片迫先生は国循の専門修練医として赴任してから短い期間ではありますが、臨床医学の世界的な権威であるLancet誌の姉妹紙であるThe Lancet Regional Health – Western Pacificに、COVID-19パンデミックに対する非常事態宣言が院外心停止患者の予後を顕著に低下させた研究を発表しました。 私も臨床研究に長く携わっていますが、本論文には6人もの多くの査読者(通常は2-3人)が付き、かつ2週間以内に回答せよとの経験の無い要求でした。また編集局から、「この論文の内容に非常に興味がある」と異例のコメントをもらった事、そして何より片迫先生のユニークなデータ解釈に魅力を感じて何度もディスカッションして投稿に至りました。 研究ばかりでなく、臨床面においても日々のECMOやImpellaの管理など循環器集中治療医としての真摯な姿勢も含めて、若い医師が循環器専門医として成長していく軌跡を見事に体現してくれています。循環器集中治療医としての将来が楽しみです。
副院長/心臓血管内科部長 野口暉夫
◆国循での業績
論文
Aya Katasako, Yusuke Yoshikawa, Teruo Noguchi, Soshiro Ogata, Kunihiro Nishimura, Kenichi Tsujita, Kengo Kusano, Naohiro Yonemoto, Takanori Ikeda, Takahiro Nakashima, and Yoshio Tahara. Changes in neurological outcomes of out-of-hospital cardiac arrest during the COVID-19 pandemic in Japan: a population-based nationwide observational study. The Lancet Regional Health - Western Pacific. 2023;36:100771.
Aya Katasako, Kota Murai, Teruo Noguchi. Enhanced Stent Imaging-Guided Intravascular Lithotripsy for Calcified Lesion Adjacent to Previously Implanted Stents. JACC Intervention. Available online. Aug 09, 2023.
◆国循に来るまでと現在
私は九州の麻生飯塚病院で初期研修を行いました。
総合診療科として1年間の後期研修を行った後に、循環器内科へ転向、医師5年目の半年間を専攻医とし、医師6年目から国循に入職しました。
循環器集中治療に興味があったので、まずは心臓血管内科の様々な科をローテーションできるレジデントを選択しました。各科でそれぞれの疾患・病態、それを臨床の患者さんに落とし込むという考え方を、様々な視点から学べた経験は貴重でした。特に、肺循環科、移植医療部、小児循環器内科では、他の病院では診ることのできない多くの症例を経験させて頂きました。
現在は、その経験も活かして心臓血管系集中治療科(CCU)の専門修練医として勤務しています。
◆国循での生活
臨床業務では、重症な患者さんの全身管理の他にカテーテル検査・治療やカンファレンスなども多く忙しいですが、とても充実しています。
CCUではチーム制を導入しており、1チーム約5-6名の医師で患者さんを担当し、朝夕のチームカンファレンスで治療方針の確認を行っています。補助循環を導入した患者さんを担当した際には、チームの先生とベットサイドでスワンガンツの値を見ながら血行動態を評価したりします。他科との協議や併診を行う場面も多く、直接専門的な意見を伺うことができ、大変勉強になります。
重症患者さんを受け持つことが多いですが、休日はレジデント・専門修練医で割り振りを行い、休みが取りやすい環境も作っています。
通常、後期研修が終わると同年代の医師と同じ病院で働く機会は少なくなりますが、国循には全国から同じ志を持った循環器内科医が集っています。臨床だけでなく研究面でもお互い相談したり切磋琢磨したりできる関係であり、他では得られないかけがえのない財産だと思っています。
◆研究面について
私が国循に来て本当によかったと思えるのは、研究面で様々な刺激を得られたことです。
今年Lancetの姉妹誌に受理された論文は、新型コロナウイルス感染症に対して発出された緊急事態宣言後に、院外心停止患者に対するAED使用率が急激に低下し、神経学的転帰も悪化したことを明らかにしたものです。心臓血管集中治療科医長である田原先生に全国レジストリ解析の機会を頂き、副院長である野口先生に直接指導頂き、完成させました。また、統計解析の先生方には、自分の表現したい結果をITS解析という手法で示して頂きました。
特に記憶に残っているのは、野口先生に約半年間、論文の書き方から、Table, Figureの見せ方、査読者への返答の仕方といった細かいところまで、直接ご指導を頂いたことです。最初の査読者への返答は約40枚にも及び、期間も短かったことから、寝る間を惜しんで取り組みました。何度も厳しいRevisionを受けましたが、論文が受理された時は本当に嬉しかったです。
そして現在は、院外心停止の原因となりうる虚血性心疾患の中でも、動脈硬化症が冠動脈・頸動脈・下肢動脈など2つ以上の血管に波及する疾患:PolyVascular Disease(PolyVD)の動脈硬化症の特徴を解明し有効な治療対策に繋げるための研究に取り組んでいます。
この研究に着手するきっかけになったのは、現在研究を指導して頂いている片岡先生とともに、PolyVDを有し不良な臨床転帰を辿った2名の患者さんを担当した経験からです。自分の持つ臨床疑問を研究課題に落とし込み、実際に臨床研究に繋ぐことができる環境に、本当に感謝しています。この研究で研究費も獲得することができ、今年11月に行われる米国心臓病学会で研究成果を発表する予定です。
◆国循での研修を考えている先生方へ
元々臨床が好きで研究には全く興味が無かった私ですが、多くの機会を頂き、様々な経験をさせて頂いています。臨床と研究の両立は難しいですが、同期・指導して頂ける先生など、これ以上ない環境です。ぜひ一度、飛び込んでみてください。
◆論文指導医より一言
片迫先生は国循の専門修練医として赴任してから短い期間ではありますが、臨床医学の世界的な権威であるLancet誌の姉妹紙であるThe Lancet Regional Health – Western Pacificに、COVID-19パンデミックに対する非常事態宣言が院外心停止患者の予後を顕著に低下させた研究を発表しました。
私も臨床研究に長く携わっていますが、本論文には6人もの多くの査読者(通常は2-3人)が付き、かつ2週間以内に回答せよとの経験の無い要求でした。また編集局から、「この論文の内容に非常に興味がある」と異例のコメントをもらった事、そして何より片迫先生のユニークなデータ解釈に魅力を感じて何度もディスカッションして投稿に至りました。
研究ばかりでなく、臨床面においても日々のECMOやImpellaの管理など循環器集中治療医としての真摯な姿勢も含めて、若い医師が循環器専門医として成長していく軌跡を見事に体現してくれています。循環器集中治療医としての将来が楽しみです。
副院長/心臓血管内科部長 野口暉夫
◆国循での業績
論文
受賞歴
第43回心筋生検研究会、YIA 優秀賞
『新型コロナウイルスワクチン接種後に急性心筋炎を発症した2例. 』
片迫 彩、真玉 英生、片岡 有、雨宮 妃、松本 学、大郷 恵子、池田 善彦、森田 佳明、畠山 金太、野口 輝夫.
研究費