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脳梗塞は夏に多い?19年間で季節ごとの傾向は変わった?

―日本脳卒中データバンク22万例からみた脳梗塞と脳出血の季節変動―


近年、夏の暑さは厳しさを増しています。暑い日が続くと体調を崩しやすく、健康へのさまざまな影響が心配になります。「暑さが厳しくなるにつれて、夏に発症する脳梗塞も増えているのではないか」と考える方もいるでしょう。そこで今回は、脳梗塞がどの季節に多く、その傾向が時代とともにどのように変化しているのかについて、私たちの最新の研究成果をご紹介します。脳卒中には血管が詰まる脳梗塞以外に、脳の血管が破れる脳出血などがあります。今回は脳梗塞とあわせて脳出血の季節変動についても紹介します。



国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也)の脳血管内科 吉江智秀医長らの研究グループは、日本脳卒中データバンクに2005年から2023年までに登録された脳梗塞及び脳出血患者22万8,127例を解析し、脳梗塞と脳出血の季節変動と、その傾向が19年間にわたってどのように変化したかを検討しました。さらに、2020年以降、新型コロナウイルス感染症の流行により生活様式が大きく変化したことから、流行前後で季節変動の傾向に変化がみられたかについても検討しました。

その結果、脳梗塞全体では夏に多い傾向は認めず、季節差が小さいことが分かりました。この特徴は2005年から2023年まで大きく変化せず、近年になって夏の登録患者の割合が増える傾向も認められませんでした。脳梗塞を病型別にみると、心原性脳塞栓症は冬に多く、ラクナ梗塞は冬に少ない傾向など、病型により若干の傾向の違いが認められました。ただし、いずれも季節差は小さく、ラクナ梗塞では近年、明確な季節差を認めませんでした。また、新型コロナウイルス感染症の流行前後を比較しても、季節分布に大きな変化は認められませんでした。

この結果から、脳梗塞の予防は夏に限って重点的に行うのではなく、年間を通じて取り組むことが重要と考えられます。季節にかかわらず、高血圧、脂質異常症、糖尿病、心房細動などの危険因子を早期に発見し、適切に管理することが重要です。一方で脳出血はいずれの解析期間でも一貫して冬に多い傾向を認めました。高血圧は脳出血の重要な危険因子であり、血圧は一般に夏より冬に高くなることが知られています。年間を通じた血圧管理が重要ですが、脳出血の多い冬は特に血圧の変化に注意が必要です。

本研究の成果は、2026年2月に米国ニューオーリンズで開催されたInternational Stroke Conference 2026(ISC 2026)で発表され、2026年3月に発刊された『脳卒中データバンク2026』に掲載されました。


研究の詳細

・背景:脳卒中と季節の関係

脳卒中の発症頻度には季節差があることが国内外から報告されています。しかし、その傾向は脳卒中の病型、地域、気候、調査対象となった年代などによって異なります。

日本では、この20年間に猛暑の増加など、気候が大きく変化しました。また、2020年以降の新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、外出自粛や在宅勤務の普及など、生活様式にも大きな変化が生じました。このような気候や生活様式の変化によって、脳卒中の季節変動も変化した可能性があります。

そこで本研究では、日本脳卒中データバンクの長期間にわたる登録情報を用いて、脳梗塞と脳出血の季節変動が時代とともにどのように変化したかを検討しました。日本脳卒中データバンク(代表者:国立循環器病研究センター副院長 豊田一則)は、全国の参加医療機関から急性期脳卒中患者の臨床情報を収集・解析する国内多施設共同の患者登録事業です。

・方法

2005年1月から2023年12月までに日本脳卒中データバンクへ登録された脳梗塞18万1,377例と脳出血4万6,750例、合計22万8,127例を対象としました。

季節は、春を3~5月、夏を6~8月、秋を9~11月、冬を12~2月と定義しました。脳梗塞と脳出血に加え、脳梗塞については、心原性脳塞栓症、アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞の病型別にも季節分布を検討しました。

さらに、対象期間を2005~2009年、2010~2014年、2015~2019年、2020~2023年の4期間に分け、季節変動の経年的変化を調べました。年齢、性別、血管危険因子および登録施設の影響を考慮した統計解析も行いました。

・研究成果のポイント
  1. 脳梗塞全体の季節差は小さい
  2. 脳梗塞の登録患者数は、春4万6,266例、夏4万5,268例、秋4万4,257例、冬4万5,586例でした。統計学的には季節差を認めましたが、実際の患者数の差はわずかでした。この季節変動が少ない傾向は、年を経ても変化はありませんでした。

