重要な指標であるHbA1c値が不明であり自己管理が不十分であることが示唆されている。
*注 「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」は、過去1~2カ月の血糖値の平均を示す。糖尿病の診断や血糖コントロール状態の把握に使われる指標だが、日本糖尿病学会の方針で、平成24年度4月から国際基準の「NGSP」という数値に変わっている。これまでは日本独自の「JDS」という数値であったが、これに約0.4ポイント上乗せしたものが新しいHbA1c(NGSP)値になっている。
図 HbA1c(NGSP)各区分の割合(6.0%未満(血糖正常化を目指す際の目標)、7.0%未満(合併症予防のための目標)、8.0%未満(治療強化が困難な際の目標))
⑥ 年代毎血糖管理状況
また、HbA1c(NGSP)値が8.4%以上(調査時の分類(注)で"不可"の範囲)の割合は、60-64歳の年齢層で最も高くなっており、定年前後の世代に特に介入が必要であることが考えられる。70歳代以上では不可の割合は半減しており、糖尿病治療がより濃厚になっていることが推測される。さらに、50歳代前半までは不可の割合は少なく、糖尿病コントロールが加齢に伴って55歳から急激に悪化することが明らかである。
*注 現在では、治療強化が困難な場合の管理目標としてHbA1c 8.0%未満とされており、より低い値になっている。
⑦ 血糖管理自己把握状況
HbA1c値を把握していない割合は高齢者に多く、85歳以上では2割弱であった。高齢者の糖尿病診療では自己管理に限界があり、本人だけではなく周囲のサポートが必要であることが推察される。また、50歳未満の若年者においても自分の値を把握している度合が低く、糖尿病の通院治療を初めた当初においてしっかり糖尿病教育をうけることが重要であると思われる。
⑧ 眼科定期受診状況
糖尿病では網膜症の状態を把握するために少なくとも年に1回眼科を受診し、眼底検査を受けることが推奨されている。今回のアンケートでは、年1回以上眼科を受けられている方は約半数であり、32%が眼科を受診していないことが明らかとなった。地域での眼科との連携をさらに進めてゆく必要性が示唆された。
⑨ 糖尿病連携手帳所持状況
糖尿病は、かかりつけ医、病院、眼科、歯科、薬局などの地域における連携で診療してゆく必要があり、糖尿病連携手帳はこれら医療機関での診療情報共有に役立つ。さらに自己管理にも利用できる利点がある。しかしながら、今回のアンケートでは糖尿病連携手帳を活用している方は16%にとどまっており、さらに今後普及を推進してゆく必要性が明らかとなっている。
- 考察と対策 【pdf:280KB】
- 調査設計 【pdf:128KB】
- 設問票 【pdf:171KB】
- 設問票記入の手引き① 【pdf:160KB】
- 設問票記入の手引き② 【pdf:210KB】
- 糖尿病連携手帳啓発ポスター 【jpg:113KB】
最終更新日 2013年08月30日
最終更新日:2021年09月28日