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CHA₂DS₂-VASc scoreに基づいた適切なDOAC内服が血栓回収術に与える副次効果:J-ASPECT study and Close The Gap-Stroke program
国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の飯原弘二院長を研究代表者とする国内多施設共同の脳卒中患者登録事業J-ASPECT study及びClose The Gap-Stroke programのデータベースを用いて、脳卒中・循環器病次世代医療研究部の今岡幸弘医師、連乃駿医師、予防医学・疫学情報部の尾形宗士郎室長らがCHA2DS2-VASc scoreによる適切なDOACの予防内服が血栓回収術に副次的な効果をもたらすことを明らかにしました。この研究は、米国神経学会の機関誌「Annals of Clinical and Translational Neurology」に2024年10月9日に掲載されました。
背景
欧米のガイドラインでは心房細動 (AF)患者に対して、CHA2DS2-VASc scoreで脳梗塞発症高リスク患者には予防的DOACの導入が推奨されています。ガイドラインに則った適切なDOAC導入に加えて、血栓回収療法の発展が近年の脳梗塞の重症度・予後改善に大きく寄与していますが、術前抗凝固薬内服がCHA2DS2-VASc scoreとの関係の中でどのように血栓回収術に影響しているか明らかにされてませんでした。
研究手法と成果
第3期Close The Gap-Stroke(2018-2020年)に登録された国内353施設における血栓回収療法実施患者の中でAFの既往ないし術後AFが検出された全患者を対象としました。
患者全体でのCHA2DS2-VASc scoreと合併症や治療成績・予後の相関や、高リスク群と中・低リスク群の2群におけるwarfarin内服やDOAC内服が血栓回収術に与える効果を評価しました。
全6984症例中warfarin内服患者は780名(11.2%)、DOAC内服患者は1168名(16.7%)で、CHA2DS2-VASc score高リスク群は6046名(86.6%)が該当していました。
CHA2DS2-VASc scoreの上昇は抗凝固薬の有無に関係なく、血栓回収術後の症候性頭蓋内出血・死亡を有意に増加させる事が示された一方で、高リスク群患者においてはDOAC内服が有意に有効再開通(調整オッズ比[95%信頼区間], 1.27[1.00-1.61]])と完全再開通(1.30[1.10-1.53])の増加に相関していました。一方で中・低リスク群ではワーファリン・DOAC共に出血合併症や手術成績・予後には相関していませんでした。
一方でサブグループ解析ではトータルのCHA2DS2-VASc scoreによらず、うっ血性心不全/左室機能不全・75歳以上・女性による加点があればDOAC内服が有効再開通や完全再開通の増加と関係している事が示されました。
今後の展望と課題
CHA2DS2-VASc score 高リスク患者へのDOACの導入は脳梗塞の発症予防のみならず、主幹動脈閉塞発症時には血栓回収術時の再開通や完全再開通を増加させる副次効果を有する可能性が示されました。また、DOACの適応判断が悩まれる、中リスク患者においても、特定の因子(うっ血性心不全/左室機能不全・75歳以上・女性)を有する中リスク患者であれば、同様の副次効果が期待できる事が示され、DOAC導入を勧める際の補足的な根拠になりうる可能性を含んでいます。
今後本論文で示唆されたように、心房細動患者がDOACを予防的に内服する意義の1つとして、予防のみならず発症後の緊急治療においても治療成績を改善させる可能性があることを付加的価値として確立させるには、DOAC内服患者全体における主幹動脈閉塞の発生率も含む前向きでの検証が必要になると思われます。
発表論文情報
著者:Yukihiro Imaoka, M.D.; Nice Ren, M.D., Ph.D.; Soshiro Ogata, Ph.D., MHS.; Hirotoshi Imamura, M.D., Ph.D. (以上、国立循環器病研究センター); Yasuyuki Kaku, M.D., Ph.D. (熊本大学); Koichi Arimura, M.D., Ph.D. (九州大学); Shogo Watanabe, Ph.D.; Eri Kiyoshige, Ph.D., MHS.; Kunihiro Nishimura, M.D., Ph.D.; Syoji Kobashi, Ph.D.; Masafumi Ihara, M.D., Ph.D.7, (以上、国立循環器病研究センター); Kenji Kamiyama, M.D., Ph.D. (中村記念病院); Masafumi Morimoto, Ph.D. (横浜新都市脳神経外科病院); Tsuyoshi Ohta, M.D., Ph.D. (神戸市立医療センター中央市民病院); Hidenori Endo, M.D., Ph.D.(東北大学), Yuji Matsumaru, M.D., Ph.D.(筑波大学); Nobuyuki Sakai, Ph.D. (神戸市立医療センター中央市民病院・シミズ病院); Takanari Kitazono, M.D., Ph.D.(九州大学); Shigeru Fujimoto, M.D., Ph.D.(自治医科大学); Kuniaki Ogasawara, M.D., Ph.D. (岩手医科大学); Koji Iihara, M.D., Ph.D., (国立循環器病研究センター) on behalf of Close The Gap-Stroke, J-ASPECT Study Collaborators
題名:CHA2DS2-VASc Score and Prior Oral Anticoagulant Use on Endovascular Treatment for Acute Ischemic Stroke
掲載誌:Annals of Clinical and Translational Neurology
DOI:10.1002/acn3.52217
最終更新日:2024年10月11日