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日本人の家族性高コレステロール血症が、脳梗塞のリスクに

―アジアでの国際共同研究構築への基盤データに―

概要

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の服部頼都:認知症先制医療開発部特任部長/脳神経内科医長、猪原匡史:副院長・脳神経内科部長、西村邦宏:予防医学・疫学情報部部長、島根大学第三内科の長井篤教授、山口修平名誉教授、大阪医科薬科大学循環器センターの斯波真理子特務教授らは、国循を受診された家族性高コレステロール血症の患者とヘルスサイエンスセンター島根での脳ドック受診者を比較検討したところ、日本人における家族性高コレステロール血症が脳梗塞と頭蓋内動脈狭窄症注1)のリスクであることを明らかにしました。

研究のポイント

  • これまでの欧州からの報告では、家族性高コレステロール血症は脳血管障害のリスクであることは否定的であった。
  • 日本人の家族性高コレステロール血症においては、脳梗塞のリスクであることが明らかとなった。
  • さらに、日本人の家族性高コレステロール血症では、頭蓋内動脈狭窄症のリスクであることも判明し、頭蓋内動脈狭窄症も脳梗塞のリスクでした。

背景

家族性高コレステロール血症は、本邦でよくみられる遺伝性疾患の一つであり、日本で500人に1人、欧米では100~250人の1人の割合で発症します。この病気では、LDLR遺伝子変異、PCSK9遺伝子変異、APOB遺伝子変異のために、出生時から悪玉コレステロールであるLDLコレステロール値が高くなります。このため、患者は若い年齢で心筋梗塞・狭心症などの冠動脈疾患を発症するリスクが高いことから冠動脈疾患の予防を中心に診療されてきました。しかしながら、様々な欧州からの報告によって、同じ血管障害である脳血管障害(脳梗塞など)に対して家族性高コレステロール血症はリスクではない、と考えられてきました。
頭蓋内動脈狭窄症や脳小血管病では、欧米人よりもアジア人において有病率が高いことは広く知られているように、脳血管障害には人種差が存在します。したがって、日本人における家族性高コレステロール血症が、脳血管障害(脳梗塞や頭蓋内動脈狭窄症)のリスク因子となるか否かを検証することが、長年求められてきました。

研究成果

国立循環器病研究センター内分泌・脂質代謝内科を受診された家族性高コレステロール血症の患者とヘルスサイエンスセンター島根での脳ドック受診者の脳梗塞の罹患率を比較したところ、図1のように、家族性高コレステロール血症患者で脳梗塞の罹患率が高く、家族性高コレステロール血症は脳梗塞の独立したリスクであることが明らかになりました(ハザード比 5.83、95%信頼区間 2.03-16.77、p = 0.001)。

家族性高コレステロール血症患者では、脳梗塞の罹患率が高い

さらに、脳血管障害の1つである頭蓋内動脈狭窄症においても、家族性高コレステロール血症患者は大きなリスクであることが明らかとなりました。家族性高コレステロール血症患者において、脳MRAで診断された頭蓋内動脈狭窄症の保有率が高く、頭蓋内動脈狭窄症の独立したリスクであることが判明しました(中等度または高度の狭窄症:オッズ比 17.82、95%信頼区間 8.74-36.36、p < 0.001)(図2)。

家族性高コレステロール血症患者では、頭蓋内動脈狭窄症の有病率が高い

家族性高コレステロール血症患者さんに対して、冠動脈疾患の予防のみならず、脳卒中予防ももう1つの目標としなければなりません

今回の研究で、少なくとも日本人では、家族性高コレステロール血症は脳梗塞、頭蓋内動脈狭窄症のリスクであることが明らかとなりました。また、昨年のわれわれの研究においても、脳梗塞、脳出血の前駆病変である脳小血管病注2)のリスクであることも判明しました(Murata, et al. Stroke. 2025)。このことから、家族性高コレステロール血症の患者さんに対しては、冠動脈疾患のみならず脳梗塞、そして、認知症の一次予防も目標にするために、日常診療において、脳MRI撮影、他の血管危険因子(高血圧症、糖尿病など)のコントロールが重要と考えられます(図3)。

家族性高コレステロール診療において、脳卒中の一次予防も重要

アジアでの国際共同研究を構築しています

頭蓋内動脈狭窄症や脳小血管病では、欧米人よりもアジア人において有病率が高いことは広く知られているように、脳血管障害には人種差が存在するため、現在、アジアでの国際共同研究を構築しています。今後は、日本人のみならず、アジア人集団全体での家族性高コレステロール血症と脳血管障害との関係を検討していく予定です。

≪参考≫

注釈

注1)頭蓋内動脈狭窄症
脳に血液を送る頭の中の動脈(内頸動脈や中大脳動脈など)が動脈硬化などの原因で狭くなり、脳血流が不足して脳梗塞や一過性脳虚血発作を引き起こす疾患です。

注2)脳小血管病
脳小血管病は、脳の細い動脈・静脈や毛細血管が障害されることで、脳の循環や代謝の維持が難しくなり、脳に病変ができたり、脳の機能が低下する病態です。脳小血管病による脳病変は、加齢に伴って脳MRIで観察され、脳卒中のリスク因子であり、また、認知症の主要原因のひとつでもあります。脳MRIで見られる脳小血管病の病変としては、ラクナ、脳微小出血、大脳白質高信号域、血管周囲腔の拡大などが代表的です。

発表論文情報

著者:服部頼都、野田浩太郎、堀美香、中奥由里子、尾形宗士郎、村田博朗、西村邦宏、長井篤、山口修平、斯波真理子、猪原匡史
題名:Ischemic Stroke and Intracranial Large-Artery Disease Risk in Familial Hypercholesterolemia: A Prospective Japanese Study
掲載誌:Atherosclerosis
DOI:10.1016/j.atherosclerosis.2026.120674

研究実施機関

代表機関名:国立研究開発法人国立循環器病研究センター
代表者名(所属・役職):服部頼都(認知症先制医療開発部 特任部長・脳神経内科 医長)、猪原匡史(副院長・脳神経内科 部長)

研究参加者プロフィール

服部頼都:
2019年より国立循環器病研究センター脳神経内科医長、2024年より同認知症先制医療開発部特任部長を併任。基礎研究・臨床研究の両面から、脳血管障害、認知症のメカニズムを追求するとともに、橋渡しによる新規脳血管障害・認知症治療法の開発をも手掛けている。国際脳循環代謝学会理事。

猪原匡史:
2019年より国立循環器病研究センター脳神経内科部長、2025年より国立循環器病研究センター副院長。脳卒中と認知症の創薬研究に注力し、ペプチドホルモンによる創薬では実用化に近づいている。米国内科学会上級会員(FACP)、米国心臓協会フェロー(FAHA)として海外での招待講演多数。

最終更新日:2026年02月16日

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