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「NOTCH3バリアントの臨床的意義と情報提供のあり方に関する提言」を公表

遺伝性脳小血管病CADASILの診療・遺伝学的検査・情報提供の標準化に向けて

 

 国立研究開発法人国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の猪原匡史(国立循環器病研究センター副院長・脳神経内科部長)を委員長、齊藤聡(国立循環器病研究センター)を副委員長とする国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) 難治性疾患実用化研究事業「遺伝性脳小血管病CADASILの診療ガイドライン作成と新規治験プロトコル作成」班、革新的医療技術研究開発推進事業 (産学官共同型)「希少難病CADASILの画期的新薬創生のための国内研究拠点の構築」班、合同班NOTCH3遺伝子プロジェクトワーキンググループ(以下、本ワーキングループ)は、「NOTCH3バリアントの臨床的意義と情報提供のあり方に関する提言」を取りまとめ、2026年6月16日、日本脳血管・認知症学会のホームページで公表いたしました。

 本提言は、遺伝性脳小血管病CADASIL(cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy)の原因となるNOTCH3遺伝子のバリアント(変異)について、臨床的意義の解釈、遺伝学的検査の適応、患者・家族への情報提供、発症前検査、妊娠・出産に関わる論点、治療と管理の現時点での考え方などを整理したものです。NOTCH3遺伝子のバリアントに焦点をあてた提言はこれまでありませんでしたので、本提言は今後のCADASIL診療の重要な指針になると期待されています。

 

発表のポイント

  • NOTCH3遺伝子のバリアントの位置、システイン置換の有無などを踏まえ、各バリアントの病的意義を整理しました。
  • NOTCH3遺伝学的検査の適応、結果説明、発症前検査等に関する実務上の論点を明確化しました。
  • CADASIL患者やNOTCH3遺伝子の病的バリアント(病気の発症に関連する遺伝子の変化)の保因者への定期評価項目として、Montreal cognitive assessment(MoCA)などの神経心理検査や、T1強調画像、T2*強調画像、Arterial spin labeling(ASL)などのMRI検査の重要性が強調されました。

※本提言は下記リンクからダウンロードできます。
 NOTCH3バリアントの臨床的意義と情報提供のあり方に関する提言

CADASILとは

 CADASILは、NOTCH3遺伝子の病的バリアント(病気の発症に関連する遺伝子の変化)が原因となり、常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式で発症し、大脳白質病変を特徴とする遺伝性脳小血管病です (厚生労働省指定難病124)。日本国内には1,200人ほどのCADASIL患者が存在すると推定されてきましたが、最近の研究の進歩の結果、数万人以上のCADASIL患者が日本国内に存在する可能性が指摘されるようになりました。

 CADASIL患者は、典型的には20〜30歳頃に片頭痛を、30〜40歳頃に脳卒中(脳梗塞や脳出血)を、40〜50歳頃に認知症を発症し、脳梗塞を繰り返すと60歳前後で寝たきりとなり、65〜70歳前後で死亡することが多いと考えられてきました。しかしながら、日本国内には10歳代で脳卒中を発症したCADASIL患者の報告がある一方で、80歳代で認知症を発症していないCADASIL患者も少なからず報告されています。CADASILの原因となるNOTCH3遺伝子の病的バリアントは世界中で300種類以上の報告がありますが、バリアントの種類によってCADASILの経過が異なる可能性が指摘されています。

 

