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肺循環科

対象疾患・治療法
肺動脈性肺高血圧症

肺動脈性肺高血圧症(PAH: Pulmonary arterial hypertension)

はじめに

肺動脈性肺高血圧症(PAH)「肺高血圧症」の中の一つの疾患で、様々な原因で非常に細かい肺動脈が狭くなり、肺の血圧が上昇(肺高血圧)し、右心不全を起こす難病です(肺高血圧症の全般的な解説はこちら)。1990年代までは治療がなかったため、死亡リスクの高い危険な病気でした。しかし、この病気の研究が進んで治療法が多く開発されてきており、様々な治療を使用していくことで専門施設において死亡リスクは次第に低下してきています。しかしこの病気の診療の十分な経験のある病院は今でも限られており、診断、治療には専門的な診療が必要な難しい難病であることに変わりはありません。国立循環器病研究センター肺循環科はこの疾患の根治を目指して40年近い長い歴史と、これまで国内最大の約1000例の肺動脈性肺高血圧症(PAH)患者さんを診療してきており、全国有数の経験をもとに今も多くの患者さんの命が救われています。これは多くの診療経験があるだけなく、当院が研究所等と患者さんにより良い治療の開発研究も行う最先端の診断、治療が行える施設であることも関係しています。今もこれからも患者さんが世界最高の診療が受けられる環境となることを目標として日々努力しています。

労作時の息切れや失神などがあれば早めに医療機関を受診し、今は「肺動脈性肺高血圧」はきちんと診断し、早く治療していけば元気になれる可能性が十分にあります。当院に受診希望がありましたら紹介や受診していただければ診断、治療を行います。当院受診等の相談がある場合は、おかかりの先生に相談いただいて当科を紹介していただいたり、どう受診したらいいかわからない場合は、この当科ホームページ内の肺循環科のインターネット相談等も活用いただければ幸いです。早く元気になれるようにいっしょに病気に立ち向かっていきましょう。

1.肺動脈性肺高血圧症とはどんな病気?

肺動脈性肺高血圧症(PAH)

肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension:PAH)は、肉眼では見えない非常に小さな肺動脈が、①肺動脈の血管収縮、②肺動脈壁の肥厚、③微小血栓症の3つのメカニズムで狭くなったり、詰って閉塞し、肺動脈圧があがり肺高血圧になる病気です。肺高血圧になると、肺動脈に血液を送っている右心室、右心房に負担がかかり右心不全になり、右心不全が悪化すると死亡のリスクが高くなります。治療しなければ2,3年で命を失う可能性がある危険な病気です。

小さな肺動脈にどうして異常が起こるのか、そのメカニズムは完全にはわかっていません。多くは特発性といわれる原因不明になりますが、遺伝や血管の炎症など様々な原因がかかわっていると考えられており、膠原病や生まれつきの心臓病、肝硬変等の門脈の圧力が高くなる病気など、いくつかの病気のある患者さんにも肺動脈性肺高血圧症が発症することがあります。

PAH患者さんの数は現在、全国で約5,000人程度です。原因にもよりますが比較的女性に多く、10-40歳台など若い人に多く発症しますが、50-70歳代の患者さんもおられます。早期発見、早期診断が難しく、治療がなされていないと数年以内に命を落とす可能性のある難病であり、厚生労働省の指定難病に指定されています。以前は有効な治療法がなく治療が困難な時代もありましたが、近年は治療薬の開発により、患者さんの死亡率は専門施設では大きく低下してきています。また現在も新たな薬剤や治療法の開発が進んでおり、今後さらなる治療の進歩が期待されています。大事なことの一つは早めの正確な診断、最新の適切な治療を行うことです。患者数が比較的少ない難病であるため、治療経験が豊富な専門施設での診断や治療が勧められます。
現在、肺高血圧症の治療薬として認可されている薬剤の多くは、PAHの治療を対象としています。

2.肺動脈性肺高血圧症(PAH)の原因はどんなものがありますか?

肺動脈性肺高血圧症(PAH)の発症原因は大きく4つに分かれます。

①特発性(原因不明)
検査などで色々と原因を調べてもわからない場合を「特発性」と呼びます。患者さんは10-40歳台の若い女性に比較的多い特徴があります。子どもでも発症することがあります。PAH患者さんの半数以上は特発性で、特発性といわれても特殊な状態と心配する必要はありません。他のPAHの原因と同じように治療可能です。

②遺伝性(遺伝子変異)
PAHの発症には遺伝子が関係することがあることがわかっています。

③薬物と毒物に伴うもの
ある種の薬剤、薬物(例:漢方薬の青薫)や毒物によって引き起こされる場合があります。

④他の疾患に関連するもの
免疫の異常によって起きる膠原病(例:強皮症、全身性エリテマトーデス、混合性結合組織病、シェーグレン症候群など)や肝臓の病気(例:肝硬変、門脈圧亢進症など)、HIV感染症、生まれつきの心臓病である先天性心疾患(例:心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、動脈管開存症など)などがあると、肺高血圧が合併して発症することがあります。また肺高血圧症を調べていて、これらの病気があることが初めてわかることがあります。

3.肺動脈性肺高血圧症(PAH)はどう治療するの?

肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、基本的に薬剤での治療が中心となります。この薬剤は、さまざまな肺高血圧症治療薬を中心として、補助的に利尿剤などの心不全治療薬、また合併する病気の治療薬があります。ほかには在宅酸素療法などの補助的な治療も必要になることがあります。これらの治療はPAHの原因や重症度など、ひとりひとりの患者さんの状態にあわせてベストと考えられる組み合わせで治療を行います。それぞれの治療薬の選択には意味があり、重篤な病状と考えられる場合には静脈注射も必要になる場合があります。また最近、PAHに対して肺動脈へのカテーテルアブレーション治療(肺動脈除神経術:肺動脈デナベーション)が開発されていますが、まだ保険診療にはなっていません。
肺高血圧症の一般的な説明はここをクリック→ 肺高血圧症とは

4.肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療薬はどんなものがあるの?