    過去の日本脳卒中データバンクの解析では、脳梗塞全体は夏に多い傾向が報告されていました。近年の気候変化に伴い、季節分布も変化している可能性が考えられましたが、今回の対象期間では、夏が最も多いという傾向は認められませでした。

  3. 脳出血は冬に多く、夏に少ない
  4. 脳出血は冬が1万3,046例と最も多く、夏は9,572例と最も少ない結果でした。夏の登録患者数は冬の約7割であり、脳梗塞と比べて明確な季節差が認められました。

    この「冬に多く、夏に少ない」という傾向は、2005年から2023年までを分けた4期間すべてで一貫して認められました。

  5. 脳梗塞の病型によって季節差が異なる
  6. 脳梗塞を病型別に解析すると、それぞれ異なる季節変動が認められました。

    心原性脳塞栓症は冬に最も多く、夏と秋に少ない傾向が認められました。この冬に多い傾向は経年的にわずかに強くなっていましたが、季節間の患者数の差は小さいものでした。

    アテローム血栓性脳梗塞には、明確な季節差を認めませんでした。

    ラクナ梗塞は冬に少ない傾向が認められました。患者数は夏に最も多かったものの、春や秋との差はわずかでした。この季節差は経年的に小さくなり、2020~2023年には有意な季節差を認めませんでした。

  7. 新型コロナウイルス感染症の流行前後で大きな変化はない
  8. 新型コロナウイルス感染症の流行が始まった2020年以降も、脳梗塞全体の季節差が小さいこと、脳出血が冬に多く夏に少ないことは、それ以前と同様でした。

    新型コロナウイルス感染症の流行により、外出自粛や在宅勤務などの生活様式の変化が生じましたが、今回の解析では、入院患者の季節分布に従来と異なる新たなパターンは認められませんでした。

    ただし、本研究で新型コロナウイルス感染症流行後として解析した期間は、2020~2023年の4年間に限られます。コロナ禍を契機とした生活様式の変化の一部はその後も定着している可能性があるため、2024年以降の登録情報も加え、脳卒中の季節変動を継続して検討する必要があります。

・この研究成果から分かること

本研究の結果、気候や生活様式が大きく変化した約20年間においても、脳出血が冬に多く夏に少ない傾向は持続していました。一方、脳梗塞全体の季節差は小さく、心原性脳塞栓症やラクナ梗塞など、病型によって異なる季節変動が認められました。

日本脳卒中データバンクは、病院を受診・入院した患者を対象とする登録研究であり、一般人口における脳卒中発症率を直接測定したものではありません。また、気温や生活様式の変化が季節差の原因であることを直接示すものではありません。しかし、全国の多施設から集積された大規模なデータであり、季節ごとの脳卒中診療体制や予防啓発を考えるうえで重要な参考情報となります。


掲載・発表情報

書籍

書名:脳卒中データバンク2026
編集:一般社団法人日本脳卒中データバンク
担当項目:第2部「日本脳卒中データバンクの大規模データが示す脳卒中診療の実態」Ⅰ.脳卒中全般「5.脳卒中の季節変動」
執筆者:吉江智秀
出版社:中山書店
発行日:2026年3月26日
ISBN:978-4-521-75173-3

国際学会発表

演題名:Temporal Trends in Seasonal Variation of Frequency for Ischemic Stroke and Intracerebral Hemorrhage Admissions in a Nationwide Japanese Registry, 2005–2023
著者:Tomohide Yoshie, Sohei Yoshimura, Kazunori Toyoda, Kaori Miwa, Shinichi Wada, Yoshihiro Miyamoto, Junji Miyazaki, Eiichiro Nagata, Shotai Kobayashi, Masatoshi Koga
学会:International Stroke Conference 2026
開催地:米国ルイジアナ州ニューオーリンズ


図の説明

図1:2005年から2023年までの脳梗塞と脳出血の季節別登録患者数
脳梗塞と脳出血の春夏秋冬別の患者数

図2:脳梗塞の病型別にみた季節別登録患者数

図3:脳梗塞(上図)および脳出血(下図)の季節変動の経年的変化
脳梗塞の季節変動の経年的変化 脳出血の季節変動の経年的変化

【報道機関からのお問い合わせ先】

国立研究開発法人国立循環器病研究センター
企画経営部 広報企画室
TEL:06-6170-1069(21120)
MAIL:kouhou@ml.ncvc.go.jp

最終更新日:2026年08月04日

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