※CADASILに関しての詳しい説明は下記のリンクをご覧ください。
「脳小血管病情報ポータル https://hsvd-portal.com/

本提言の意義

 CADASILは希少難病であるため、豊富な診療経験を有する医師は未だ少ない、という問題があげられます。そこで本ワーキングループは、CADASILの診療・遺伝学的検査・情報提供の標準化を目指し、CADASILの原因となるNOTCH3遺伝子のバリアント(変異)についての知見を整理し、提言として発表いたしました。本提言では、NOTCH3バリアントの臨床的意義を、バリアントの位置やシステイン置換の有無だけで判断するのではなく、臨床症状、画像所見、家族歴、家系内表現型などを含めて総合的に解釈することの重要性が示されています。またNOTCH3バリアントについては、①システイン残基の数が変化する(システイン残基が1つ減る、あるいは1つ増える)システイン置換変異、②NOTCH3タンパク75番目のアミノ酸であるアルギニンがプロリンに変化するp.Arg75Proバリアント(詳細はこちらをご覧ください)、③その他のミスセンスバリアント(アミノ酸が変化する変異)、④両方のアレル(父母から受け継いだ2つの遺伝子のコピー)の機能喪失型バリアント(遺伝子が本来の働きを十分に果たせなくなるタイプの変化)、⑤片方のアレル(2つある遺伝子のコピーの一方)の機能喪失型バリアントに分類され、①と②のみがCADASIL(もしくは出血指向型CADASIL)の原因となる病的バリアントとして国際的なコンセンサスが得られている、と記載されました。このような整理が行われた本提言は、日本全国の医療現場において、NOTCH3遺伝学的検査の結果をどのように解釈し、患者さんやご家族にどのように説明するかを考えるうえでの実務的な指針になることが期待されます。

 また本提言内では、NOTCH3遺伝子の発症前遺伝学的検査については、CADASILの診療経験が豊富な脳神経内科専門医の診察と、遺伝カウンセリングの双方が可能な施設で、多職種連携のもと実施されることが望ましいと記載されました。検査を受けるかどうかは、医学的な利益だけでなく、本人や家族への心理的・社会的な影響も踏まえて考える必要があります。そのため、医療者が特定の選択を勧めるのではなく、本人が十分な情報を得たうえで自ら決められるよう支援することの重要性が強調されています。

 CADASIL患者やNOTCH3病的バリアントの保因者への定期評価項目として、Montreal cognitive assessment(MoCA)などの神経心理検査や、T1強調画像、T2*強調画像、Arterial spin labeling(ASL)などのMRI検査などの重要性が強調されました。これらの評価項目は、日常診療で病状を把握するために役立つだけでなく、今後、新しい治療薬の開発を進める際の治験デザインを考えるうえでも、重要な手がかりになると考えられます。

本提言の主な内容

  • NOTCH3遺伝子とタンパク質
  • NOTCH3バリアントとその病的意義
  • NOTCH3遺伝子の病的バリアントの位置および種類は、CADASILの臨床像の多様性と関連するか。
  • NOTCH3遺伝学的検査の適応は?
  • NOTCH3遺伝学的検査の結果を患者にどのように伝えるか。
  • CADASIL患者の血縁者に対する発症前遺伝学的検査は、どのように実施するのが適切か?
  • NOTCH3バリアントの妊娠・出産への影響
  • CADASILの治療と管理

後の展望

 NOTCH3バリアントの臨床的意義は、希少難病であるCADASILとの関連にとどまらず、より一般的な脳卒中、脳小血管病、認知症との関連へと広がりつつあります。本ワーキンググループでは、今後、本提言の内容を患者さんやご家族をはじめとする一般の方にもわかりやすく理解いただけるよう、一般向けに簡易化した資料を作成することが計画されています。さらに海外の研究者と連携して、英語版の提言の作成も計画されています。国循は、脳卒中・循環器病の克服に向け、専門的知見の発信、診療体制の充実、人材育成、研究推進を通じて、患者さんとご家族の尊厳と自律を支える社会的基盤の整備に貢献してまいります。

備考

 国立循環器病研究センター脳神経内科では、日本全国のCADASIL患者さんに、正確かつ最先端の情報を提供し、最適なCADASIL治療を提供するため、CADASIL外来を開設しています。CADASIL外来の詳細は下記のリンクをご覧ください。
https://www.ncvc.go.jp/hospital/topics/topics_32341/

謝辞

 本提言は、AMED難治性疾患実用化研究事業「遺伝性脳小血管病CADASILの診療ガイドライン作成と新規治験プロトコル作成」(代表:猪原匡史)、AMED革新的医療技術研究開発推進事業 (産学官共同型)「希少難病CADASILの画期的新薬創生のための国内研究拠点の構築」(代表:猪原匡史)からの資金的支援を受け作成されました。

NOTCH3遺伝子プロジェクト ワーキンググループ

  • 委員長:猪原匡史(国立循環器病研究センター)
  • 副委員長:齊藤聡(国立循環器病研究センター)
  • 委員:石山浩之(国立循環器病研究センター)、安藤昭一朗(新潟大学)、尾原知行(京都府立医科大学)、須田智(日本医科大学)、田中智貴(島根大学)、水田依久子(京都府立医科大学)

 

最終更新日:2026年06月26日

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