肺動脈性肺高血圧症(PAH)に対する治療薬として、下記の<代表的なPAH治療薬について>に記載してあるような肺血管を広げることをメインの作用とした、3種類の肺血管拡張薬、つまり①プロスタサイクリン(PGI2)製剤、②エンドセリン受容体拮抗薬、③ホスホジエステラーゼ-5型阻害薬と可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬がこの20年で多く開発され、有効な治療で一般的な標準治療となっています。また2025年に新しい作用の治療薬として肺血管の閉塞(リモデリング)を改善させることを目標とした肺血管リモデリング改善の薬剤であるアクチビンシグナル伝達阻害剤が登場し、肺血管拡張薬と合わせて現在4種類の標準的な治療薬が使用可能です。

また一部の特発性肺動脈性肺高血圧症の患者さんで、高血圧症の治療薬であるカルシウム拮抗薬が非常によく効く場合があります。カルシウム拮抗薬は高血圧症で使用されるので世界中で何百万人もの患者さんが普通にどの病院でも処方されるありふれた薬剤です。カルシウム拮抗薬が効くタイプの肺高血圧症かどうかは専門の施設でよく調べてもらう必要があります(当院はカルシウム拮抗薬が効く肺高血圧症を日本で最も多く診断しており、診断可能です)。

通常、PAHは1つの薬剤でコントロールするのが難しく、最初から複数の薬剤を組み合わせて開始したり、効果が不十分であれば他の治療薬の追加や、変更を検討します。さらに薬剤治療での効果が不十分の場合には、肺移植手術を検討することがあります。これらの多くの薬剤をどう使用していくかは国内、国外の治療指針に沿って、個々の患者さんの特徴や病状にあわせた選択をしていくことになります。PAH治療薬の開発は今も継続してすすんでおり、今後新しい作用の薬剤もでてくる予定です。
多数の薬剤の使用が難しい病状の患者さんには一つ一つの薬剤の効果や副作用をみながら治療することもあります。PAHの薬剤は多くでてきましたが、まだ根治はできない病気です。
薬剤をはじめたら終わりではなく、継続して経過をみながら病状にあわせて増量、追加、変更などを常に将来を見据えて経過をみていくことが必要で、多くの経験を持つ肺高血圧症の専門家との連携が重要になります。

<代表的なPAH治療薬について>

①プロスタサイクリン(PGI2)製剤(プロスタサイクリン経路の薬剤)

  • 静脈注射薬:エポプロステノール(フローラン®)、トレプロスチニル(トレプロスト®)。
    エポプロステノールに関しては下に詳細を記載
  • 皮下注射薬:トレプロスチニル(トレプロスト®)
  • 吸入薬:トレプロスチニル(トレプロスト®)
  • 内服薬:ベラプロスト(ドルナー®、プロサイリン®)、ベラプロスト徐放剤※(ケアロード®LA、ベラサス®LA)、セレキシパグ(ウプトラビ®)
    ※一定の服用で作用が続くように、治療薬からの薬物の放出の仕方が工夫された製剤。
②エンドセリン受容体拮抗薬(エンドセリン経路の薬剤)
ボセンタン(トラクリア®)、アンブリセンタン(ヴォリブリス)、マシテンタン(オプスミット®)

③ホスホジエステラーゼ-5阻害薬と可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬(NO-sGC-cGMP経路の薬剤)
シルデナフィル(レバチオ®)、タダラフィル(アドシルカ®)、リオシグアト(アデムパス®)

④アクチビンシグナル伝達阻害薬
エアウィン®(一般名:ソタテルセプト)。3週間に1回皮下注射する薬剤です。

(一部の患者さん)
⑤カルシウム拮抗薬

<エポプロステノール静脈注射療法の詳細説明>
1990年代までPAHは治療薬がなく、肺高血圧症の患者さんはなすすべもなく亡くなっていくという時代がありました。1990年代後半から様々な肺血管拡張薬が開発され肺動脈性肺高血圧症に効果があることがわかってきました。最初にエポプロステノール静脈注射(フローラン®、エポアクト®)がPAH患者さんの生命を改善させる劇的な効果があることが分かり、これまで多くの肺高血圧症患者さんを救命してきています。現在でもPAH患者さんでエポプロステノール持続注射療法は最も効果のある薬の一つで、中等度から重症な肺高血圧症患者さんの中心となる治療です。当院では今までに200人以上の在宅エポプロステノール持続注射の経験があり世界的にもトップレベルの経験をもとに、非常に良い治療効果を上げ、多くの患者さんを救命しています。またこのエポプロステノールはプロスタサイクリン製剤という治療薬剤の一つであり、プロスタサイクリン製剤は皮下注射薬、吸入薬、内服薬なども開発されておりますが、どれも同じ効果ではなく、病状にあわせて使用しています。エポプロステノールは単独で使用するより、診断初期からエポプロステノール持続静脈注射を内服薬と併用することでより強力な効果を示すことが報告されています。

図.エポプロステノール持続静注療法
エポプロステノール(PGI2)は極めて強力な肺血管拡張作用を有し、特発性・膠原病性肺高血圧症に対して最も効果が期待され、また実績もある肺高血圧症治療薬です。ただ、エポプロステノールは生体内の半減期が短く、実際の治療では皮下から鎖骨下静脈を介し右房近隣に留置した中心静脈カテーテルを通じて、正確に一定量の薬液を持続静注することが必要となります。
エポプロステノール持続静注療法

最終更新日:2026年01月28日

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