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高齢心房細動患者における抗血小板薬併用、脳梗塞予防効果は認めず心血管死亡リスク増加の可能性

 

令和8(2026)年3月27日
国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の脳血管内科 鴨川徳彦医師、豊田一則副院長らを中心とした研究グループは、日本全国の75歳以上の高齢心房細動患者約3万人を対象とした大規模レジストリ(ANAFIE Registry: 研究代表 心臓血管研究所 山下武志名誉所長)を用いて、抗凝固薬*1 単独療法と抗血小板薬*2 併用療法が、臨床転帰に与える影響を検討しました。その結果、抗凝固薬に抗血小板薬を追加しても、脳梗塞や全身性塞栓症の予防効果は向上せず、重大な出血のリスクにも有意な差は認められませんでした。一方で、抗血小板薬を併用した場合には心血管死亡のリスクの有意な増加と関連していることが明らかとなりました。さらに、併用療法を必要とする患者においては、直接経口抗凝固薬(DOAC)はビタミンK拮抗薬(ワルファリン)と比較して、脳梗塞、頭蓋内出血、全死亡のリスクが低いことが示されました。本研究成果は、米国心臓協会誌 Journal of the American Heart Association (JAHA) に掲載されました。

【背景】

心房細動は加齢とともに増加する不整脈であり、特に75歳以上の高齢者では脳梗塞や全身性塞栓症のリスクが高いことが知られています。これらの予防には抗凝固薬が基本治療とされていますが、冠動脈疾患や動脈硬化性疾患を合併する患者では、抗血小板薬を併用することも少なくありません。しかし、高齢患者では出血リスクの増加や多疾患併存などの影響もあり、抗凝固薬と抗血小板薬の併用療法がもたらす利益とリスクのバランスについては、十分なエビデンスが確立されていません。特に、日本の高齢患者を対象とした大規模な実臨床データに基づく検討は限られていました。
ALL Nippon AF In Elderly (ANAFIE) Registryは、日本の実臨床における高齢非弁膜症性心房細動患者の抗凝固療法の実態および臨床転帰を明らかにすることを目的として実施された、75歳以上の非弁膜症性心房細動患者を対象とした全国多施設前向き研究です。本研究では、このANAFIE Registryのデータを用いて、抗凝固薬単独療法と抗血小板薬併用療法が臨床転帰に与える影響を検討しました。

【研究手法と成果】

本研究では、ANAFIE Registryに登録された75歳以上の非弁膜症性心房細動患者29,818例を対象に、抗凝固薬単独療法と抗血小板薬併用療法の臨床転帰を比較しました。登録時の治療内容に基づき両群に分類し、脳梗塞・全身性塞栓症、出血イベント、心血管イベントおよび死亡などの発生リスクを追跡・解析しました。その結果、抗血小板薬の併用は、脳梗塞や全身性塞栓症の発症リスクを低減せず(調整ハザード比[adjusted hazard ratio: aHR] 0.90 [95%信頼区間 0.73-1.12])、重大な出血のリスクにも有意な差を認めませんでした(aHR 1.00 [0.77-1.28])。一方で、抗血小板薬併用療法は心血管イベント*3(aHR 1.14 [1.03-1.27])および心血管死亡(aHR 1.29 [1.01-1.64])のリスク増加と関連していることが明らかとなりました。さらに、抗血小板薬併用療法を受けている患者において、直接経口抗凝固薬(DOAC)とワルファリンを比較したところ、DOACは脳梗塞・全身塞栓症(aHR 0.55 [0.38-0.80])、頭蓋内出血(aHR 0.52 [0.30-0.90])、全死亡(aHR 0.73 [0.58-0.91])のリスクが低いことが示されました。

【図1】

【今後の展望と課題】

本研究の結果は、高齢心房細動患者において抗血小板薬の併用が必ずしも臨床的利益をもたらさず、心血管死亡リスクの増加と関連する可能性を示しました。これらの結果から、抗血小板薬の追加は明確な適応がある場合に限定して慎重に検討すべきと考えられます。一方で、冠動脈疾患や動脈硬化性疾患を合併するなど、実臨床において併用療法が必要と判断される状況も存在します。したがって、抗血栓療法の選択にあたっては、個々の患者背景やリスクプロファイルを踏まえた上で、脳梗塞予防などの臨床的利益と出血・心血管リスクのバランスを慎重に評価することが重要です。また、本研究は観察研究であり、治療選択が患者背景に依存している可能性があるため、因果関係の解釈には限界があります。今後は、実臨床データと既存のエビデンスを統合しながら、高齢心房細動患者における最適な抗血栓療法の確立が求められます。

【注釈】

*1 抗凝固薬
血液が固まる一連の反応を抑制することで血液を固まりにくくし、血栓形成を防ぐ薬

*2 抗血小板薬
血小板の活性化や凝集を抑制することで血栓形成を防ぐ薬

*3 心血管イベント
脳卒中、心筋梗塞、虚血性心疾患に対する血行再建術(経皮的冠動脈インターベンションなど)、および入院を要する心不全

【発表論文情報】

著者:鴨川 徳彦、豊田 一則、山口 武典、井上 博、山下 武志、鈴木 信也、小林 裕明、三輪 佳織、吉村 壮平、井上 学、猪原 匡史、吾郷 哲朗、古賀 政利
題名:Impact of Combined Anticoagulant and Antiplatelet Therapy in Older Patients With Atrial Fibrillation: ANAFIE Subanalysis
掲載誌:Journal of the American Heart Association

【謝辞】

本研究は、第一三共株式会社により資金的支援を受け実施されました。

 

【報道機関からの問い合わせ先】 

国立循環器病研究センター 企画経営部広報企画室 水本・間嶋
TEL : 06-6170-1069(21120)  MAIL: kouhou@ml.ncvc.go.jp

最終更新日:2026年03月27日

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