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家族性高コレステロール血症患者では高Lp(a)血症が角膜輪やアキレス腱肥厚の出現に関与する
概要
本研究は、家族性高コレステロール血症(FH)の患者において、その特徴的な身体所見の存在がリポタンパク(a)[Lp(a)]値の上昇と関連し、将来の心血管疾患リスクの予測に有用かを明らかにすることを目的とした。484名のFH患者を対象とし、身体所見とLp(a)値の関係、および心血管イベントの発症との関連性を検討した。その結果、角膜輪とアキレス腱肥厚がLp(a)と有意に関連し、三者が揃った症例では心血管イベントの発症リスクが最も高いことが世界で初めて示された。本研究結果は、2025年3月の第89回日本循環器学会学術集会 Late breaking cohort studies にて発表された。
研究のポイント
- 角膜輪とアキレス腱の肥厚は、血中Lp(a)値の上昇と有意に関連していた。
- 角膜輪およびアキレス腱肥厚がともに存在し、かつLp(a)が30 mg/dL以上である患者は、将来の心血管イベントのリスクが最も高かった。
- 身体所見は、Lp(a)値を測定できない状況においても、リスク層別化の手がかりとなり得る。
背景
FHは、血中のLDLコレステロール値が著しく上昇し、若年からの心血管疾患発症リスクが高い遺伝性疾患である。コレステロールの結合組織への沈着は、角膜輪やアキレス腱の肥厚といった特徴的な身体所見として現れ、従来より診断の重要な手がかりとされてきた。一方、近年ではLp(a)が心血管疾患の独立した危険因子として注目されているが、日常診療においてその測定は必ずしも十分に普及していない。Lp(a)を構成するアポリポプロテイン(a)も結合組織に蓄積する性質を持つことから、FHにおける身体所見は、リポタンパク(a)の影響を受けている可能性があると考えられた。
研究成果
当センターで診療した日本人のFH患者484名を対象とした後ろ向き解析により、Lp(a)値と角膜輪およびアキレス腱の肥厚との関連性が検討された。心血管リスクが高まるとされるLp(a)値30 mg/dL以上の患者は32%におよび、この群では角膜輪を有する頻度が高く、アキレス腱厚も有意に増大していた。角膜輪を有し、かつアキレス腱の厚さが14.0 mm以上であった患者のうち56%がLp(a)値30 mg/dL以上を示していた。さらに、15年間の観察期間中、Lp(a)値が30 mg/dL以上かつ両身体所見を有する群では主要心血管イベント(心血管死亡+急性冠症候群+虚血性脳卒中)の発症率が25%に達しており、三者の併存が最も予後不良と関連していた。本研究はLp(a)値がFHに特徴的な身体所見に影響を与えることを世界で初めて報告したものである。これらの結果から、角膜輪およびアキレス腱肥厚の評価は、Lp(a)高値を示唆する臨床的手がかりとなり、両者を併せた観察は、心血管リスクの層別化や治療戦略の判断において相補的かつ有用な情報を提供することが示された。


発表論文情報
著者:Kota Murai, Yu Kataoka, Kausik K. Ray, Sayaka Funabashi, Mika Hori, Masatsune Ogura, Takahito Doi, Hisashi Makino, Teruo Noguchi, Mariko Harada-Shiba
題名:Corneal arcus and Achilles tendon thickness reflect circulating lipoprotein(a) levels in familial hypercholesterolemia: Implication for predicting future cardiovascular events
掲載誌:Journal of Clinical Lipidology
DOI:
最終更新日:2025年11月22日