トピックス
急性期脳卒中患者における垂直知覚障害の回復過程にみられる病変特異性
概要
脳卒中発症後に高頻度で合併する垂直知覚障害は、麻痺の有無にかかわらず身体が一側に傾くlateropulsion(側方突進現象)という症状を引き起こし、歩行リハビリテーションを著しく阻害する。しかし、その病態や回復過程に関する臨床知見は限られている。
脳血管リハビリテーション科の理学療法士・鎌田らは、2021年〜2023年に入院した急性期脳卒中患者704例を対象に、lateropulsion合併の有無と自覚的視性垂直位(subjective visual vertical: SVV)との関連、およびlateropulsion合併例におけるSVVの回復過程を責任病巣別に縦断的に検討した。その結果、lateropulsionの重症度(Scale for Contraversive Pushing, SCP)は病巣部位にかかわらずSVV偏位と関連する一方、SVVの回復過程はテント上病変とテント下病変で異なることが明らかとなった。
*テント上病変とは、大脳(大脳半球)に生じた脳卒中病変を指し、テント下病変とは、小脳や脳幹などの部位に生じた病変を指す。
研究のポイント
- 急性期脳卒中患者連続704例を対象とした縦断的観察研究
- Lateropulsionの重症度(SCP)と垂直知覚障害の客観的指標であるSVVとの関連を、責任病巣別(テント上病変・テント下病変)に検討
- LateropulsionとSVVの関係性は共通する一方、SVVの回復過程は病変特異的であることを解明
背景
Lateropulsionは、脳卒中後に生じる代表的な姿勢障害の一つであり、転倒リスクの増大や自立歩行獲得の遅延を通じて、機能予後の悪化と関連することが知られている。しかし、その多くは少数の横断的研究に基づく知見であり、その病態に即したリハビリテーション戦略は十分に確立されていない。Lateropulsionの病態には、前庭覚を中心とした垂直知覚障害が関与すると考えられており、その評価指標としてSVVが用いられている。本研究では、急性期脳卒中患者を対象に、lateropulsionの重症度指標であるSCPとSVVとの関連を明らかにするとともに、責任病巣別にlateropulsionおよびSVVの回復過程を縦断的に検討した。
研究成果
Lateropulsionの重症度指標であるSCPは、テント上病変およびテント下病変のいずれにおいてもSVV偏位の大きさと有意な正の相関を示し(図1)、発症後は経時的に軽快した(図2)。一方、lateropulsionを合併した症例におけるSVVの回復過程には病変特異性が認められた。テント下病変では発症後にSVVの有意な改善を認めたのに対し、テント上病変ではSVVの改善が乏しかった(図3)。垂直知覚は、視覚、前庭覚、体性感覚といった複数の感覚情報の統合により形成される。SVVは視覚情報を遮断した環境下で測定される評価であるため、テント下病変におけるSVVの改善は、主として前庭系障害の直接的回復を反映している可能性が高い。一方、SVVが改善しないにもかかわらずlateropulsionが軽快したテント上病変では、視覚情報を利用した代償的な姿勢制御戦略が回復に寄与している可能性がある。これらの知見は、病変特性に応じたリハビリテーション介入の重要性を示すものである。
出典:本論文を一部改変
出典:本論文を一部改変
出典:本論文を一部改変
≪参考≫
発表論文情報
著者:Masatoshi Kamada, Chiaki Yokota, Shunsuke Murata, Katsuaki Shimano, Daishi Doda, Koichi Ito
題名:Lateropulsion and visual vertical tilt after supra- and infratentorial stroke: a longitudinal study
掲載誌:Annals of Physical and Rehabilitation Medicine
DOI:10.1016/j.rehab.2026.102100
最終更新日:2026年03月23日